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吉田修一
「悪人」

amazon吉田修一は「パークライフ」くらいしか読んでいないが、ずいぶん雰囲気が変わったなぁ、というのが第一印象。桐野夏生が書きそうな題材で、彼が書くタイプのものとは思えなかった。これは作家としての飛躍なのかどうなのかは他作をあまり読んでないのでよくわからない。
わかりやすく悪人という人間がいるのではなく、どの人の心の中にも悪人はひっそりと棲んでいるのだということを、細やかにいろんな人の一人称を積み重ねていくことで描いている。途中で「殺人を犯した人が一番悪人っぽく見えないというラストかも」と思ったら、やはりそんな感じだった。
どの人の心の中にも悪人が棲んでいることは昔から題材として多く取り上げられてきたが、ひとつの小さな殺人事件を軸にして、その人間模様でそれを浮き彫りにした筆力はさすがである。ただ、人間模様で描く分、無関心という悪とか親の愛という悪とか寂しさという悪とか、それぞれがちょっとずつステロタイプな姿になって「役割を演じる感じ」になったのが残念かも。まぁでもそこをわかりにくくしちゃうと小説としてまとまらないので仕方ないが。
本書は新聞連載小説だったらしい。著者はそれをかなり意識してこのストーリーを紡いだ気がする。つまり、彼の連載のすぐ上に、さまざまな悪人の小さなニュースが載るわけだ。それらの記事の背景にどんな「悪」があり、真の「悪」はいったいどこにあるのか、一歩ずつ読者を立ち止まらせたいと思ったのではないだろうか。単行本にまとめられてしまうとその効果は薄れてしまうのがちょっと残念。
2008年01月06日(日) 17:25:09・リンク用URL
ジャンル:小説(日本)
「パーク・ライフ」

amazon今年度芥川賞受賞作。
基本的に著者の持つ描写力やリアリティの紡ぎ出し方、かすかな希望への謙虚な表現、などは好きである。好みの方向。
が、この短編に描かれている世界はちょっと物足りないのも確か。淡々とした日常と、その裏にリアルに存在する世界の動き(それも負に近いもの)の対比が特に物足りない。だから、あるスライス・オブ・ライフにしか見えてこない。ボクたちの日常はそういうバランスなのだ、ということはわかる。が、メタファー的なものでも良いから、確固たる対比がボクは欲しかった。描写やストーリーが良いだけに、逆に主題が明確に見えてこない。ラストもはぐらかしで終わっているように思えてしまう。ラストが、かすかで微妙な明日への希望であるなら、中盤にそれに対するものが欲しい。そんな印象。
独自の視点で日常を切り出すことには成功しているが、じゃぁこれが芥川賞かというとウームとうなるなぁ。一番大事な部分をはぐらかして書いているような印象がどうしてもぬぐえなかった。併載の短編「flowers」の構図のわかりやすさもどうなのかと思うが、こっちの方が印象は強かった。
2002年10月01日(火) 12:00:00・リンク用URL
ジャンル:小説(日本)




