富士酢の創業120周年、農薬不使用50周年の感謝企画をお手伝いしました

2013年8月26日(月) 18:43:20

iio_tagaki.jpgもともと富士酢のファンだった。

ブログでは2005年にこう書いている

富士酢はすっかり家の常用酢になっている。めちゃくちゃうまい。発酵香が強く立ちのぼりつつ、いろんな芳香が奥の方で押しくらまんじゅうする。お酢好きなボクにはたまらない味。」

その後、製造元である飯尾醸造の五代目、飯尾彰浩さんとはメールのやりとりなどをぽつりぽつりと続けていたが、昨年末、こんな内容のメールをいただいた。

「飯尾醸造は2013年で創業120周年になります。そして、実はお酢の元になる原料米もうちで作っているのですが、昭和39年からずっと農薬不使用栽培で作ってきました。その取り組みも2013年で『50周年』を迎えます。ついては、いままで愛していただき使い続けていただいたお客様に感謝の気持ちを伝えたいのです。『お客様に感謝を伝える方法』を考えていただけないでしょうか?」

たぶん、電通時代に仲間たちと一緒にやった『スラムダンク一億冊キャンペーン』(漫画「スラムダンク」のファンに感謝を伝える)を覚えていていただき、ご相談いただいたのだと思う。

愛用してくださっている方々に感謝を伝える・・・
これは意外と難しいお題で、スラムダンクの時も「どうやって伝えるか」をみんなで深く考えていった(この辺のことは本『明日の広告』でくわしく書いた)。

テレビCMや新聞広告などで「ありがとうございます!」と載せても、本当の感謝は伝わりにくい。不特定多数に向かって一方的に「ありがとう」と叫ぶのは、その中にいる少数の「愛用してくださっている方」に伝わったかどうかもわからないうえに、本来は失礼だし乱暴だ。そしてお金もかかる。

というか、手を抜いているよね? 「効率的」だし「目立つ」けど、その「ありがとう」の気持ちは、その少数に本当に伝わるのかな。

それは例えば、渋谷のスクランブル交差点の雑踏のどこかにいる彼女に「愛」を伝えるのに、拡声器で大きく「愛してる!」と叫ぶようなものだと思う。

わざわざ彼女を探し出さずに済むし、そういうのを喜ぶ彼女もいると思う。効率的で目立つ。でも、本当に(本当に)感謝を伝えたい場合、その方法は彼女に失礼だし手抜きだとボクは思う。苦労してでもちゃんと彼女を雑踏から探し出し、彼女だけが喜ぶ方法で、しっかり感謝を伝えるのが本筋だと思う。

というか、もともとテレビCMや新聞広告を使う予算は飯尾さんにはない。
京都宮津の小さなお酢屋さんなのである。だから拡声器で大声で伝える方法はもともとできない。

さて、どうするか。

もともと個人的にファンで、愛用している富士酢である。
なんとかお役に立ちたいし、自分自身が「お客様」なので、「手抜き」もしたくないし、されたくない。

まずやったのは、京都宮津の飯尾醸造の見学である。
もっと富士酢のことを知らないと。

当時のブログにも書いたけど、ちょっと感動した。
ここまで丁寧に、誠実に、昔ながらの方法で造っているお酢とは実は知らなかった。富士酢を10年近く使っているボクでも、富士酢の本当の凄さは知らなかった。あと、飯尾醸造で働く人々の誠実さにも感動した。こんな人たちが造っているお酢なんだ・・・こういうのってちゃんと伝えたいなぁ。

問題は「伝え方」である。

飯尾醸造のファンは何十万人もいるわけではない。
知る人ぞ知るお酢だし、五代目も「拡販しても増産する余裕は(設備的にも人員的にも)ない。いま売れてる分を大切に守って経営していきたい」と言う。つまり「売上を伸ばしたいわけではない」とおっしゃるのだ。「ただただいま使っているお客様に感謝を伝えたい」ということである。

ううむ・・・売上を伸ばしたいわけではない広告(もしくはイベント)。

うちの会社「ツナグ」のスタッフ3人で悩んだ。
普通ならソーシャルメディアを使うとかいう手もあるのだろうけど、富士酢を愛用しているであろう主婦層にはまだまだ普及していないのが現状。紙メディアに出稿する予算もないし、富士酢というちょっと凝ったお酢を使っている層に確実に届くメディアも特に思いつかない。

ううむ・・・

ずっと悩んでいくうちに、なんとか辿り着いた。
ひとつだけ、「富士酢を愛用してくださっているすべてのお客様」に「お金をかけず」に「ちゃんと伝わる」方法があるかもしれない。

それは、富士酢という商品そのもの。
それは確実に「愛用してくださっているお客様」に届く。

じゃあ、その商品自体をメディアにすれば・・・

iio_writing.jpg

ということで、アイデアの入口に辿り着き、「富士酢のラベルをメディアにして、飯尾醸造の従業員たちが『手書き』で感謝を伝える」という超アナログな企画が出来たですね。

そう、手書き。

感謝ラベルを新たに刷るだけでは、飯尾醸造の誠実さや気持ちが伝わらないと考え、従業員たちが全員で、自分の署名入りで、『手書き』で感謝の気持ちを伝えるラベル。
普通に商品ラベルとして刷っているのだけど、その余白にそれぞれが手書きで感謝を表すのである。

「効率」の真逆にある方法だけど、気持ちって「効率」では伝わらないことが多いから。

飯尾醸造の従業員の方たちは、1万枚のラベルを前に呆然としたと思う。ひとりあたり680枚(飯尾醸造ブログ参照)。でも、きっと、「従業員みんなで感謝をこめて書く」という共同作業は、団結みたいなものを深めたとは思う(思いたい)。

 

iio_sasshi.jpgそのうえで、それぞれのボトルの首のところに小冊子もつけた。

無農薬栽培の過程と、誠実で正直な造り手の思いを、ツナグのスタッフ宇野実樹がイラストにして表現してみたものである。従業員の方々の似顔絵入りw この小冊子を作ることで、従業員同士、お互いの好きなお酢やお酢の使い方などで発見があったとあとで聞いた。インナーの親睦が高まって良かったなぁ。

それだけ。企画は以上。
だけど、約半年かけ、手作りでじんわり作ってきた。

かかったお金は印刷費とデザイン費、小冊子の袋代のみ。そして我々の企画費少々のみ。メディア代はなし。『手書き』の労力は半端ないけどお金はかからない。

その「手書き入り記念ボトル」がそろそろお店に出回り始める、とのことネット通販ではもう売ってるけど、そろそろ普通のお店に出回る予定・・・)。

もしスーパーや店先で出会ったら、手にとってみてください。
ひとつひとつ、メッセージも書き手も違います。

07261739_51f235b6045a2.jpg写真はそのボトル。
赤い富士のところに手書きの感謝の言葉が入っています。


ちなみに、飯尾醸造からの「ありがとう」を伝えたあと、実はお客様側からのインタラクション(双方向の反応)が起こるような仕掛けも当初は考えていた。

ボトルを使って。もしくはソーシャルメディアを使って。

そうしたら、四代目(五代目のお父さん)から、「お客様になにかのアクションをしていただくのは飯尾醸造としては申し訳なく、それはしたくない。ただただ感謝を伝えたいだけ」という指摘をいただき、それも飯尾さんっぽいと納得。一方通行な企画のままにした。

そう、その方が飯尾醸造っぽいし、話題になる必要もない(拡販の必要はないから)。ただただ愛用してくださっている方々への感謝が、静かに伝わればよい。

プランナーとしては「広がり」を思わず考えてしまうのだけど、そういう発想が徒(あだ)になることもある、ということを教わった貴重な体験でもありました。

飯尾醸造のみなさん、ありがとうございました。

ボク自身が一番の愛用者。
今後もいいお酢をよろしくお願いします。

そしてみなさん。
このお酢、もし店頭で見かけたら、ちょっと手にとって手書きをなぞってみてください。きっと想いが伝わってくると思います。

佐藤尚之(さとなお)

佐藤尚之

佐藤尚之(さとなお)

コミュニケーション・ディレクター

(株)ツナグ代表。(株)4th代表。
復興庁復興推進参与。一般社団法人「助けあいジャパン」代表理事。
大阪芸術大学客員教授。やってみなはれ佐治敬三賞審査員。
花火師。

1961年東京生まれ。1985年(株)電通入社。コピーライター、CMプランナー、ウェブ・ディレクターを経て、コミュニケーション・デザイナーとしてキャンペーン全体を構築する仕事に従事。2011年に独立し(株)ツナグ設立。

現在は広告コミュニケーションの仕事の他に、「さとなおオープンラボ」や「さとなおリレー塾」「4th(コミュニティ)」などを主宰。講演は年100本ペース。
「スラムダンク一億冊感謝キャンペーン」でのJIAAグランプリなど受賞多数。

本名での著書に「明日の広告」(アスキー新書)、「明日のコミュニケーション」(アスキー新書)、「明日のプランニング」(講談社現代新書)。最新刊は「ファンベース」(ちくま新書)。

“さとなお”の名前で「うまひゃひゃさぬきうどん」(コスモの本、光文社文庫)、「胃袋で感じた沖縄」(コスモの本)、「沖縄やぎ地獄」(角川文庫)、「さとなおの自腹で満足」(コスモの本)、「人生ピロピロ」(角川文庫)、「沖縄上手な旅ごはん」(文藝春秋)、「極楽おいしい二泊三日」(文藝春秋)、「ジバラン」(日経BP社)などの著書がある。

東京出身。東京大森在住。横浜(保土ケ谷)、苦楽園・夙川・芦屋などにも住む。
仕事・講演・執筆などのお問い合わせは、satonao310@gmail.com まで。

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