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さぬきうどんをCHAIN EATING! 〜回天篇2
この紀行文は1997年(まだブーム前)にさぬきうどんを求めて家族で香川を彷徨った様子を長々と書きつづったもので、翌年に「うまひゃひゃさぬきうどん」という題名で出版された元原稿でもあります。四部構成になっていて、このページは【回天篇】のその2です。
【立志篇】1・2
【風雲篇】1・2・3・4
【怒濤篇】1・2・3
【回天篇】1・2・3・4
まぁ行った時間がどうであれ、朝いちに裏切られるとなかなかこたえる。
うーん、ここが高松一、か・・・
『恐るべき』には
「麺が固い」という人もいる。その人は香川県中のうどん100軒ぐらい食べ歩いてください。あたりやの凄さがわかります。
と、謎のような文言が書いてある。
まぁ謙虚に受け取って、もう少し食べ歩いた後にもう一度来てみよう、と誓うのである。
その時『あたりや』をどう感じるか・・・
「今度は12時過ぎに来てみましょうね」
「・・・そうだねぇ、そうしよう」
どうやら優子も不完全燃焼のようだ。
再見! あたりや!
今度は寝ぼけた麺は勘弁しておくれよ!
■「中村」〜異空間の非日常〜
ということで、2軒目は『中村』だ。
昨日門前払いを食ったのは記憶に新しい(そりゃそうだ、昨日のことだもん)。
今日は大丈夫であろうか・・・
とにかく無愛想な店なのでちょっと緊張しつつ、予定が大幅に遅れているのでかなり慌てつつ、車を走らせた。
『中村』は飯山町にある。
高松からは国道11号をずんずん進み、前谷東から県道33号に入り「おお、こっち行ったら田村があるぅ」ってとこ(県道17号線)を過ぎて県道18号に入る。そこをどしどし行くと右側に讃岐富士(飯野山)が見えてくる。
この讃岐富士、絶景である。
全く富士山のミニチュア版。
「盆栽みたいな風景ねぇ」
「誰が凡才みたいに老けてんじゃ!」
とバカなボケをかまして緊張をときつつ進むと左側に岩崎タクシー本社のビルが見えてくる。その先を左。細い道であるがそれをずらずら行く。ずらずら行くと・・・
ずらずら行くと、行きすぎます。
とにかくすぐ西光寺というお寺が右にあるから、もうその後は大徐行。亀にさえ抜かされるのではあるまいか、と不安になるくらいゆっくり行ってちょうどである。
なにしろ目印は道端のドラムカンのみ。
いや、『中村』の店自体は道から見えるのよ。でもうどん屋とは絶対誰も思わないのである。
単なる納屋。
明治村に寄贈してもいいような古〜いトタンの納屋だ。もちろん看板も、ない。
右の写真で説明すると、軽トラの前にあるのが、目印のドラムカン。
その奥の小さい納屋がまさに『中村』なのである。(わかるかなぁ〜、車は右方面から来て、ドラムカンの先、ミラーの角を右折することになる)
切り返さないと曲がれない程狭い道を右折。
目の前にはボロ納屋(失礼!)がひとつ。それが中村だ。
これは情報がないと絶対探せない製麺所だ。
時間は11時半。
「あ、お客さんがいっぱいいるわ!」
「おお! どうやら麺はありそうだな」
この店が伝説になったのは、うどんよりもそのネギで、である。
ネギは客が裏の畑からとってこないといけないのだ。
そしてそれを自分で洗って刻む。うどんは玉を自分でセイロからとって自分で湯がく。出汁はポリタンクから自分でかける。
究極のセルフサービスなのだ。
緊張・・・。
無愛想なおねぇさんがいる上に、ネギがなかったら裏の畑に取りに行かなければいけない。 ネギなど抜いたことがないからなにかヘマをしそうだし(←ネギは抜いてはいけません。ネギは刈るものです。後で知ったんだけど)。
ゴワゴワののれんをくぐってコワゴワ入店する。
ジーパンみたいにゴワゴワとはいえ、こののれんがなかったら絶対納屋である。
写真で言うと右側の小さい建物だ(上の写真の逆側から撮影)。ね?納屋でしょ?(ちなみに左奥に見えるのが讃岐富士)
昨日はいなかった店のオヤジがいた。
これまた無愛想である。顔も、なんというか外人離れしている(そりゃ日本人じゃ!)。
大将も昨日冷たかったおねぇさんも客が来ようが来まいがまるで無視。黙々と作業を続けている。
台の上をみると、ホッ、ネギはちゃんとあった。先客が切ってきたのであろう。
ひと玉もらって、自分でトトトンとネギを刻んで、冷たい出汁をクーラーからかけて、納屋の隅に持って行き、ちいさいカウンターで食べる。
見た目はなかなかつやつやである。
箸で取るとネバーーーーーっと伸びる。
いままで経験したうどん屋とはちょいと違う伸び具合。
これは何かがある。期待できそうだ。
で、一口・・・
ほほ! ひょ、ひょれふぁ!
「口にものを入れながら叫ばないでよ」
失礼。
おお! こ、これは!
・・・・・ム、ムニムニではないか!
おととい行った『五右衛門』もムニムニではあったが、この『中村』はそんなもんではない。
噛み切れないのである。
うんうん、そう、あっちでも「噛みきれない」と確かに書きました。書きましたけどね、いま考えると『五右衛門』がオコチャマに思えてしまうのよ。なんちゅう粘りじゃこりゃ。
「へぇひょっほ!
あ、失礼。
ねぇちょっと! すごい粘りね。これ!」
昨日『五右衛門』に行かなかった優子は、初めて体験するタイプの麺にとまどっている。
これは『山越』のものとも『谷川米穀店』のものとも全く違う系統なのだ。
ましてや『宮武』系とは程遠い。
『中村』独立系統である。
他のさぬきうどんとは明らかに違う個性の強いムニムニ麺なのである。
まさに、唯一ムニ!(お粗末っ!)
口の中でずっと噛んでいたくなる。噛みきる瞬間のムニュプチッという感じが独特。うますぎる。他をヒラメの刺身とすればこれはヒラメの縁側だ。
そしてまた喉越しが非常に良い。
マイクがあったら、ボクはすぐ歌い出していたであろう。
♪ チュルリラ、チュルリラ〜〜
(「野ばらのエチュード」 by 松田聖子)
そう、ちょうどそんな食感・喉越しなのだ。
よくうどんを「ツルツル」食べるとか言うが、『中村』の場合「チュルチュル」食べると言う方が近い。
そして喉の奥に「リラ〜〜〜〜」と伸びやかに消えていくのだ(どんなんや)。
ああ! この快感!
そして・・・ひょっとしたら、ここのうどんは噛んで味わうより喉で味わった方がおいしいかもしれない。
いままで歯の食感を中心に書いてきたが、この『中村』はあまり噛まずに喉に入れるとその本領を発揮するようなのだ。
『山越』や『山下』なんかは噛んだ方が絶対快感が強い。喉で食べたら損をする気がするくらいである。
が、ここにきてボクは初めて「喉で食べた方が快感が強いうどん」に出会ったのだ。
ねぇちゃんは無愛想。
オヤジも無愛想。
店は古い納屋。
店の場所は宝探し。
のれんがジーパン。
都会にはないセルフ方式。
そして、ネギは裏の畑・・・。
こんなシチュエーションだけでもなんだか異様にドキドキするのに、そのうえ麺が「チュルリラ〜〜ムニムニ」の喉ウマで、しかも驚異のひと玉100円・・・。
ここ、ボク、好きかもしれない・・・。
丼をもって外に出て讃岐富士をぼんやり眺めながら食べてみる。
100円玉一枚(カップ麺も買えないではないか)でこんな異空間の非日常が味わえるのである。
うーん。
こりゃ下手な海外行くよりずっとおもしろいや。
そういう意味ではオススメだなぁ、とっても。
さぬきうどん探索旅行の粋がつまっている店なのだ。麺は独特だけどね。
■「彦江」〜さぬきのうどんのリアリティ〜
「あ〜、おもしろかった!」
「そうだね、おいしいかったけど、おもしろいって言った方が当たってるよね」
「・・・おなかすいてぃあ! なんか食べゆ!」
おおお! 響子のことを忘れていたのである。
『中村』はその段取りに対する不安から(というか、怒られそうで怖かったので)響子にはうどんを与えず優子と二人分だけチュルチュルムニムニ食べて出てきたのであった。
食魔響子には『あたりや』で重量感たっぷりのうどんを与えていたのでちょっと油断していたが、ボクたちが食べているのを横で見ていてまたおなかが減ってきたらしい。
「おなかすいてぃあ! なんか食べゆ!」
はいはい。
『彦江』まで我慢してね。がんばって探すから。
『中村』から『彦江』はそんなに遠くない。
納屋から左に戻って岩崎タクシーの道を右(東)の方に向い、国道438号に出てそれを左折(北上)。坂出市街に入って県道33号線(高松丸亀線)にぶつかる。ここを右。
しばらく行くと左側に「ぐりーんはうす」というファミレスがある。そのまん前を右に入るのである。
だいたい20分も走ればそこまでは行くであろう。
ただ、そこからがまた『中村』以上によくわからん。
『中村』は少なくとも車が通れる道沿いにあった。
が、『彦江』は車が通れないような小道にあるのである。いや、車はかろうじて通れるのだが、対面通行も駐車も絶対出来ない。
『恐るべき』に書いてある通り、ぐりーんはうすの前の道を入り突き当たりあたりに車を止めて歩くことにする(路駐ごめん)。
突き当たりを左に行ってすぐまた左。この小道沿いにあるというのだ。
静かな住宅街の細い細い小道である。
こんなところにうどん屋があるのか?
優子「ねえ、道、あっているのかしら?」
尚之「うーん・・・」
響子「おなかすいてぃあ! なんか食べゆ!」
優子「こんな誰も通らない小道にあるのかしら?」
尚之「うーん・・・」
響子「おなかすいてぃあ! なんか食べゆ!」
優子「気配もないわね、うどん屋の」
尚之「うーん・・・」
響子「おなかすいてぃあ! なんか食べゆ!」
優子「ラッキーを英語で言うと」
尚之「うーん・・・」
響子「おなかすいてぃあ! なんか食べゆ!」
仲良く会話しながら(これは会話か!?)歩くこと4分。
右側にシンプルなプレハブがあった。
も、もしかして、これだろうか・・・。
呆然と見つめている間にもどこから湧いてきたのか(虫か!)近所の人と思われるおばちゃん、おじちゃんが次々とプレハブに入っていく。
「・・・ここかしら?」
「・・・うーん」
「おなかすいてぃあ! なんか食べゆ!」
もちろん看板ものれんもない。単なる小工場かもしれない感じ。
うーん・・・でもみんなニコニコ入っていくぞ。
とりあえず、のぞき込んでみる。
おお〜! 中で大行列が出来とる!
みんな並んでおばちゃんに玉をもらい、ゆがいてる!
やっぱりここが『彦江』だったのだ〜!
なんだかうれしくなってしまうのである。
ここは絶対近所のひとしか来ないうどん屋である。 地元の集会場にきたみたいな感覚である。
近所の人、みんな寛いで普段着の表情でうどん食べとる。
ボクみたいな異邦人が入り込んでいいのか一瞬迷う。 なんかさぬき人の聖地を侵すようなちょっと後ろめたいようなちょっと晴れがましいような・・・。
『中村』で感じたようなビビリとはちょっと違う心地よい緊張。
なんというか転校生になったような気分だ。
行列の端に並ぶ。
みんな丼をとって、うどん玉をもらって、自分でゆがいて、ネギとか乗せて、となりの小部屋に行き食べている。
お昼時ということもあって超満員だ。
おばちゃん、奥で大汗かきながら生地を延ばし、切っている。
どうやら出来たてが食べられそうだな。
ひと玉もらう。130円。
もらった麺は太めで角がキリっと立っている。
見た目は『田村』に近い感じ。
でもピカピカさが違う。これは期待できそうである。
「おいしそうねぇ」
「うーん・・・これはうまそうだ」
「おなかすいてぃあ! なんか食べゆ!」
ハイハイ。
響子に一口先に上げてっと。
で、おもむろにひと口。ズズズ。
う、う、う、
「お客さんがいっぱいいるんだから、うまひゃひゃひゃ〜!って叫ぶのはやめてね」
う、う、う、
「うまひひひ〜!もやめてね」
う、う、う、
「あ、うまひょひょひょ〜!とか変格活用するのもダメ」
う、う、う、うぐ! うぐぐぐぐ・・・
「あ、あなた、あなた! どうしたの!
え? 喉に詰まったの?
きゃー、あなたぁ〜!、死なないでぇ〜!」
いやはや、うまかった。
ちょっと『田村』を思わせるような麺だ。最高の状態の『田村』はきっとこんな感じなのだろう。
つやっつやでゴッシゴシ。
角がビシッとしていて口の中で暴れながらも歯におとなしく身を投げ出す風情を持っている。
強いのにやさしい。
そう、男の筋肉質と女のなまめかしさを両立させている麺なのだ(オカマという意味ではない)。
そして。
なによりも、香川の、普通の住宅街の人と一緒に食べている一体感。
生活に根差している充足感というか、なんか外国の、例えば東南アジアの田舎みたいなところで、現地人と一緒に、現地人しか行かない現地の店で、めったに食べられない現地食を食べているような、そんな「貴重な時間」感があるのである。
「なんだかさ、うれしくなっちゃうよね」
「・・・」
「・・・」
優子も響子も答えない。夢中で食べている。
『彦江』はいい。
うどんもいいが、シチュエーションはもっといい。
『彦江』に比べれば『中村』は非日常感がありすぎる。観光地のようなケレンを感じてしまう。
ここは日常だ。住宅街の日常だ。
そして隠れ家だ。関係者以外誰も見つけられない隠れ家だ。
『彦江』にはなんか「リアリティ」があるのである。「生活」があるのである。
味もシチュエーションも、そして地元感も含めて、さぬきうどんの「現在」がある気がする。
「中村〜彦江のルートはなんだか楽しいわね」
「うん。これはオススメだ。ある意味で『さぬきうどんとはなにかがわかる』」
「それなら『山越』のほうがいいんじゃないの?」
「うん。うどんを知るだけならな」
そう。
うどんの質・種類でさぬきうどんを切るならば、『山越』ははずせない。
『山下』も『谷川米穀店』も、別系統として『宮武』もはずせないであろう。
ただ、この『中村』〜『彦江』ルートは
・さぬきうどんの多様性がおいしくわかる。
・シチュエーションの特異性がしみじみわかる。
・さぬきの人の日常にむっちり触れられる。
・宝探しの楽しさをドキドキ満喫できる。
・セルフの仕組みをびびりながら理解できる。
というメリットがあり、わりとわかりやすく「さぬきうどんの魅力」がわかるのである。
「そういう意味ではお昼時の混雑をわざと狙った方がおもしろいわね」
「うん。
第一、お昼時でお客さんがいっぱい入っていかないと、
どこに店があるのかわからないだろう」
ちなみに『彦江』は瀬戸大橋の坂出北インターから激近い。
だからもし行かれるなら瀬戸大橋を渡って一軒目を『彦江』、二軒目を『中村』とするのもいいかもしれない。
ただ、もしセルフ初体験ならかなり勇気がいると思うよ。
だって入るだけでもびびるもん。
『彦江』〜『中村』。
この2店は間違いなくセルフ上級編なのである。
@satonao310