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さぬきうどんをCHAIN EATING! 〜風雲篇4
この紀行文は1997年(まだブーム前)にさぬきうどんを求めて家族で香川を彷徨った様子を長々と書きつづったもので、翌年に「うまひゃひゃさぬきうどん」という題名で出版された元原稿でもあります。四部構成になっていて、このページは【風雲篇】のその4です。
【立志篇】1・2
【風雲篇】1・2・3・4
【怒濤篇】1・2・3
【回天篇】1・2・3・4
■高松で夜食うならココ!「讃岐家」
その夜は20時に夕食を考えていた。
というか、食べ続けなので、もう昼食だか夕食だか夜食だかなにがなんだかわからないのである。
が、ボクの愛すべき胃袋は元気だった。まだまだ闘志に燃えていたのだ。まだまださぬきうどんを食べたいと叫んでいるのだった(単なる胃拡張では?)。
「大圓」でぶっかけを堪能した後、とりあえずボクらはホテルにチェックインした。
わりと部屋もきれいであった。よしよし。
チャイルドシートに身体が張り付いてしまった感のある響子と一緒にホテルの廊下を競争する。 運動不足に欲求不満、とにか子供には可哀想なことをしているのでその罪滅ぼし、というのが建て前。
本音は「腹減らし」である。
あと2軒。
特に「讃岐家」は「一般店の白眉」とまで言われている名店だ。
気合いも入るというものである。
19時40分までホテルで休んで、夜の高松に出かける。
高松の繁華街は国道11号線沿いのワシントンホテルを中心に南北に広がっている。
車をワシントンホテルの斜前の駐車場に入れ、トキ新に入り50メートルほど。右に折れるとすぐにその「讃岐家」はあった。
いかにも、な、一般店である。
だいたい名前からして「蒲生」とか「田村」とかと違う。「讃岐家」だもん。
もしボクがこの店を知らなかったらきっと入っていない。あまりに普通と言うか、観光客相手っぽいと言うか、なんだかヒネリがないのである。
せめて名前の順番入れ換えて「きぬさや」にするとかさ(そういうのをヒネリとは言わない)。
1階のカウンター席を通り過ぎ階段を上り2階の座敷にいく。
子供連れだから座敷があると助かるのである。
居酒屋みたいな座敷だが、セルフの店(たとえば待合室みたいな田村とか)と比べると、もう完璧にいかにも一般店である。
当然のように、なめこおろしを頼む。
これは『恐るべき』にべた誉めしてあったうどんだ。 ココの大定番らしい。
わりと時間がかかったが、やっと来る。時間がかかったということは……打ち立て・茹で立ての可能性大。やったぜ!
でも、ああ、せっかくの麺が出汁の中に埋没しておる。
ちょっと嫌な予感。大丈夫か?
で、おもむろにひと口。ズズズ。
こ、これは!
固いのに、やわらかいではないか!
そして、やわらかいのに固い。
わかっていただけるであろうか。
新鮮なイカの刺身を想像してみて欲しい。 固やわらかいのだ。
とろける固さとでも言おうか。
歯はちゃんと抵抗を感じるのだが、その抵抗が固くも柔らかくもない。実に快感だ。
うどん自体は角がキリリと立っていて舌触りもカクカクしている。が、喉越しは超なめらかだ。ひっぱったらどこまでも伸びそうなそんな柔らかさが印象的。
うーーーん。これはうまい。
「店名にセンスはないけれど」
「麺にはセンスありまくりねぇ」
至福の時であった。
なめこもおろしも抜群に絡み合って、この固やわらかい麺を上手に引き立てている。 ほとんどのさぬきうどんは麺が主役。だから「しょうゆをかけるだけ」とかが一番うまいのであるが、ここのは麺をちゃんと主役に立てつつ主張している。
これはうんまいなぁ。
わりとおなかいっぱい、とか言っていた優子も、ズズズズズ、と盛大だ。響子も無言で食べている。
さぬきうどんって楽しいなぁ。本当にいろんな魅力があるんだなぁ。いやぁ、なんだか香川というところはとっつきは悪いけど、一度中に入り込むとどんどん幸せにしてくれるなぁ。
よし!
次の五右衛門も楽しみだ。行くぞ! 優子に響子!
「うーん……私はちょっとパス」
「へ?」
「もうお腹いっぱいよ」
「そ、そうか……」
「それに響子を寝かさないと」
我が妻は脱落、か。あ、響子は無理やり脱落させるんだけど。
「なんか食べゆ!」
「ホテルに帰ったら肉まんあげるから。ね、我慢して!」
響子をなだめすかしながら優子が帰っていく。
仕方ない。ではひとりでハシゴしよう!
『恐るべき』で日本一のカレーうどんと激賞されている「五右衛門」へ、いざ。
■「五右衛門」〜前線を固めよ〜
「五右衛門」は「讃岐家」から北に歩いて7〜8分くらいのところにあった。
ワシントンホテルの横のライオン通りをしばらく行って 北古馬場の細い路地を左に曲がり、20メートルくらい行った右側だ。
今日の最終目的地。5軒目である。
読んでいる方もお腹がいっぱいになったであろうが、まぁさすがのボクもちょっとお腹がくちくなってきた。時間を置かずに食べなければちょっと苦しいかもしれない。
外観はいままで行った店とガラリと違う。
言ってみればカフェバー系。
ちょっと嫌な予感。
こういう店がおいしいわけがないと過去の経験が言っている。
カウンターに座る。
飲み屋帰りのお客さんが数人、ズズズと食べている。
一応メニューを選ぶフリをしたりしてから、おもむろにカレーうどんを注文した。 だって、すぐカレーうどん頼んだら『恐るべき』を読んできたことバレバレだもの。それはちょっと恥ずかしいし。
来た。
見た目は普通のカレーうどん。
麺が白い。ピカピカしていてうまそうだ。
で、ひとくち。ズズズ。
ムニ。
ムニムニ〜〜。
ムニムニムニムニ〜〜。
最初から最後までムニムニだぁ!
噛みきれない。噛みきりにくい。とにかくムニムニやわらかいのに噛みきれない。
グミキャンディー系のやわらかさとお伝えすればわかるだろうか。 歯がない人なら一生ムニムニしていなければならない。よく病人に「身体が温まるから」とか言ってうどんを食べさすが、これ食べたら下手な病人だったら噛みきれず窒息死します。そのくらいムニムニだ。
歯が丈夫で良かったと思うのはこういう時である。ビバ!お口の健康!
そしてこのカレーだし。
いわゆるうどん屋そば屋特有の、だしでルーをといたものだが、そこらのカレーうどんと違うのは、まずさぬきうどんらしく「麺が主役」であることだ。だからこれは「カレーうどん」と言うよりは「カレーつけうどん」だな。
そしてカレーだしがまたうまい。すごくさっぱりしている。口に残らないのだ。(翌日わかったのだが、夜に食べたのに翌日もカレーのゲップが出ない。胃に負担がかからないカレーなのだ)
うーん。うまい。
カレーうどんなんて作り置きのふにゃふにゃうどんでもたいして味は変わらないだろうに、ここ「五右衛門」はちゃんと麺にこだわっている。ピシッと背筋の伸びた麺なのだ。
ただ、ボクがさぬきうどんの特徴として感じはじめている「歯に対する強烈なる前線反発力」が少し足りない気がする。 前線(うどんの表面)での反発・抵抗がちょっと弱いのだ。その分、後方での粘りと弾力で勝負している。薄皮一枚の噛み切れなさは秀逸だ。
でもね、この手のうどんは本州でもないことはないぞ。
前線をもっと固めてくれ、「五右衛門」よ。
そんなめちゃ贅沢なお願いを店員に聞こえないように心の中で叫びつつ(←小心者!)、ボクはホテルに帰ったのだった。
「とりあえず1日目は楽しかったね」
「うーん。イヨ〜に楽しかったなぁ。
まだ食えるぞ。なんぼでも食える。たんぼでも食える。
ここに書いてある鶴丸というのに今から行ってみるかな」
「やめときなさいよ。明日があるんだから!」
……そうだな。
なにしろあしたは一番期待が大きい店達が待っている。
「山越」「谷川米穀店」「山内」「宮武」「山下」…
味としてもシチュエーションとしても、この旅のメインイベントになるはずなのである。
※これで第二部はおしまい。
次はいよいよ第三部。
さぬきうどんの本質に突入していくのだ!
@satonao310