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さぬきうどんをCHAIN EATING! 〜回天篇3

この紀行文は1997年(まだブーム前)にさぬきうどんを求めて家族で香川を彷徨った様子を長々と書きつづったもので、翌年に「うまひゃひゃさぬきうどん」という題名で出版された元原稿でもあります。四部構成になっていて、このページは【回天篇】のその3です。

【立志篇】12
【風雲篇】1234
【怒濤篇】123
【回天篇】1234




『あたりや』『中村』『彦江』となかなか濃い店達を回ってきたが、そろそろ香川を後にしなければならない。

今日の最後は『長田』である。

そして『長田』はこの旅の最終店でもある。

この店で食べた後、瀬戸大橋を渡り、岡山の吉田さんちでロシア家庭料理(メールで知り合った吉田さんはロシア経験が長く、奥さんはロシア料理の名人なのだ)をご馳走になる予定なのである。


「いよいよ、西郷どんだなぁ」
「なによそれ?」
「い、いや、さいごうどん、最後うどん・・・」
「・・・」
「で、でも吉田さんちのロシア料理にお腹とっておかないとな」
「・・・私、モス、クワれへんかも」
「キミはハラショーだからなぁ」

うちはダジャレ家族かい!
こうしてボクたちは、くだらないシャレを考え考え『長田』に向かったのである。

これで14軒目。
優子もよくがんばったよな、腹小のくせに。

「なんのピロシキ!」

もういいって。




さてさて。
実は『長田』に行くには『彦江』からわざわざ香川の中央部に戻らないといけない。 瀬戸大橋はすぐそこなのに、わざわざ反対方向に行かないといけない。
なのになぜ行くのか・・・。

理由はみっつ。


  1. 『長田』は釜揚げうどんが有名で、『恐るべき』で「聖域」とまで言われている店である。

  2. ここに行けば『恐るべき』第3巻でS級指定(まぁ究極推薦店ということですな)してある10店をすべて網羅したことになる。ちなみに他の9店は、山越、山内、宮武、谷川、あたりや、山下、田村、彦江、蒲生

  3. 時間的に打ち立てが食べられそうにない時間なので一般店にしたいが、『長田』は一般店である。製麺所もしているらしいが、一般店に分類してもいいだろう。

ね、反対方向でも行く価値あるでしょ。

しかも釜揚げうどんは『長田』が元祖らしいのだ。
「釜揚げうどん」こそ本当のさぬきうどんだと書いてある本もあるくらいだし、楽しみだ。

「ねぇ・・・私、実はよくわかっていないんだけど、釜揚げうどんって普通の温かいうどんと実際にはどう違うの?」


そう、そういう説明をしとかなければいけないな。
最初はボクもよく知らなかった。昔は釜でうどんを揚げるのかとすら思っていた。だって「揚げる」って時を使ってるんだもん。

よし、簡単に説明してみよう。
「釜揚げうどん」とは何なのか・・・。

それには、うどんの作り方から説明するのが結局早そうである。
なるべくわかりやすく書くから飛ばさず読んでね。
読み終わったらアナタもいっぱしのさぬきうどん通である。



■いまさらながらに、さぬきうどんを知ろう。



さぬきうどん作りは大きく次の5つの工程に分かれると思われる。


  1. 手なずけちやほや工程

  2. いじめはりたおし工程

  3. いたわりなぐさめ工程

  4. 調子にのんなコラ工程

  5. マイフェアレディ工程

まるで怖いお兄さんによる「女の作り方」のようである。


  1. 最初は優しくちやほやして女をモノにする。
      ・・・【手なずけちやほや工程】

  2. 女がこっちのモノとなったと見たら腕力にものをいわしていじめたおし、優位に立つ。
      ・・・【いじめはりたおし工程】

  3. いじめてばかりだと逃げられるので「もうしないから」といたわりなぐさめる(泣いてすがるともっと効果的)。
      ・・・【いたわりなぐさめ工程】

  4. 男に愛があると女が勘違いしだしたら完膚無きまでに痛い目に合わせ、圧倒的優位に立つ。
      ・・・【調子にのんなコラ工程】

  5. 安定優位に立ったら女をどの店に出しても恥ずかしくないようにきれいに変身させ働きに出す。
      ・・・【マイフェアレディ工程】



「・・・いったい女をなんだと思ってるのよ」
「いや、これは、た・と・え・ば、ってことで」
「調子にのんなコラ!」
「はい、うちではアナタが安定優位です」

・・・例えが悪かったようだ。


ええと、もうちょっとだけ具体的に説明します。
この紀行文は「さぬきうどんを打とう」がテーマではないからずいぶん略すので、本格的うどん打ちの方、クレームなどしないでね。

  1. 手なずけちやほや工程

    これは「混ぜ」。小麦粉と塩水を優しく優しく混ぜてやるのだ。空気を混ぜながらね。冷凍用のうどんはここで片栗粉も入れて粘りを演出すると聞いたことがあるけど、基本的には小麦粉(中力粉・・・オーストラリア産がよく使われている)と塩水のみ。
    さぬきうどんは加水率が高いのが他のうどんと全然ちがうところらしい。あと、塩も多いぞ。たとえばきしめんなんかは塩をほとんど混ぜないという。あ、さぬきうどんにも塩をほとんど混ぜない「打ち込み」っていうメニューがあるらしいが。
    小麦粉:塩水=100:40〜42目安。
    塩水濃度は、夏塩1杯に水9杯。冬は塩1杯に水15杯程度。
    やっぱり塩が濃いよねー。麺の奥に塩味をほのかに感じるのは、これだな。


  2. いじめはりたおし工程

    優しく混ぜ合わせたら、いきなり暴力沙汰である。
    「こね」と「足踏み」。
    混ぜたものを手で丸めてこねていくのだが、グルテンが形成されるにしたがって腕力だけではこねきれなくなるので、より力強くこねるために体重をかけてこねるのだ。
    これが「足踏み」。
    生地の上にビニールやゴザを敷いて(敷かないと汚い)、足で踏む。 踏み広げたらまた手で丸める。これを4〜5回繰り返す。とにかく生地をいじめぬく。いじめればいじめるほど歯ごたえが、粘りが出る(いじめすぎるとぐれちゃうらしいが)。
    まぁ体重をかける以上、太った人の方がより力強いコシが生まれるんだろうな。なお、この工程の途中で一度寝かす場合が多い。


  3. いたわりなぐさめ工程

    いじめぬいたものを、ごめんね、もうしないから安心しておやすみ、とばかりに「寝かす」。
    熟成させるために静かに常温で置いておくのだ。寝かしすぎてもいけないが、寝不足もダメ。季節によってちょうどいい時間分だけ寝かす。夏だと3時間、冬で6時間が適当らしい。

    『あたりや』で悩んだのはこのあたりのことだ。
    家でこねたものを持ってきたのかもしれないという疑問は残るものの、もしかしたら昨日の夜から冷蔵庫で寝かした生地を使ったのではないか・・・と悩んだわけだ。
    それでは寝かしすぎではないか・・・。うまさがやっぱり落ちるのではないか・・・。そう思ったのである。


  4. 調子にのんなコラ工程

    いつまで寝てるんじゃボケ〜〜! とばかりに大暴力する過程。
    「延ばし」と「切り」である。
    うどん本人にとっては地獄な工程。延ばされて切り刻まれる・・・。
    寝かした生地を板の上に置き手で軽く延ばす。で、生地同士がくっつかないようにコーンスターチ(トウモロコシの粉)を振ってから、麺棒で延ばしていく。
    コーンスターチの役割は蕎麦でいう打ち粉ですね。これを振らないと切るときも切った端から包丁にくっついて大変だ。でも、このコーンスターチが後で説明する「釜揚げうどん」にちょいと影響を与えてしまうのだけど。

    延ばすのは麺棒に巻き取って転がして広げていくんだけど、この時さぬきでは独特の「すかし打ち」というのをする。一度持ち上げてトンと落としながら麺棒を転がす。ここでトンッ、トンッ、トンッと音が出るから、この延ばしを「打ち」と呼ぶらしい。これが「手打ち」の由来。

    つまり、手打ちうどんの手打ちとは「延ばす工程」のことなのだ。
    知ってた?
    「打ち立て」とはイコール「延ばし立て」なんですね。

    で、薄く長方形に延ばした後(だいたい3mmくらいの薄さ)、包丁で「切る」わけ。太く切れば太い麺になるし細く切れば細い麺になる。当たり前。ちなみに「手打ち」をうたっている店でも、切るのは機械という店は多い。


  5. マイフェアレディ工程

    痛めた相手をお風呂に入れてあげ、冷水でお肌をつやつやに仕上げてあげるのがこの過程。ただのイモだったイライザを見事にレディに変身させる映画「マイ・フェア・レディ」さながらの劇的工程だ。
    まず切った麺をまとめてはたき、コーンスターチなどの粉を落してやる。化粧落しですな。で、お風呂。沸騰したお湯に入れてやる。この際塩が溶け出して盛大に泡が立つ。泡立ったら麺を持ち上げてやって泡を鎮めた方がいいらしい。

    一本取って噛んでみて芯が残るくらいのところで上げる。だいたい10分強。茹で上がったらざるにとり、冷水で一気に洗う。わりとゴシゴシ力強く洗ってやるのだ。ヌメリが取れる。
    ブサイクから色白美人へ、この見事なる変身。わざわざ昆虫に変身する仮面ライダーとは美意識が違うのである。

    ちなみに冷水の水質は大事だろう。『山越』はこの冷水の質がとてもいいらしい。たしかに麺の表面に多少は吸収されるし、直接味に関わってくる気はする。店によっては氷水で洗うところもある。でもこれはちょっと表面が締まりすぎる気がするぞ。



さて。

上の説明では最後に冷水で締めたが、実はここが大事ぃ北京なのだ。

「それを言うならゼンジー北京」

冷静に つっこんでくれて、ありがとアル。



■冷水につっこんで



茹で上がった麺は、基本的にすべて冷水で洗う。
茹で立てのホッカホカを冷水につっこんでゴシゴシ洗うのだ。
これにはみっつの役目がある。


  1. 冷水で麺の表面を締めることで、力強い「歯ごたえ」が出る。湯上がりだらり肌をぐっと締めるから、麺の表面が締まり、ぴしっとエッジが立つのだ。

  2. 冷水で麺の表面についたコーンスターチを洗い落とす。そして煮崩れかけた麺の表面も洗い流してきれいにする。これにより独特のヌルヌル感が消える。かわりにつるつるの舌触りが出てくる。

  3. 冷水で麺の表面を締めることで、それ以上余分な熱が通ることを防ぎ、麺の状態をそのままにしばらく保存が出来るようになる

ボクが第一部から言っている「作り置き」というのはここで言う「3」だ。 「冷水で締めた状態でしばらく保存すること」である。
30分くらいなら「茹で立て」の品質を保つらしいが、それ以上置いたらいくら冷水で締めたものでもダメ、らしい。

冷水で締め、せいろにひと玉ずつ並べる。
それをほとんどの製麺所が昼前にやり終えるのだ。出荷の関係であろう。

だから製麺所で食べる場合おいしく食べられる時間はおのずと決まってくるわけ。



で、冷水で締めた麺はそれぞれ次のように変身する。
東京や関西ではあまり聞かないメニューなのだけど、香川ではポピュラーだ。


  • そのまましょうゆをかけて食べると「しょうゆうどん」

  • そのまま冷たい水・氷をかけると「冷やしうどん」

  • 湯がいてお湯をかけると「湯だめうどん」

  • 湯がいて出汁をかけると「かけうどん」

いままで回ったいろんな店で「冷たいん」と「温かいん」があったが、これは冷たい麺(冷水で締めたままのもの)に冷たい出汁をかけるのが「冷たいん」で、冷たい麺を湯がいて温め、それに温かい出汁をかけたものが「温かいん」ということである。
ちなみに湯がくと、長く作り置いた麺でも、ある程度は生き返るらしい。

さて、では問題の「釜揚げうどん」はどうなのか。


彼は異邦人だ。
エトランゼ。そう、彼だけ全くの仲間外れなのだ。


なにしろ 冷水で締めない。
洗わない。
茹で上がった(釜から揚がった)麺を釜の中の茹で汁と一緒に丼に入れ、つけ出汁で食べるのが「釜揚げうどん」なのだ。


冷水で締めないから作り置きがきかない。

余分な熱がどんどん麺に通っていってしまう。
すぐのびきってしまうのだ。
だから注文が入ってからいちいち茹でて、茹で上がったらすぐに客に給しなければならない。
出す方は大変なのである。

だから製麺所やセルフの店だと「釜揚げうどん」をメニューに置いていない店も多い。
メニューに置いていても中途半端な時間に行くと「今の時間は釜揚げは出来ません」と断ってくるだろう。作り置きの麺で「釜揚げうどん」は出来ないからである。


良心的でない店は良心的でないこともする(当たり前じゃ)。

つまり、店によっては冷水で締めたものを湯がいて茹で汁をかけ「釜揚げうどん」と称しているところがあるのである。「釜揚げうどん」の作り置き、だ。
もちろん、これはインチキだ。
冷水で締めた後ならそれは「湯だめうどん」属に分類されるはずなのである(香川県以外ではほとんどこれを「釜揚げうどん」と称している。東京や大阪でも本来の意味での釜揚げうどんを出す店はほとんどない)。


本当の「釜揚げうどん」は冷水で締めないから表面が柔らかい。
ちょっと煮崩れていさえする。
そのうえ、冷水で洗わないから打ち粉に使ったコーンスターチが表面についている。
それらがヌルヌルした独特の舌触りになるのだ。

そして 、モチモチした独特の食感をしている。
冷水で締めない分、エッジは立ってないし歯ごたえも少ないが、歯にやさしい食感と粘りがあるのだ。そのうえ、冷水で洗うと消えてしまう麺の表面の「香り」も味わえる。


「わたし、冷たいのより釜揚げうどんの方が好きかも」

うん。優子はそうらしいな。

でもボクは冷水で締めたものの方が好きだ。
あの歯ごたえ、あの弾力、あの舌触りが断然好きである。
「釜揚げうどん」のヌルヌルは嫌いじゃないが、イマイチ快感に結びつかない気がするのだ。


「やっぱり快感では劣ると思うぞ」
「うーん・・・そうね、とにかく長田で比べてみましょうよ」


よし、「釜揚げうどん」vs 「冷たいうどん」といこう。


麺の快感はどっちの方が大きいのであろうか。



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