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さとなおのおもしろ本

ボクが読んだ本を随時ご紹介していくコーナーです。
現在、943冊分の書評があります。

書評というより短い感想ですね。内容に沿ってコメントするというよりは、自分の生活や人生に照らし合わせて短くコメントする感じで書いていることが多いです。
また、好きかどうかの指針を「ラブ度」で表しています。ゲージが満タンだと「大好き(再読する!)」。ゲージが減っていくと「個人的にはあまり合わなかった」ということになります。くわしい説明はこちらをお読みください。

1995年から始めて2004年まで毎月10冊程度ずつ続けてきましたが、2004年初頭の長期海外出張で一度更新が途切れ、その後ずっとさぼってました。で、2007年からMovableType化するに当たってまた復活しました。以前は月刊として毎月1日に更新していましたが、これからは随時更新になります。
また、古い頃(1995〜1997年くらいまで)のものはコメントも短く、読んでいて物足りないかもしれません。そのうち書き足すとは思いますがご了承願います。 なお、さぼっていた2004〜2006年に読んだ本も随時少しずつ追加していきます。

ちなみに、この最新ページには最新15冊までしか表示されません。
それ以前に読んだ本については「月別一覧」「著者別一覧」「ジャンル別一覧」をご覧ください。


書名や著者でコーナー内を検索:

LV2「戸村飯店 青春100連発」

瀬尾まいこ著/理論社/1500円

戸村飯店青春100連発
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瀬尾まいこって高校生の気持ちを書かせたら天下一品である。戸村飯店の二人の兄弟の桎梏と解放が明るい筆致で描かれている佳作だ。

今回はナチュラルな大阪弁も炸裂しており、エセ大阪弁を操れるボクとしては楽しくも懐かしい(東京の人には違和感あるかも)。大阪弁の小説ってわざとらしいのが多いのだけど、この本はまったくそれを感じさせない。しかも東京と大阪の空気の違いが明確に描かれており、その点も愉快。

100連発というと吉本の名作「ギャグ100連発」を思い起こさせるし、わりと疾走感&炸裂感がある題名だと思うが、以前紹介した「仏果を得ず」と同じく、題名で少し損していると思う。疾走感&炸裂感というよりは、普通に温かくてさわやかな青春小説なのだ。少しキワモノに見えてしまうし、はしゃぎすぎに見えてもしまうかも。

でも、この兄弟、どっちも好きだなぁ。特に弟は名作「幸福な食卓」の大浦勉学くんみたい。いいキャラだ。読みやすい分、少し損をしている作家であるが、ボクはこの読みやすくさりげないところが好き。

2008年04月05日(土) 14:15:52・リンク用URL

LV5「仏果を得ず」

三浦しをん著/双葉社/1500円

仏果を得ず
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文楽(人形浄瑠璃)の義太夫を題材にしている現代劇。
義太夫語りは落語「寝床」でも取り上げられるけど、その義太夫節を修行中の若者のお話である。古い芸能を伝承していこうとする若者たちが等身大で瑞々しく描かれている。毎章、テーマとなる文楽の解釈に悩みながら成長する主人公がなかなか魅力的(ある意味本歌取り)。知らなかった世界を楽しく知れる、という意味でも、純粋に小説としても、なかなかいい本である。

文楽は去年初めて観に(聞きに)行った。
普通初心者は人形遣いのそのリアルさに関心が向くらしいが、そのときのメモでも書いたように、ボクは最初から義太夫に目が釘付け。人形をあまり見なかったくらいである。竹本住大夫と豊竹嶋大夫。すごかったなぁ。
そういうこともあってか、この本の題材である義太夫は多少身近で、銀大夫の語りなども目に浮かぶようであるし、三味線とのやり合いなども十二分に楽しめた。義太夫語りの舞台裏を楽しく知れるのもうれしい。文楽が急激に身近になる。

とはいえ文楽をまったく知らない人でも楽しめるので大丈夫。読後、きっと文楽が観たくて観たくてたまらなくなること請け合いだ。この本は文楽ファンを急激に増やすだろうなぁ。

全体にさらりと読みやすく、多少漫画チック。というか連続ドラマっぽい(笑)。イケメンを配役すれば充分ドラマ化にも耐えうる内容。
惜しいと思うのは主人公の背景描写がさらりとしすぎている部分。その分シンプルにストーリーを楽しめるのは確かなのだが…。それと題名。読み終わってからだと「なるほど」と思うのだが、これは取っつきにくすぎる題名かも。表紙を漫画にするなど、文楽という一般ウケしにくいテーマの本を読者が手に取りやすい工夫はしてあるのに、題名が抹香臭くて一瞬「難しい本か?」と手が止まってしまう。ちょっと残念。

NHK「ちりとてちん」ファン的には、「この役は加藤虎ノ介しかできん!」という、きわめて四草なキャラが重要人物として出てくるのでお楽しみに。

2008年04月03日(木) 8:17:49・リンク用URL

LV2「悪人」

吉田修一著/朝日新聞社/1800円

悪人
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吉田修一は「パークライフ」くらいしか読んでいないが、ずいぶん雰囲気が変わったなぁ、というのが第一印象。桐野夏生が書きそうな題材で、彼が書くタイプのものとは思えなかった。これは作家としての飛躍なのかどうなのかは他作をあまり読んでないのでよくわからない。

わかりやすく悪人という人間がいるのではなく、どの人の心の中にも悪人はひっそりと棲んでいるのだということを、細やかにいろんな人の一人称を積み重ねていくことで描いている。途中で「殺人を犯した人が一番悪人っぽく見えないというラストかも」と思ったら、やはりそんな感じだった。
どの人の心の中にも悪人が棲んでいることは昔から題材として多く取り上げられてきたが、ひとつの小さな殺人事件を軸にして、その人間模様でそれを浮き彫りにした筆力はさすがである。ただ、人間模様で描く分、無関心という悪とか親の愛という悪とか寂しさという悪とか、それぞれがちょっとずつステロタイプな姿になって「役割を演じる感じ」になったのが残念かも。まぁでもそこをわかりにくくしちゃうと小説としてまとまらないので仕方ないが。

本書は新聞連載小説だったらしい。著者はそれをかなり意識してこのストーリーを紡いだ気がする。つまり、彼の連載のすぐ上に、さまざまな悪人の小さなニュースが載るわけだ。それらの記事の背景にどんな「悪」があり、真の「悪」はいったいどこにあるのか、一歩ずつ読者を立ち止まらせたいと思ったのではないだろうか。単行本にまとめられてしまうとその効果は薄れてしまうのがちょっと残念。

2008年01月06日(日) 17:25:09・リンク用URL

LV5「ロング・グッドバイ」

レイモンド・チャンドラー著/村上春樹訳/早川書房/2000円

ロング・グッドバイ
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20数年ぶりにチャンドラーを再読した。しかも村上春樹の新訳。ノーベル文学賞に一番近い日本人作家と言われる彼がこうして様々な海外文学を翻訳して出版してくれる幸せをまずは感謝したい。日本人はとても恵まれている。

清水俊二訳の「長いお別れ」(実は抄訳だったらしい)を読んだのは高校の時だったか。わかったふりをしていたが実はよくわかっていなかったと思う。今回熟読してみてこの本が名作と言われる理由がすんなりわかった。やっぱある程度の年齢は必要なんだなぁ。歳とることも悪くない。

というか、何人もの人が指摘しているが、村上春樹の「羊をめぐる冒険」って「ロング・グッドバイ」へのオマージュだったんだと初めてわかった。ストーリーだけでなく、登場人物の似通い方が尋常ではない。訳者あとがきでも彼は影響を認めているが、わざわざ自ら訳してそこを明かしてくるのか、と、この作品への愛の深さに打たれたくらいである。そう、それと「ロング・グッドバイ」と「グレート・ギャツビー」は同じ話であったことも初めてわかった。ちょうど村上春樹訳の「グレート・ギャツビー」を読もうとしているところなので、実に刺激的。この素晴らしい三作の連関性をゆっくり掘り下げて遊ぶだけで1年くらいは暇つぶしが出来そうなくらい。

ちなみに、素晴らしい訳だとは思ったが、会話の部分で違和感があったところも多かった。特に「でしたました調」のところ。会話のリズムが壊れ、キャラまで壊れている気がする。どうなんだろう。

2007年05月05日(土) 18:07:48・リンク用URL

LV4「野ブタ。をプロデュース」

白岩玄著/河出書房新社/1050円

野ブタ。をプロデュース
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2004年度文藝賞受賞作品。芥川賞候補にもなった。
題名が独特なのと、亀梨和也が主演してドラマになったこと(彼と堀北真希の出世作でもある)、役名の修二と彰で「青春アミーゴ」を歌いヒットしたことなどで、知名度は抜群だろう。ボクも読もう読もうと思っていたがようやく読めた。

単純に面白かった。
高校生の物語だが、高校生に限らず若者全体の「ポジショニング命な感覚」「表面的なプロデュースで渡っていく感じ」をここまでリアルにわかりやすく描ききった本は他にあまりないだろう。ポジショニング。プロデュース力。これがすべて。中身も深みもいらないのだ。
そのテーマを、「着ぐるみ」と称して自分を演出する秀逸な主人公・修二に託し、彼に信太(野ブタ)をプロデュースさせることでよりわかりやすく表出させているあたりが舌を巻くくらい上手。さすが。しかも45歳のオッサン(ボクです)ですらとっても共感できるくらい、いくつも入口とヒントを用意してくれている。

というか、高校の話というよりは「日本社会の上手な泳ぎ渡り方」にまで普遍化されたらどうなっていたんだろう、とか考えてしまう。サラリーマンだって「着ぐるみ」を着るし、「ポジショニングを敏感に察知」するし、「自分や部下をプロデュース」して生きている。表面的なのだ。修二の親世代か先生たちを絡めて普遍化させていたらどんな作品になっていたかな…。

ちなみにラストは賛否両論あるらしいが、このリセット感は絶対必要だと思う。ポジショニングに失敗したらあっさりリセットする。それでこそ修二である。

2007年04月25日(水) 16:44:49・リンク用URL

LV2「強運の持ち主」

瀬尾まいこ著/文藝春秋/1300円

強運の持ち主
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占い師ルイーズ吉田を主人公にした短編小説集。
瀬尾まいこは三冊目。どの本も題名が普通っぽい。その普通ぽさも著者らしいのだが、ちょっと惜しいかな。この本ももう少しマシな題名があった気がする。

相変わらずあっさりさっぱりした読後感。でも主人公設定がなかなかユニークで面白いので印象に残る本となった。技のないインチキ占い師。適当に相手から情報を引き出して、気持ちよくさせてあげ、背中を押してあげる仕事。占いというより相談。そして当然そこにいろんな悩みが持ち込まれるわけで、小説的展開に持って行きやすい。もっと野心的に書けばいくらでも劇的なお話しになるだろうに、それをしないでひたすらあっさり持っていっちゃうのが著者独特の価値観だ(価値観なのだろう。他の本もそうだもの)。

主人公の彼が「占い上では強運の持ち主」という設定なのだが、特にそれをいかした展開はない。その辺、やっぱり少し物足りなく読み終わった。意外と数冊のシリーズにして、全体で俯瞰したら面白い題材なのかも。続編とかあったらダラダラ読みたい気分。

2007年04月22日(日) 21:13:00・リンク用URL

LV2「温室デイズ」

瀬尾まいこ著/角川書店/1365円

温室デイズ
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「幸福な食卓」を読んでとても良かったのと、学級崩壊の描き方がスマートで好感がもてたので、続けて瀬尾まいこの「温室デイズ」を読んだ。

テーマはまっすぐ学級崩壊とイジメ。
とはいえ全然ドロドロしてなくて、あっさり推移していく。この、真っ向から立ち向かわないあっさり感が逆にリアリティを生んでいる。上から見て書くとお説教っぽくなったり、懸命に生徒たちに寄り添って書くとオーバーになったりするところを上手に避けて通ることによって、逆にリアルな空気感が出てきているのである。金八なら解決できるところをあえて解決させない「流し感」。このあっさりした収め方は逆に勇気がいる気がする。なかなかやるなぁ。

ただ、じゃあそのリアル感だけで小説が持つかというとそうでもない。小説全体として考えると物足りなかったのも確か。収めどころがどうしても欲しくなる。あっさり終わって好ましいけど物足りない。複雑な感じ。あと「幸福の食卓」に出てきたような秀逸なキャラがひとり欲しかった。不良役がそうとも言えるがもう少し突っ込み足りず。惜しい。

2007年04月21日(土) 8:57:03・リンク用URL

LV5「幸福な食卓」

瀬尾まいこ著/講談社/1470円

幸福な食卓
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寡聞にして瀬尾まいこのことを知らなかったが、中一の娘に激薦められて読んだ。最初がこの「幸福の食卓」。とても良かった。しばらく他のも読んでみたい作家である。

出てくるキャラがとてもいい。直ちゃんも大浦くんも実に魅力的で、しかもリアリティがある。父も母も通り一遍でないキャラ設定で、シンプルに見える断片の奥底にちゃんといろんなものを抱えている様子がさりげなく描写されている。なんつうか「表面に見えている姿は氷山の一角」的な描き込みがちゃんと出来ている感じ。なかなか種を明かさず、だんだんキャラの薄皮がはがれていく快感。そしてはがれていくに従ってキャラがより魅力的になるのである。逆のパターンも多い中、さすがな筆力と構成力。周到にキャラ設定して書き始める作家なのかもしれないが、意外とそういうのを感じさせないなにげなさもこの著者のイイトコロ。

ふわふわ生きているようで意外と地に足が着いているキャラたち。細かいところの書き込みがしっかりしているのでリアリティがあるのだが、この空気感はとてもモダンだと思った。イマっぽい。えてしてステロタイプな描き方になってしまう現代の病巣(家族崩壊や学級崩壊)もスラリとスマートに書ききっている。こういう距離感がいいな。

2007年04月20日(金) 15:35:27・リンク用URL

LV5「『エンタメ』の夜明け」

馬場康夫著/講談社/1400円

「エンタメ」の夜明け ディズニーランドが日本に来た!
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副題が「ディズニーランドが日本に来た!」。
ホイチョイ・プロダクションズのリーダー馬場康夫の書き下ろし。日本のエンタテインメント・ビジネスを「始めた人」へのオマージュであり、日本のエンタテインメント草創期の記録でもある。

まず文章がいい。事実との距離のとり方が絶妙。客観的で独白的でハードボイルドだ。たぶん(たぶんだけど)森山周一郎の声を意識して書いたんじゃないかな(笑)。彼が読むとびったりハマル感じ。そんな文章である。変に熱いドキュメンタリーにせず、ちょっと上から硬派かつ冷めた目で俯瞰している。これはたぶん著者自身がこの題材に惚れ込んでいるからこそ、なのだろう。いくらでも熱く書けるからこそ、逆にきっちり客観的に距離を置いた感じ。そしてその手法は成功している。

内容は、小谷正一と堀貞一郎という2人のプロデューサーを軸にしたノンフィクション。
ふたりとも広告会社の電通にいて大阪万博、そしてディズニーランドの立ち上げに関わった。その半生と仕事を丹念に追った上で著者はこう言い切っている。「ディズニーランドの出現ほど、日本の行方を変えたできごとはなかった」と。このちょっと鼻白む結論もこの本を読んだあとだとすとんと胃の腑に落ちる。そして一般的には「無名」であるこのふたりが日本にボディーブロー的に与えた影響の大きさに感動するのである。

あえて言えば、盛り上げたあげくのディズニー誘致顛末を多少端折ったのが残念。そこがこの本の骨ではないとはいえ、ちょっとだけはぐらかされた感も残る。また、小谷正一の記述ももう少し読みたい。特に引退前後からの記述が(資料が少ないとはいえ)もう少し欲しいのも事実だ。

ホイチョイでの活躍を含めて、著者は「時代の空気とそれを作っている人々」が本当に好きなんだろうな。時代の観察者として馬場康夫という逸材を持っている我々はとても幸せなんだろうと改めて思う。
これからエンタメを目指す若手は特に必読。現在普通に享受しているエンタメの裏にある歴史を知りたい人もぜひ読んで欲しい本。

2007年04月10日(火) 19:28:11・リンク用URL

LV4 「アフリカにょろり旅」

青山潤著/講談社/1600円

アフリカにょろり旅
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幻の熱帯ウナギ捕獲のためにアフリカ奥地に入り込んだ東大の研究者による冒険記。

とはいえ研究の書ではまるでなく(題名でわかるか)、いわゆる「爆笑紀行」的趣き。特殊すぎるその体験のすべてが事細かく書かれてあり、読者は日本のベッドで彼らの地獄の日々(そーとー地獄)をウヒヒと笑いながら追体験できる。なんていい世の中なのだろうか(笑)

世界に存在するウナギは全18種類。東大の研究室はそのうち17種を採集し終わっていた。だがアフリカに生息するラビアータという種類だけがどうしても手に入らない。それを採集するために、著者青山潤と相棒の渡邊俊がふたりで灼熱のウナギ捕りツアーを敢行する。マラウイ、ジンバブエ、モザンビーク。アフリカ南部奥地でひたすらウナギを探す毎日。次々に起こるアクシデント。灼熱。危険。焦燥。体力の限界。友情。それら全部引っくるめて「にょろり旅」。ひたすら明るい筆致が救いとなり、読者は気楽に旅を楽しめる。著者は意識していないかもしれないが、もう少しでも筆致が暗かったらと意外と読んでいて厳しかったかもしれない。そのくらい過酷さが行間に感じられた。

この本はお笑い系ではあるが、実はこのウナギ研究班、ちゃんとスゴイ。世界で初めてニホンウナギの産卵場をほぼ特定したりしている。そういう理系学者がこういうハードルの低い本を書いて研究の現場を面白おかしく紹介してくれたこと自体が素晴らしい。こういった本がもっともっと増えるといいなぁ。最先端の研究の現場ほど面白いものはない。ちゃんとボクら素人にもわかるように翻訳して楽しく書いてくれれば、これほど知的冒険に満ちた題材はないだろう。

2007年04月10日(火) 18:26:29・リンク用URL

LV5「陰の季節」

横山秀夫著/文春文庫/470円

陰の季節
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第5回松本清張賞受賞作。D県警シリーズ第1弾。1998年初出。

「まったく新しい警察小説の誕生!」と選考委員の激賞を浴びたらしい。確かに新しい。刑事を主人公にせず、警察組織内のいわゆる管理部門に勤める人間達を主人公にしているのだ。人事課、監察課、婦警、秘書課…。そこに配属されている「サラリーマン」たちを描いているのである。

とはいえ、きちんと警察小説になっているのがスゴイ。刑事ものと変わらぬスリル&サスペンス。裏方の悲哀とひたむきさに心を打たれる。この辺のウェットかつ緻密な描き込みは横山秀夫ならでは。「多少ウェットすぎるかな」とか「ボクらも同じサラリーマンであるが、こんな人間模様は普通ありえないな」とか「ちょっと昭和の匂いがしすぎるな」とか、いろいろネガティブな思いもあるのだが、全体に実によく出来ていると言わざるを得ない。その取材力、構成力、筆力、どれをとっても一級品。

松本清張と浅田次郎と宮本輝が混ざり合った印象だった著者であったが、その中の松本清張部分がぐんと前に出てくると俄然よくなると個人的には思っている。この本はまさにそれ。このシリーズはちょっと追ってみたい(著者の他の本はちょっとウェットが勝ちすぎていて今のところ好みではない。もう少し歳をとったらあるいは)。

2007年03月25日(日) 8:31:25・リンク用URL

LV4「しゃばけ」

畠中恵著/新潮文庫/540円

しゃばけ (新潮文庫)
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江戸時代の江戸を舞台にした妖怪推理時代小説。
妖怪がたくさん出てくるので荒唐無稽ファンタジーかと思いきや、読み進むうちに違和感も消え、わりと普通の時代小説に読めてくるから不思議。著者の筆力だろう。

廻船問屋と薬種問屋を営む大店の一人息子・一太郎は幼い頃からずっと周りに妖怪をはべらせる特殊体質。とはいえ身体は弱く、妖怪に守られているといった風情。そこに事件が持ち上がって…。といった導入なのだが、推理小説としては弱いものの(なんたって特殊能力がある妖怪たちが活躍するから)どこか落語人情話を思わせるような文章リズムも心地よく、最後まで飽きずに読ませる。多少、妖怪の気持ちが見えないところがあり(特に味方妖怪)その辺にカタルシスがあればより良くなったとも思うが、そこもまたミステリアスでいい、と取ることも出来る。また、もうちょっと妖怪の特殊能力に頼ったストーリー展開をすればエンタメとして強くなるのに、それを敢えてしていないところも好感持てる。

これを第一作として、続編がいくつか出ている。ゆっくり読んでいきたい世界観だ。

2007年03月24日(土) 9:08:20・リンク用URL

LV5「気まぐれコンセプト クロニクル」

ホイチョイ・プロダクションズ著/小学館/2310円

気まぐれコンセプト クロニクル
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1981年からコミック誌「ビッグコミックスピリッツ」で連載を続けている広告業界4コマ漫画「気まぐれコンセプト」を四半世紀分まとめてまとめた974ページの超大作。
結果的に「日本現代風俗史」的趣きになっており、これを見れば当時の流行りがすべて肌実感できる作りになっている。さすがホイチョイ。まぁ映画「バブルへGO!!」公開との連動販促的な部分もあるとは思うが、実際こうやって四半世紀分を読み返してみると実に貴重。小分けにして出さず、ドカンと辞典的に出したあたりにセンスを感じる。

「気まぐれコンセプト」は1984年にも単行本が出ている(もちろん持っている)。
このクロニクルはそれ以降1984年〜2007年までのセレクト集になっている。ボクは1985年に広告業界に入ったので、ほぼボクの入社以来の広告業界史がこの本に入っていると言っても過言ではない。もちろんホイチョイ特有のデフォルメはされているのだが(いや、本当にめちゃめちゃデフォルメされてます)、とはいえその「デフォルメ具合」がその時代の空気を表していて、これらの4コマを読むだけで相当リアルに当時の空気が思い出されるのだ。「わかるなぁ」「あったなぁ」の連続だ。

ホイチョイは他にも「見栄講座」「OTV」「東京いい店やれる店」「私をスキーに連れてって」「彼女が水着に着替えたら」などで、「その時代そのものを本やフィルムにきちんと定着させておいてくれた」。それは本当に有り難く、とても感謝している。しかもそこに変に意味を持たせず、ミーハーに徹したアプローチ。素晴らしい。並のセンスでは出来ないことである。

ま、厳しく言えば、2007年現在の「広告業界の今」を捉えきってはいないかも。少しワンパターンになりすぎている。でもそれも長く続けてきたからこそだし、ワンパターン漫才を楽しむような「味」にはなっているからいいのだが。

2007年03月21日(水) 18:53:03・リンク用URL

LV3「ポルトガル夢ホテル紀行」

東海砂智子、マヌエル・ブルッジス著/東京書籍/1995円

ポルトガル夢ホテル紀行
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ポルトガルの素晴らしいホテルの紹介を目的とした紀行文。臨場感溢れる軽快な文章と美しい写真で、普通のガイドブックとは一線を画している。

ポルトガルにはポウサーダ(Pousada:ポサーダ、ポウサダと読むガイドブックもある)という国営のホテルがある。スペインにあるパラドールと一緒で、古城や古い修道院などを改装して泊まれるようにしたもので、大都市から地方の小都市まで国内隅々まで広がっている。この本はそのポウサーダを中心に紹介している。

2007年3月末にボクたち家族はポルトガル旅行をした。そのときにずいぶんお世話になった本である。この中に紹介されているホテルのほんの数軒行けただけであるが、おかげで満喫できた。ポルトガルの日本語ガイドブックは少ないし、内容もいいので、ポルトガルを旅行する人にはオススメしたい。地方の小都市のポウサーダに泊まらずしてポルトガル旅行をしたとは言えない。いや、マジで。

2007年03月20日(火) 19:07:39・リンク用URL

LV5「モーレツ! イタリア家族」

ヤマザキマリ著/講談社/700円

モーレツ!イタリア家族 (ワイドKC)
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ある宿命的な出会いをもって、イタリア人の旦那さんを持つことになった漫画家ヤマザキマリさんの「イタリア嫁生活体験記」漫画。

著者のスタンスは「まぁイタリアは日本で大人気のようっすけど、実態はこんな感じっすよ」である。愛しつつも冷めている。客観的に「ありえねー」と思っている。その距離感が笑える。爆笑系エピソードも多く、何度も楽しめる内容。巻末にはご丁寧にも簡単なイタリア語会話集がついている。

著者が嫁いだのはイタリアの大家族。お金持ちの家のようだが、登場する人がそれはそれは個性的で、その中にひとり飛び込んだ日本人妻の苦労が実に偲ばれる内容。が、読者はしんみりするわけではまるでない。著者による客観的な俯瞰視点が随所に活かされているので、明るく笑って軽快に読み進められる。実際この漫画は登場人物たちにも読まれちゃっているらしいが、彼らを怒らせない程度にデフォルメして描いているバランス感覚が読者にもちょうどいい。これ以上すると読者も引くかも、のギリギリラインを上手に渡っていく。うちでは中一の娘が特に気に入り、一時は始終持って歩いていた。

実はこの本を読んだ後、著者のマリさんと知り合う機会があり、ポルトガルの自宅(現在ポルトガル在住)に遊びに行った。
彼女の周りには「漫画的エピソード」が溢れている。そういう人生を送る人っているのである。存在が面白い人の漫画はそりゃ面白いのだ。続編が待たれる。

2007年03月20日(火) 17:54:47・リンク用URL

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