耐えられない美しさ:大貫妙子&坂本龍一「UTAU」

2010年12月17日(金) 12:57:10

大貫妙子と坂本龍一のコンサート「UTAU」へ行ってきた。

お忙しい事は重々承知の上あえて観て欲しい、と、メールで知らない方から勧めてもらった。
その言葉を引用すると、「今後この『musician's musician』と呼ばれる二人のコンサートが行われる事はまず無い、奇跡のような、貴重な、宝物のような、2時間でした。空間に満ちる音楽に、肉体がエーテルのように溶け出す錯覚に陥り、気が遠くなるような幻惑感を覚える。」と。

東京でのコンサートはもう完売だが、川口総合文化センターリリアに若干残席があるようだとも教えてもらった。すぐ押さえ、万障繰り合わせて出かけていった。

川口は意外と近かった。東京駅から30分。でも埼玉のこの街に降り立ったのは初めて。

コンサートは静かに始まった。
坂本龍一の名曲「TANGO」。そこに大貫妙子が詞をつけ、歌っていく。

大貫妙子には「pure acoustic」という名盤があって、それを愛聴している。彼女の「音の少ない、途切れ途切れに囁くような歌唱」をボクは愛している。そこに、これまた音の少ない坂本龍一のピアノがかぶさってくる。この言葉少ない音楽空間の美しさ。ピアノ一音一音が、言葉のひとつひとつが、空間に吹き出しのようにぽかりぽかりと浮かび上がる。

1曲終わると、さりげなくボソボソと雑談に入るふたり。ボソボソすぎて聞き取りにくいが、あくまでも自然体。観客へのサービスはほとんどなく、言葉少なく雑談する。

途中で坂本龍一が「最近、ようやく『来てくださってありがとう』とかコンサートで言えるようになった。昔は言えなかった」みたいなことを話していた。そしてこうも言っていた。「若いアーチストでそういうことをてらいなく言える人多いよね。あれってどうなの? 慇懃無礼というか…」。言葉を濁していたが、本当に『来てくださってありがとう』と心から言えるようになるのに、ある程度の人生の年輪が必要だ、ということだろう。そして「心からではない言葉を言いたくない」という態度は終始一貫していた。なんだろう、「含羞」という美しい言葉を久しぶりに思い出した。

そんな風にコンサートは続いていく。
音と言葉の少ない歌。そしてボソリボソリと続く雑談。

最初は違和感があった。たぶん音も言葉も多すぎる世界で生きているからだろう。この世界観に入っていくのに3曲分くらいかかった。「TANGO」「美貌の青空」「3びきのくま」。でも4曲目の「赤とんぼ」で頬を涙が伝ってからは、逆にもうあの音と言葉が多すぎる世界に帰りたくなくなった。

童謡の赤とんぼ。坂本龍一のピアノと大貫妙子の声で心に届けてくれる赤とんぼ。時間をかけてゆっくり歌われ、どこにも装飾がない赤とんぼ。だからこそ情景が鮮やかに目に浮かぶ。変な話「前世」の景色まで見えるような感じだった。あぁボクは確かに赤とんぼを追った。

途中、坂本龍一の独演を挟んで(「aqua」が凄かった)、後半は「頼むから終わってくれるな」と願いながら1曲1曲を聴いた。歳を重ねてきて良かったと思った。大人じゃなければこの枯山水は味わえない。飾りも虚栄も何もない。ただ、音と詞をそこに放りだしただけ。だからこそ美しい。

このシンプルさ。昨日書いた「断捨離」と気分的にシンクロしていく。シンプル&ダウンサイジング。そしてスローダウン。そうか、このコンサートはまさに「今の自分」に必要なものだったんだな。人生がよってたかってボクに何かを伝えようとしている。

アンコールで「Merry Christmas Mr.Lawrence」の独演を坂本龍一がやってくれた。
いままで聴いたことがないほどのスローで優しい戦メリ。イントロの、その耐えられない美しさの時点で嗚咽寸前w この日のUstライブに続いて、毎度毎度坂本龍一には泣かされる・・・

この曲の後の雑談で、坂本龍一が「これって五七五だって知ってた?」と大貫妙子に話しかける。
おお、そう言われれば戦メリの冒頭の主旋律は五七五だ(!)。そういうことだったのか。あの映画のテーマと結びついて、いろんなことが氷解した気分。ううむ…。ちなみにボクはこの曲を必死に練習した時期があったくらい思い入れが深い曲である(こちらのコラム参照

そして「色彩都市」。二度目のアンコールで「風の道」。

特に愛想もなく舞台袖に消える彼ら。なんて自然体なんだ。昔はカブいていた坂本龍一も一周まわって本当にシンプルになった。大貫妙子は元からシンプルな人ではあったが、それが凄みにすら変わっていた。

シンプルに。もっとシンプルに。
背中を押された気分である。


最後にセットリストを。
ツアー中ではあるが、坂本龍一のサイトで発表しているので、転載する。

UTAU TOUR 2010
12/16/2010 川口市総合文化センターリリア

TANGO
美貌の青空
3びきのくま
赤とんぼ
夏色の服
improvisation
mizu no naka no bagatelle
amore
high heels
parolibre
aqua
Antinomy
Flower
鉄道員
a life
四季

Merry Christmas Mr.Lawrence
色彩都市

風の道

佐藤尚之(さとなお)

佐藤尚之

佐藤尚之(さとなお)

コミュニケーション・ディレクター

(株)ツナグ代表。(株)4th代表。
復興庁復興推進参与。一般社団法人「助けあいジャパン」代表理事。
大阪芸術大学客員教授。やってみなはれ佐治敬三賞審査員。
花火師。

1961年東京生まれ。1985年(株)電通入社。コピーライター、CMプランナー、ウェブ・ディレクターを経て、コミュニケーション・デザイナーとしてキャンペーン全体を構築する仕事に従事。2011年に独立し(株)ツナグ設立。

現在は広告コミュニケーションの仕事の他に、「さとなおオープンラボ」や「さとなおリレー塾」「4th(コミュニティ)」などを主宰。講演は年100本ペース。
「スラムダンク一億冊感謝キャンペーン」でのJIAAグランプリなど受賞多数。

本名での著書に「明日の広告」(アスキー新書)、「明日のコミュニケーション」(アスキー新書)、「明日のプランニング」(講談社現代新書)。最新刊は「ファンベース」(ちくま新書)。

“さとなお”の名前で「うまひゃひゃさぬきうどん」(コスモの本、光文社文庫)、「胃袋で感じた沖縄」(コスモの本)、「沖縄やぎ地獄」(角川文庫)、「さとなおの自腹で満足」(コスモの本)、「人生ピロピロ」(角川文庫)、「沖縄上手な旅ごはん」(文藝春秋)、「極楽おいしい二泊三日」(文藝春秋)、「ジバラン」(日経BP社)などの著書がある。

東京出身。東京大森在住。横浜(保土ケ谷)、苦楽園・夙川・芦屋などにも住む。
仕事・講演・執筆などのお問い合わせは、satonao310@gmail.com まで。

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