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「悪人」

amazon吉田修一は「パークライフ」くらいしか読んでいないが、ずいぶん雰囲気が変わったなぁ、というのが第一印象。桐野夏生が書きそうな題材で、彼が書くタイプのものとは思えなかった。これは作家としての飛躍なのかどうなのかは他作をあまり読んでないのでよくわからない。
わかりやすく悪人という人間がいるのではなく、どの人の心の中にも悪人はひっそりと棲んでいるのだということを、細やかにいろんな人の一人称を積み重ねていくことで描いている。途中で「殺人を犯した人が一番悪人っぽく見えないというラストかも」と思ったら、やはりそんな感じだった。
どの人の心の中にも悪人が棲んでいることは昔から題材として多く取り上げられてきたが、ひとつの小さな殺人事件を軸にして、その人間模様でそれを浮き彫りにした筆力はさすがである。ただ、人間模様で描く分、無関心という悪とか親の愛という悪とか寂しさという悪とか、それぞれがちょっとずつステロタイプな姿になって「役割を演じる感じ」になったのが残念かも。まぁでもそこをわかりにくくしちゃうと小説としてまとまらないので仕方ないが。
本書は新聞連載小説だったらしい。著者はそれをかなり意識してこのストーリーを紡いだ気がする。つまり、彼の連載のすぐ上に、さまざまな悪人の小さなニュースが載るわけだ。それらの記事の背景にどんな「悪」があり、真の「悪」はいったいどこにあるのか、一歩ずつ読者を立ち止まらせたいと思ったのではないだろうか。単行本にまとめられてしまうとその効果は薄れてしまうのがちょっと残念。
2008年01月06日(日) 17:25:09・リンク用URL
ジャンル:小説(日本)
@satonao310