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さぬきうどんをCHAIN EATING! 〜回天篇1

この紀行文は1997年(まだブーム前)にさぬきうどんを求めて家族で香川を彷徨った様子を長々と書きつづったもので、翌年に「うまひゃひゃさぬきうどん」という題名で出版された元原稿でもあります。四部構成になっていて、このページは【回天篇】のその1です。

【立志篇】12
【風雲篇】1234
【怒濤篇】123
【回天篇】1234




こないだ会社で同じ部屋にいるケムール・トーヤマと大阪のとあるうどん屋に行った。

「いやぁ、さとなおさんに是非食べて欲しいうどんなんスよ!」

ケムール・トーヤマは身体が弱い。
背は高くて髭づらであるのに、身体が弱い。
おまけにプロレス狂であるのに、身体が弱い。

大昔ウルトラQに「ケムール人」というひょろっとした身体の弱そうな宇宙人が出ていたが、彼を見ているとどうしてもケムール人を思い出すのである。


「香川の本当のさぬきうどんがうまい!という話はわかるスけど、
 でもどのくらいうまいのかが、まだ想像つかないんスよ。
 たぶん、ここのうどん、『はがくれ』よりはおいしいと思うんスけど
 ちょっと食べてみてくださいッス」


香川から帰ってからボクは会社でさんざん吹聴した。

さぬきうどん・アズ・ナンバーワン!
さぬきうどんは無形文化遺産なのである!
さぬきうどんを知らずして人生を語るな!
ついでに、ヨーロ・レイ・ヒーを知らずしてラブホを語るな!


まぁ、みんな、1/5信4/5疑ではあったな。
たかがうどんがそれほど違うのか?
小麦粉をこねて切って茹でただけでそれほど違いが出るのか?

みんななかなか信じてくれなかったのである。
ダメかな・・・と、布教に自信がなくなってきた頃、ケムールが勝負してきたというわけだ。


「偉い! キミはケムールのくせに素直な心を持っておる!」
「ケムールはやめてくださいッスよ」
「よし! キミは今日からネムール・トーヤマに大昇格させてやろう」
「ぜんぜん昇格していないッスぅ!」


彼は身体が弱いせいか実によく眠るのである。
眠りすぎて会社に来なかったりする。大事な仕事があっても大幅に寝過ごす。
会社に何とかたどり着いてもすぐ居眠りを・・・以下彼の出世のために自粛(もう遅いって)。

実は。
実は、第一部[立志篇]でベタ褒めした大阪のうどん屋『はがくれ』はちょっと味が落ちている(1997年当時のこと。その後はわからない)。

この半年くらい何度も何度も『はがくれ』に行っているボクであるが、その度に「うーん・・・」とうなるのである。
なんか違う。
『山越』やら『谷川米穀店』とかで鍛えられてボクの舌が肥えすぎてしまったのか・・・いや違う。やっぱり味が変わってしまっているのだ。
あの、まるで天国のようだった生じょうゆうどんが、変わってしまったのだ。

粘りはあるのだが歯ごたえが弱くなり、全体にチカラがなくなった。
はやりすぎたのだろうか。いまでも常に10〜20人は店の前に行列を作っている。

忙しすぎはなんにしろ質を落す。
一時は日本一とまで思った『はがくれ』のあのうどん、早く復活してほしいものである。



さて、ケムール改めネムールご推薦のうどん屋は大阪の南の方、上本町に程近いところにあった。

おばちゃんが数人でやっており、メニューはぶっかけとざると釜揚げのみ。
作り置かずにきちんと出来たてを食べさせてくれる良心的な店。釜揚げとざるを頼んだら、おばちゃんすぐに生地を延ばし始め、素早く切って釜にぶち込んだ。

これは期待できそうである。

少なくとも出来たてうどんではある。

出来上がってきたうどんは黄色味を帯び、表面はピカピカ。いかにもうまそうな肌艶をしておる。なんだかうれしくなってしまった。



一口、ズズズ。



「ど、どうですか?」

ネムールが身を乗り出してくる。
乗り出すな。近くで見るとキミは怖いのだ。

「う〜ん。ひと言で言うと・・・」
「ひ、ひと言で言うと?!」
「いいか、ひと言しか言わんぞ」
「は、はい・・・」
「・・・・・オコチャマ


うまい。確かにうまいことはうまいのだ。ネムールが居眠りせずに勧めるだけのことはある。

が、しかし。

違うのだ。

このうどんのレベルをはるかに凌駕するのが本物の「さぬきうどん」なのだ。


「でも、このうどん、うまいっしょー?
 たかがうどんが、ここからどういう風にうまく変われるのかが
 よくわからないんっスよー」


ネムールの疑問は当然だ。
読んでおられる方もそう感じているのではなかろうか。

身近なおいしいうどん屋さんを思い浮かべて「そうは言っても、しょせんうどん。あのお店のおいしさとどう違ってくるって言うのよねぇ」などと一歩引いて読んでおられるのではないだろうか。


でも、違うのだ。
ご自分で食べてみるまではわからないかもしれないが、あなたが食べているうどんとは、はっきり言って、ぜんぜん違うのだ。
言ってみれば、「ずうとるび」と「ビートルズ」ぐらいは違うのである。


「・・・ってことは、このうどんは『ずうとるび』ッスか?!」


ネムールよ。
悪いが、このうどんは『ずうとるび』だ。
言いたくはないが、「みかん色の恋」しかヒットがないお笑いグループ『ずうとるび』なのだ(若い人は知らんって)。


まぁボクも香川に行くまではそこまでレベルが違うとは思わなかったのだから、そう肩を落とすことはない。
ネムールも行けばいいのだ。香川へ。香川で本物のビートルズを食ってこい。『ずうとるび』しか知らないで死んでいくような人生でもいいのか?

てなことで。
ショックを受けているネムールはほっておいて『ビートルズ』をあと4軒回ることにしよう。


この旅の最終日の記録である。

日付は変わり、1997年9月の20日土曜日。
この日はたった(?)4軒しか回らない。たった4軒とはいえ、高松一の誉れ高い『あたりや』、伝説の店『中村』、発見しがたい店の代表『彦江』、釜揚げの聖域『長田』と非常に濃いビートルズが勢ぞろいしている。
これらを午前中に制覇する予定である。
目覚ましは朝7時半にセットされている。
8時半にはホテルを出て、9時には一軒目『あたりや』を攻める。


では、行くべし。



■「あたりや」〜まぶたが重い麺〜



あたりや・・・・変な名前である。
『恐るべき』でベタ褒めされてなければまず入らない店名である。
素直に自分の名字をつける店が多い香川にあって、こういうトリッキーな名前は珍しい。だいたい名前からおいしそうな匂いがしてこない。まだ「讃岐家」のほうがいいぞ。


「なんでこんな名前なのかしら?」
「わからんなぁ・・・やりたぁ〜の逆読み、か?」
「なにを やりたぁ〜 いのよ」
「うーむ・・・うどん屋」
「まんまやないの!」


しかもこの店、なんとパチンコ屋の地下駐車場にあるのだ(単なる地下じゃないぞ、地下駐車場だぞ)。


「あ、わかった! パチンコの大当たり!」
「大当たりだから、当たり屋?」
「うーん、それもなんだかなぁ・・・」


地下と言っても地上にある。(わかるか!)
いや、つまり道路から入るとパチンコ屋の2階に入るようになっているのだな。そう、道路自体が地面より高い構造になっているわけ。で、パチンコ屋の地下駐車場(つまり1階か?)に降りていくと裏が開けていて、そこに「あたりや」があるというわけだ。


つまり道路側からはまるで見えない。
しかもパチンコ屋の客だって、一階駐車場に止めた客は、うどん屋の存在を知らないかもしれない。

そんな立地である。

高松は都会とはいえ、東京・大阪に比べたらまだまだ土地は余っているのである。
なぜわざわざつらい立地に建てる?
なぜここまで自分を追い込む?
超シャイか、超マゾか、それともどんな立地でも客を呼べるという超自信家か・・・


「わかった! 店主、パチンコに勝ちすぎてお店側が
 『これで許してください』ってこの土地差し出したのよ!」


うーん。
負けすぎて働かされていると考えるほうが素直だと思うが・・・。




ということで、『あたりや』である。
高松市内だから、泊まっているホテルから近いことは近い。
高松市内にはJR高松駅の前から南に一直線にのびている中央通りという大きな通りがある(国道11号)。これを南下。栗林公園を越えてちょっと行くとバイパスがどうの、という標識が見えてくる(上天神町の交差点)。
で、そこを左折。すぐ左側に「パーラードリーム」というパチンコ屋がある。その駐車場に入ると地下へ降りる道があるからそこを降りて明るい方へ行く。すると目の前が開ける。屋外に出たのだ。そこにこの店はある。


朝7時半に起きたとはいえ2歳児を起こしてご機嫌をとりながら用意するのには時間がかかる。チェックアウトしてやっとこさここにたどり着いた時にはもう時計は9時半を示していた。


「出遅れたな」
「ぱっと食べて次に行こ」


そこらに車を止める(駐車場だから止め放題)。小さいプレハブが駐車場の隅にある。おお、ここが「あたりや」かぁ・・・あら?まだのれんが出ていないぞ・・・


・・・まだやっていないではないか!
営業時間は9時からって『恐るべき』に書いてあったぞ。
ひょっとして今日はお休み?



と、その時。
キキー! ブロブロぷすん

呆然とする我々の後ろに一台のバンが止まった。

降りてきたオッチャンを見たら・・・「あたりや」のTシャツを着ている!
矢が的に当たっている図柄のTシャツ・・・「当たり矢」。
謎が解けた・・・「当たり屋」だと思っていたが「当たり矢」だったのだ!
どうやらやっとご出勤のようである。


「あ、あの〜、この店何時からですか?」
「9時から」
「・・・・」


もう9時半過ぎている。


「もう食べられます?」
「いまから仕込み」
    ・
    ・
    ・
    ・
    ・
「あたりや」だけに「いたりや」時間。(うまい!←そうか?)




仕方がないのである。
先に他の店に行くわけにはいかない。次に目指す店は飯山町ゆえ遠いし、諦めてしまうには悔しいくらい『あたりや』は『恐るべき』で褒めてあるのだ。


「しょうがない、1時間ほど時間を潰そう・・・」


高松の市街に戻って優子のホームページのために高松のチーズ事情を探ることにする。10時に開店した三越とそごうの食品売り場を回って時間を潰す。そして10時40分、『あたりや』に帰ってきた。


さすがにのれんが出ている。
例の「当たり矢」マーク。

くぐると先客が5人ほど。
うまそうにうどんを食っている。くそ、ボクたちの方が先に来たのに!


ここは製麺所ではなさそうだが、セルフの店だ。注文を聞いてくれる。
若いにいちゃんに「ひやひや」を注文。評判の高いゲソ天もとってしばし待った。
第三部怒濤篇を読んだ方なら「ひやひや」に覚えがあるだろう。そう、ここ、『宮武』と同じメニューなのである。

噂では『宮武』と『山内』は親戚関係。で、『あたりや』の大将は『山内』で修行をしたと言うではないか。そう、この3店は同じ系統、なのである。と、すると、麺もだいたい想像がつく。固くて小麦粉密度が高い重量級であろう。


呼ばれたので取りに行く。
うん。やっぱり麺は『宮武』のように太くてちょっと縮れている。


「ほぼ同じ感じね」
「うん、本当によく似ているな」




ひと口。ズズズ。




・・・じっとり重い。
   低気圧の空みたいな重さである。

固く歯にゴチッとは来るが、『山越』に感じたような軽快さはない。
ただ重く、そしてどこかストイックなのである。


「大将さ、今日は寝坊したし、きっと機嫌悪いのよ」
「そうかなぁ・・・」
「きっと今日は不出来なのよ」


優子の言葉にあいまいにうなずきながら、ボクは別のことを考えていた。

ひょっとしたらうどん屋には「朝いち」に来てはいけないのではないか・・・?

うどんは小麦粉を練って丸めて足で踏んで、そして寝かす。充分寝かしたあとに、平たく延ばして、切って、茹でるのだ。
朝に練って丸めて踏んだ生地は、とりあえず寝かさなければならない。

さぬきうどんの資料を見てみると、夏は3時間くらい寝かす、と書いてある。
暑い時期はあんまり寝かすとへたるから、夏は朝打ち(朝打って朝寝かす)とも書いてある。
3時間寝かすなら練る作業は4時間くらい前にしなければならない。10時に出すなら朝6時には練り始めなければならない・・・。


ところがここの大将はさっき来た。
さっき来たということは今日の「練って丸めて踏んで」という作業を今しはじめている、ということが言えないか。
つまり、いま食べている麺は、昨日の晩から寝かしておいた生地を延ばして切って茹でたものではないか・・・?


「店に来る前に家で打った」可能性もあるのだが、ひょっとしてきのうの夜から冷蔵庫とかでずっと寝かした、寝かしすぎた生地だから、こんなに重いのではないか・・・。

こんな疑問が頭を離れなかった。
寝すぎでぼんやりした麺、そんな印象だったのだ。


もしかしたら朝打ったものを食べるのなら、やはり朝11時くらいがベストなのではあるまいか・・・。


ボクはそんな疑問を胸にこの店を後にした。
そしてこの疑問はこれを書いている今でもまだ頭の中を回っているのである。




※追記:『あたりや』はその後再訪したが、その時は異様にうまかった!
    やっぱり「食べるタイミングがすべて」ということなのかな。


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