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さぬきうどんをCHAIN EATING! 〜立志篇その1
この紀行文は1997年(まだブーム前)にさぬきうどんを求めて家族で香川を彷徨った様子を長々と書きつづったもので、翌年に「うまひゃひゃさぬきうどん」という題名で出版された元原稿でもあります。四部構成になっていて、このページは【立志篇】のその1です。
【立志篇】1・2
【風雲篇】1・2・3・4
【怒濤篇】1・2・3
【回天篇】1・2・3・4
1997年9月18日〜20日。
ボクたち3人家族は、遅めの夏休みをとって香川県に旅行に出かけた。
サマーホリデイはバリだ、ハワイだ、ロサンジェルスだ、と華やかな世情からすれば、大変つつましやかな夏休みである。
なにせ、さぬきうどんを食べるためだけの旅行である。
目的は「本物のさぬきうどんと言われるものの正体を暴き、今まで食べてきたうどんなるものに比較文化論的検討を加え、徹底的に食べることにより得られるある境地から麺類におけるさぬきうどんの座標軸を修正する」ことだ。(そんなたいそうなもんかい!)
サブ目的は、2歳になる娘、響子に「お父さんが打った蕎麦と香川のさぬきうどんとどちらがうまいか決めさせること」である。勝負である。
サブのサブにこんな目的もあった。
ネットでチーズの個人サイトをやっている妻・優子による「高松におけるチーズ事情を探る」。
あ、サブのサブのサブにネットで「ジバラン」なる「自腹覆面レストランガイド」の団長をやっているボクの「高松で評判のフレンチを食べてみる」。
あ、サブのサブのサブのサブに……
もういいって!
とにかく、さぬきうどんを食べに行ったのである。
宿は安い高松厚生年金会館。
うどんなんて(下調べによると)1杯100円とかの世界らしい(in 香川)から高い宿に泊まる気にならないのである。 とにかくつつましやかな夏休みなのだ。
ただなんだか釈然としないのは、さぬきうどんなんか15軒行こうが全部で1500円くらいしかかからないのに、瀬戸大橋が往復10000円もすることである。
橋渡るだけでうどんが100杯食える!
うう……目的より手段の方が高いとは何事!
そういう意味でなんだかバランスの悪い旅行なのであった。
さて、以下はその顛末記である。
結局14軒のさぬきうどん屋に出かけたわけだが(その後何度もさぬきに行き、のべ86軒言っているが)(ちなみに1日の最高記録は11軒だが←バカ)、まず初めに「なぜ、いま、さぬきうどんなのか」ということを読んでくださる方のために明らかにせねばなるまい。
なぜ、どうして、そうまでして「さぬきうどん」を食べに行ったか……
追記:これを最初に書いた頃(1997)は、まだ「さぬきうどんを食べるためだけに旅行する」なんていう酔狂な人はほとんどいなかった。その後ブームになり、そんなことまるで普通になったが。
そう、あれは忘れもしない1年前のいつだったか(忘れとるがな!)。
(ちなみにこのギャグはかの名著「恐るべきさぬきうどん」の定番。ここに敬意を表し拝借させていただきます)
一通のメールがボクのマックに、電話線を経由して舞い込んだ時に始まるのである。
■Kさんの郷土愛
話は10年前にさかのぼる(1年前じゃないんかい!)。
いやいや、あっと言う間に9年経つからちょっと待ってくれ。
会社に入ったボクは大阪に配属になり、まぁずっと東京だったから離れるのもよかんべと思って気軽な気持ちで大阪にやってきたのである。それから13年以上も大阪にいるとはその時は思ってもみなかった、というのはまた別のお話。
で、食い意地がはっているボクは食いだおれの街を食いつくそうと、日々食ってばかりいた。うどんについても例外ではない。関西の人はみな「東京のうどんはまずい」という。そう言うからにはうまいうどん屋がたくさんあるのだろう、と思ったのだが……
実はたいしたことがなかったのである。
有名な「松葉」も「今井」も「川福」も、具やつゆはうまい。でも麺自体はそれほどでもないのである。いや、それほどでもないどころではない。はっきり言って伸びてる。柔らかい。
う〜ん。確かにつゆは東京のバカ濃いのに比べると数倍うまい。うどんという食事形態としてはバランスもいいし完成度も高い。でも、しかし、こんな麺でいいのか?
ここで乱暴に結論づけてしまおう。
「大阪のうどんが東京に比べてうまいと言われているのは、その具やつゆがうまいという意味である。麺は両方ともイマイチ」
蕎麦好きで、麺自体の食感にこだわっていたボクには、物足りないこと頻りだったのであった。
そんなある日、「えん」という小料理屋で鍋を食べていたら、最後にさぬきうどんが出てきた。 さっと湯がいて食べろと言う。
ん、こうか? さっ! ズズズ……
お?! うまい! この麺は、うま、い。
「うまいですねぇ」と一緒に食べていた会社の先輩達に賛同を求めたら、いつも無口でちょっと暗めのKさんが「本場のさぬきうどんの麺は、こんなもんじゃぁないんだけどね」と皮肉っぽくポツリと言うではないか。
Kさんは香川の出身である。なんだ郷土自慢か、と思いつつ、
「香川県のうどんは全然違うんですか?もっとコシがあるとか……?」
「全然違うんだけどね。コシなんて麺の魅力のホンの一部なんだけどね」
「うどんはコシでしょう?ほかにどんな魅力が?」
「いや、佐藤に言ってもどうせわからないからいいよ……」
悲しげに口をつぐむKさん。
いままで幾度もこういう目に遭ってきたことを思わせる諦め切った悲しい目だった。
あぁボクも若かった。
Kさん、許して。アナタの言っていることがやっとこの頃わかったの!
でもさ、こればかりは本場さぬきで食べないと理解できないですよ。わかって!
■日本一のうどん屋
まぁささいなことだけど、ボクにとっては印象的な出来事であったわけです。
コシ以外にどんな魅力があるのだろう…。
そう潜在意識で疑問を持ちつつ、東京に転勤して行ってしまったKさんのことも忘れかけたある日(4年前)、あるうどん屋に出会ったのであった。
そこは大阪駅前第3ビルの地下にある「はがくれ」というさぬきうどんの店であった。決しておいしそうな感じのしない店構えの店である。
いまでこそ雑誌やマスヒロが取り上げてしまって「行列の店」として有名になったが、ボクが何の気なしに入った頃は全然客が入っていなくて寂しげな店だった。
「生(き)じょうゆうどん」という、名前だけは知っていたけど食べたことがなかったメニューをオーダーした。出来たての麺にしょうゆをタラッと垂らすだけのシンプルな食べ方である。うどん本来の味がよくわかる食べ方だ。
ズズズ。
あまり噛まずに喉で食べた………
そして、食べた瞬間、いままでのうどん観がいかに浅はかなものであったかを思い知らされたのである。
「う、う、うまいい〜!
こ、これが本当のうどんか!
こ、これなのかぁ!
Kさん、やっとわかったぜ!ビバ!」
答えはこの寂れた店にあったのである。
おかわりをした。盛大に音を立てて喉で食べた。
……う、うまい。
なんちゅうコシじゃ! この麺、噛んだらもっとうまい〜!
勢いよく、盛大に音を立てて食べた。その食いっぷりを見て「お客さん、麺好きだねぇ」と店主がニコニコ寄ってきた。
「うちは麺だけは自信があるからね。ハハハ」
うまかった。
この生じょうゆうどんを越えるうどんが日本にあるとは思えないうまさだった。
それからはその店に通った。
だんだん周辺の人に口コミでうまさが伝わったのだろう。どんどん混んできた。
山本益博氏や田中康夫氏、家庭画報などがベタ褒めして一気にブレイクした。しまいにはフランスの三ツ星レストランのシェフ、ベルナール・ロワゾーまで来店するような事態となった。
いまや11時半に行っても20人は並んでいる。13時半に行っても20人は並んでいる。試しに14時半に行ってみたらさすがに行列は減っていたがそれでも10人は並んでいた。
でも、いまでも店主はボクが行くと大事にしてくれるのである。糟糠の客は強し!
「まいど! 相変わらず麺好きだね!」
さて、話はやっと1年前にまでたどり着くのである。(なっがいフリでスイマセン)
ボクはホームページで「おいしい店リスト」というのを掲出しているが、関西のうどんの項のトップはもちろん「はがくれ」である。10点満点。もうここに行き着けり、と思っていたのだ。
Kさんの「本場のさぬきうどんの麺は、こんなもんじゃぁないんだけどね」という暗い表情がちょっと引っかかってはいたが、まぁあれは単なる郷土愛である、と片づけていたのだ。だって本当においしいんだもん。これを越えるうどんがあるなんて思わなかったんだもん。
そんなある日。
うーさんというかたから一通の電子メールがボクの元に届いたのである。(注;ボクの会社関係の方へ。あの「うーさん」ではないので念のため)
「こんにちは。
さとなおのおいしい店リスト、いつも利用させていただいています。
はがくれが10点ですか。確かにはがくれもおいしいのですが、
香川にはもっとおいしいうどん屋がたくさんあります。
はがくれが10点なら11点、12点の店がいっぱいあります。
ぜひ香川に食べに来てください。」
そんなメールだった。
たどりついたらいつも雨降り、なんて歌があったけど、
ようやく「はがくれ」にたどり着いたというのに、その「はがくれ」なんかオコチャマだ、とメールは言っているのである。お前なんてうどんのうの字も知らないアカンボだ、とメールはバカにしているのである!(してないって)
ボクはこれを読んで燃えた。
そうまで言われる「さぬきうどん」とはいったい何なのか。 だいたい名物にうまいものなし、というではないか。 単なる県民の偏愛ではないのか?
妻の優子と相談をした。
ちょうど小旅行に四国あたりに行ってみたいと思っていたところであった。
「香川の金比羅さんにでも行って、本場のさぬきうどんを食べてみるのはどうだろう」
「さぬきうどん?なんで?」
「いや、かくかくしかじかで……」
「じゃぁまず、私をはがくれに連れていって」
ということで優子にもはがくれ体験させた。
「お、おいしい・・・!」
「だろー。これよりうまいうどんがあるってんだけど」
「行く行く!明日にでも行く!」
もともと乗りやすい体質の嫁である。見事に乗ってきた。
よし、香川の金比羅さんに行って、その近くで本場のさぬきうどんを食べよう!
さっそくメールをくれた人に返事を出し、琴平の近辺でおいしいうどん屋はないかどうか訊ねた。
その人のオススメは「小縣家(おがたや)」であった。
よし、とりあえずそこに行こう。それで充分だろう……。
その頃はまだ「どこかの店で1食食べれば充分」と思っていたのである。
1/5信4/5疑だったのだ。さぬきうどんなんてどこで食べてもそうは違わない味だろうと思っていたのだ。
「金比羅さんには行ってみたかったからちょうどいいわね」
「うん。おいしくなかったらそれはそれでいいよな」
「そうよ、バイバイさぬきうどん!ってことよ」
あまり期待しないこと。
そう自分に言い聞かせながら、「そんではレッツラゴー!」とばかり出かけたのは1996年の9月であった。
そう、今を去ること1年前である。
ゴメン。まだ1年前なのだ。
@satonao310