ハンクさんが亡くなってしまった…

2010年5月18日(火) 7:50:46

ジャズ・ピアノの大御所というか、生きる伝説みたいな存在だった人、ハンク・ジョーンズさんが亡くなってしまった。91歳。経歴はWikipediaにくわしい。

彼の人生の歴史はジャズの歴史。きっとボクよりもずっと長いこと彼のピアノを聴いてきた人もいるだろうし、もっと悲しんでいるジャズ・ファンも多いだろうから、ここで思い入れたっぷり大仰に悲しむのもどうかと思う。でも少しだけ書かせていただく。

ある時期。あれはええと1990年代中盤の5年くらいかな。ボクは彼と長く一緒だった。一緒にいた時間だけ計ったら、彼と接した日本人の中でもトップレベルに長かったと思う。

パナソニックの企業広告の仕事だった。「What's New」という曲とともに最新技術を紹介するCMがあったのだが(ハンクさんの決めセリフ「ヤルモンダ!」で覚えている人もいるかもしれない)、それにハンク・ジョーンズさんを起用し、シリーズ広告を作った。5年に渡り、何度もロケやスタジオ撮影をした。ニューヨーク・ロケはたぶん5回くらい。東京ロケも3回くらい。ヴィレッジ・ヴァンガードやスイート・ベイジルなど、数々の有名ジャズクラブを貸し切って撮影をした。撮影の合間に拙い英語でいろんな話を一緒にした。ボクたちスタッフだけを観客に、何度も何度もピアノを弾いてくれた。

思い出はたくさんある。ありすぎるほどたくさんある。しばらく経ったら書いてみたいと思っている。

写真は、ハンクさんと知り合って5年目のころだろうか。娘の響子がピアノをやっているので何かひと言お願いできますか? とお願いしたら、ハンクさん、なぜか長考に入り、長時間かけて絞り出すようにこれらの言葉を書いてくれた(二枚目はそれを書いてくれているハンクさん)。いつも本当に丁寧なのだ。そして謙虚。こんなにすごい人なのに、驚くほど謙虚で優しい。どこに連れて行っても、なにを見せても、すごく喜んでくれた(和食だけはあまり合わなかったようだけど)。そしていつ会ってもキチッとネクタイをし、背筋をピンと伸ばしていた。

この写真の言葉通り、彼は練習を本当に怠らなかった。ロケ中も、少しでも時間があるとピアノに向かって練習していた。あまりに頻繁に弾くので有り難みが薄れ、スタッフも「ハンクが横で弾いてること」に馴れきってしまっていたが、本当に「ありえない貴重な時間」だったと思う。

誰かが死ぬということは、その人の記憶の中にある自分も死ぬということ。
ハンクさんのものすごい経歴(なにしろチャーリー・パーカーと演ってるからね)の中の隅っこの隅っこであるが、確実に彼の脳細胞のほんの一部にはボクがいた。ハンクさん自身がいなくなったことも悲しいけど、彼の脳細胞が消えてしまったのと同時に、あの濃密で楽しかった時間までもが消えてしまったようで、なんだかものすごく切ない。もちろんボクの脳細胞にはまだたくさん彼との時間が存在しているのだけど、でも、なんだか、切ない。うまく書けないけど。

彼に最後に会えたのは、2008年の1月のこの日に東京で。ニューヨークでは2004年のこの日
このサイトを始める前くらいからご一緒したので、サイトにもほとんど書き残してないんだよなぁ(コンプライアンス的にも仕事のことをサイトに書くのは憚られたし)。彼との思い出をもっと読みたい。自分のサイト内を家捜しして読んでいる(ニューヨーク日記とか)


ちなみに、昨日、スイング・ジャーナルも休刊が発表された。編集部に先月だったかに遊びに行ったばかりなのだけど。さみしい。これについてもまた書く機会があるかもしれない。

佐藤尚之(さとなお)

佐藤尚之

佐藤尚之(さとなお)

コミュニケーション・ディレクター

(株)ツナグ代表。(株)4th代表。
復興庁復興推進参与。一般社団法人「助けあいジャパン」代表理事。
大阪芸術大学客員教授。やってみなはれ佐治敬三賞審査員。
花火師。

1961年東京生まれ。1985年(株)電通入社。コピーライター、CMプランナー、ウェブ・ディレクターを経て、コミュニケーション・デザイナーとしてキャンペーン全体を構築する仕事に従事。2011年に独立し(株)ツナグ設立。

現在は広告コミュニケーションの仕事の他に、「さとなおオープンラボ」や「さとなおリレー塾」「4th(コミュニティ)」などを主宰。講演は年100本ペース。
「スラムダンク一億冊感謝キャンペーン」でのJIAAグランプリなど受賞多数。

本名での著書に「明日の広告」(アスキー新書)、「明日のコミュニケーション」(アスキー新書)、「明日のプランニング」(講談社現代新書)。最新刊は「ファンベース」(ちくま新書)。

“さとなお”の名前で「うまひゃひゃさぬきうどん」(コスモの本、光文社文庫)、「胃袋で感じた沖縄」(コスモの本)、「沖縄やぎ地獄」(角川文庫)、「さとなおの自腹で満足」(コスモの本)、「人生ピロピロ」(角川文庫)、「沖縄上手な旅ごはん」(文藝春秋)、「極楽おいしい二泊三日」(文藝春秋)、「ジバラン」(日経BP社)などの著書がある。

東京出身。東京大森在住。横浜(保土ケ谷)、苦楽園・夙川・芦屋などにも住む。
仕事・講演・執筆などのお問い合わせは、satonao310@gmail.com まで。

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