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さぬきうどんをCHAIN EATING! 〜怒濤編1

この紀行文は1997年(まだブーム前)にさぬきうどんを求めて家族で香川を彷徨った様子を長々と書きつづったもので、翌年に「うまひゃひゃさぬきうどん」という題名で出版された元原稿でもあります。四部構成になっていて、このページは【怒濤篇】のその1です。

【立志篇】12
【風雲篇】1234
【怒濤篇】123
【回天篇】1234





第二部までお読みの方々のなかには少なからず 「さとなおはオーバーに書きすぎなのではないか。たかがうどんがそこまでうまいものか」 という疑問をお持ちの方がいらっしゃるかもしれない。


まぁ第一部 【立志篇】を読んでいただければ、ボク自身長い間うどんというものを食べ物としてたいして重視していなかったということがわかっていただけると思う。

だいたいボクも香川に行くまでは断固たる「そば党」だったのである。

好きが高じて自分でそば打ちまではじめてしまったくらいである。
そして香川に行くまでは毎週のように「ゴッシゴッシヌンヌンタタタタンッ」とそばを打っていたのである。(そのへんのことについてはこちらにコラムを書いています)


でも。
でもでも、香川で本場のさぬきうどんを食べて以来、そば打ちにはどうも気が乗らない。

妻の優子も、「ねぇ今日はそばを打ってよ」とわりとせがんでいたのに、香川から帰ってきてからはじぇんじぇん言わない。

「今日のお昼はカトキチの冷凍うどんね。いい?」

反論を許さないその口調。
そしてそれに対してボクもまったく異論はないのである。

では、そば党からうどん党へ転向したのか?
それは違う。
そば党から「さぬきうどん党」に転向したのだ。
いまやボクは冷凍さぬきうどんの方が打ち立てのそばよりもうれしいカラダになってしまったのだ。あれほどそばが好きだったボクが、である。


さぬきうどんのこの快感に比べれば、そばの快感が「単調」に思われてしまうくらいなのだ。


そばの快感。
それは(独断だが)「香り」「コシ」「喉越し」そして「つゆとのバランス」であろう。

さぬきうどんの快感にはこれ以上のナニカがあるのだ。

前にも書いたように、あの歯ごたえは「コシ」とだけでは表現できない。
白身の刺身の歯ごたえを「コシ」と表現できないのと同じである。
だが、そういう細かい問題ではなくて、
それ以上の要素がさぬきうどんの快感には含まれているのである。


それはなんなのか・・・


さぬきうどんツアーの第二日目の朝いちに訪れた「山越」で、ボクはその要素に気がついた。
そう、さぬきうどんとはなにか、を慄然と悟ったのである。

そばの快感が単調に感じられるその快感の秘密とは…



ついに今日、このページでそのベールが剥がされるのである!!



と、
川口隊員のように(古っ!)大げさにもったいぶりつつ、
ようやく第三部 【怒濤篇】の始まりである。

 

■「山越」〜キング・オブ・サヌキチャン〜


時は1997年9月19日(金)。

昨日の強行軍がたたってか、8時に目覚ましが鳴り響いても3人ともピクともしない。

「う、もう、朝、か」
「……え? どこ?」

優子はたまに寝ぼける。眠りが深いせいなのか。

「ハワイだよ」
「そう……」

おーい! 納得するなってば!!



窓の外はくもっている。
ええと、今日は……そう、山越、谷川、山内、宮武、山下という宝の山を発掘に行くんだっけな。

「おい、朝飯ぬいて山越に行く予定だぞ! 起きろよ!」
「・・・・」

いかん、完全にハワイに行ってしまった。

 


『恐るべき』でもダントツの高評価である「山越(やまごえ)」は綾上町にある。

高松からだと国道32号をずっと南下。綾南町役場を越えて新羽床口という交差点を左折。これが国道377号だ。しばらく行くと羽床上小学校前という信号があるからそれを右。曲がったらすぐ右側に駐車場がある。
なんでも『恐るべき』で有名になり、駐車場まで出来たらしいのだ。そういえば「蒲生」も急拵え風の大きな駐車場があったな。恐るべきは『恐るべき』の影響力だ。

追記:いまでは両者ともに大駐車場完備である。山越にいたっては、駐車場に整理の人までついているらしい。すげ〜〜。ボクが行った頃は車がようやく3台止まれる程度の駐車場があっただけだった。

着いたのは午前10時。
出発に手間取って(2歳児連れはこういう時いろいろ時間がかかる)出遅れてしまった。
このあと5軒も回るのに、この出遅れは痛すぎる。 が、こと山越に関して言えば、理想的な時間ではある。


名高い山越はバラックのような作りであった。プレハブの倉庫みたいである。表には上の方に小さな看板があるだけ。

中に入るとここはもう完全に製麺所だ。工場だ。おばちゃん達が複数せわしなく働いている。入り口横にちょっと食べるスペースがあるが、従業員休憩所のような趣だ。

先客は3人。もくもくとうどんを食べている。
ええと、段取りがわからないぞ。ここは丼を持っておばちゃんに玉をもらうのだろうか…

ちょっとびびっていると、おねえさんが声かけてくれた。

「はい、いらっしゃい。何します?」
「ええと、冷たいのを小で。えーと、キミはどうする?」
「私、釜揚げを食べてみようかしら。小で」
「はい、小が90円。ふたつで180円です」

腰がぬけるほど、安い。
横ではおばちゃん達がにぎやかに麺を洗っている。
ゆでたての麺を冷水にさらしているのである。
この冷水こそ『恐るべき』で話題になっている魔法の水であろう。とにかく水質がいいらしく、麺がぴしっとおいしく締まるらしいのだ。
おばちゃんたちの横に並んでいる麺はもう、ピッカピカである。


おばちゃんの一人に麺をもらって冷たい出汁もかけずにしょうゆでいただくことにする。

麺は本当にピッカピカである。
顔が映りそうな程である。麺の角もしっかり鋭角に立って……

これは見るからにいままでのうどん達とレベルが違っている模様。


「……うまそうだなぁ」
「……キレイねぇ」


なんだか小声で話す。
予感があるのだ。
本物のさぬきうどんに出会える予感が。
それが声をササヤキにさせる。


「いただきます」



ズズズ。












う、う、

うま、うま、うま、


うまひゃひゃひゃひゃひゃ〜〜〜〜〜!!







いや、マジで。
笑ってしまうほどうまい。
これは、なんだか、別物であった。


麺は固い。田村とそうは遜色がないほどだ。

歯の侵入をきっちり拒んでおいて、歯が本気を出すと身をよじりながら侵入を受け入れる。
だが、最後の最後で激しい押し返しがあり、薄皮一枚で粘りまくるのだ。


……だが、
  だがそれだけではない。


歯の攻撃から逃げた麺がなんだか気持ちがいいのだ。

麺が、その顔が映るほどのピッカピカな表面のせいであろう、歯の攻撃からつるりと身をかわし、歯と唇の間に入り込む。
前歯の上を刺激する。
歯茎の奥の方をするりと走り抜ける。
上顎をくすぐる。
舌の下にまで入り込んでくるりとダンスを踊る。

つるっつるでぴっかぴかの麺がその表面のすべりぬめりそのままに、歯と唇の間や上顎や舌の下などの「普段無視されている領域」をおいしく刺激してくれるのだ。


ニュルルルル!
おお! 歯と唇の間でも、この麺はおいしいぞ!!

いやぁ〜うまい。うますぎ…… ん? ……ちょっと待て。

歯と唇の間に紛れ込んだ麺が、お・い・し・い……?



そうしてボクは、慄然と悟ったのである。

 

■さぬきうどんとは、何か。


歯につかまってしまった麺はちゃんと歯的快感の仕事をしている。
侵入を拒み、許し、押し返し、皮一枚で粘る。

が、見事に表面が磨かれたつるっつるでぴっかぴかの麺は、歯の攻撃から積極的に逃げまくるのだ。
ツルッと歯の切っ先をかわし、口の中で暴れるのである。

そして…… 口中全体にそのニュルニュルツルツルの快感をふりまくのである!


言ってみれば、

口中全身マッサージ

なのだ。



世に食品いろいろあれど、歯と唇の間や上顎や舌の下までおいしい気持ちにしてくれる食べ物がさぬきうどんの他にあるであろうか。


試しに舌の先で上顎をくすぐってみてほしい。
かなり感じるでしょ。キモチイイでしょ。
歯から逃げた麺がそれをやってくれるのだ。


そう、さぬきうどんとは、 歯的快感、歯唇間的快感、上顎的快感、舌下的快感、そして味的快感、香り的快感、喉越し的快感、が、すべて同時に起こる、 世界でもまれに見る「口内総合快感食品」なのであった。
歯、舌、鼻、喉、そして口の中のすべての壁・隙間が全部キモチイイ食べ物だったのだぁ!


食感(テクスチャー)を楽しむのは日本人特有のものだと思っているが、このさぬきうどんはそういう意味で日本食文化を代表する食べ物なのであるっっっっ


「ずいぶん大上段に振りかぶったわねぇ」
「っっっっ、と、ヒトがいい気持ちで演説たれているのになぜそんなことを言う!」
「うどん、のびちゃうわよ」


おおお! そうであった。
まぁ冷たいからそのくらいではのびないんだけどね。
のびるより、乾いてしまってつるつるのニュルニュルが無くなる方がイヤだよな。



ズズズズズゥ……




うまひゃひゃひゃひゃひゃ〜〜〜〜〜!!

 


わーい、読んでる人達かわいそ〜〜!!

くやしかったら食べに来てみろ〜〜!!

 


うまひゃひゃひゃひゃひゃ〜〜〜〜〜!!







ええと、優子でございます。
さとなおがキレましたので、
【怒濤篇】その1はこれで終わらせていただきます。
ではその2で、またお会いいたしましょう。


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