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神プレゼンに馴れてしまった後の「TEDxTokyo 2013」雑感

2013年5月14日(火) 10:00:54

先週の土曜日、「TEDxTokyo 2013」に参加してきた。

去年はじめて招待をうけ、今回で2度目。
去年の興奮の模様はここで書いたけど(TEDの基本的な説明もリンク先に書いてあります)、新鮮かつ刺激に満ちた一日で、いまでも順を追って反芻できるほど印象深かった。今年も期待たっぷりに出かけたのである。

セッションだけで朝9時から18時半まで、その後のパーティを入れると21時半までの長丁場。
とはいえ「飽きない」ということは行く前から知っている。そのくらいTEDのクオリティを信頼しているし、その信頼に応えてくれる確信もある。それは今でも変わらない。

ただ、去年と比べて観客側(つまり自分)に変化があったとは思う。

それは「この1年で神プレゼンに触れる機会がべらぼうに増えた」こと。

TEDが日本で普及し始めた数年前は「こんなにすごいプレゼンやこんなに新鮮なアイデアが、世界にはこんなにたくさんあるんだー!」とこんなにだらけでびっくりした。スティーブ・ジョブズの神プレゼンや神スピーチも新鮮だったし、自分たちがいかにレベルの低いプレゼンをしてきたかも突きつけられた。

あの頃から急に「世界トップレベルのプレゼンやスピーチ」がドッと日本に流入してきたのだと思う。

サンデル教授然り。ムハマド・ユヌス然り。アドテックなどの輸入イベントも然り。NHK「スーパープレゼンテーション」も然り。TEDがネット上で裾野を広げ、様々な優れたイベントが後押しし、プレゼン本ブームなども相まって、一気に我々の目と耳が肥えていった。

そう、プレゼンはコモディティ化し、消費され、1年前よりだいぶ普通のものとなった。
数多いエンタメに囲まれてちょっとやそっとのことでは驚かないボクたちは、神プレゼンや神スピーチにも驚かなくなりつつある。

その辺がここ数年(特にここ1年)の変化かな。

そういう意味で、TEDのクオリティは落ちていないけど、聴く側である我々のレベルは格段に向上した。
だから、いかにも「プレゼンプレゼンしたスピーチ」は(内容はよいとしても)なんか新鮮でなかったし感動できなかった。それが今年のTEDの大きな印象。

なんというか、うまく構成され、印象深くなるよう演出されたスピーチが、なんか心に届かなかった。

それよりも野蛮というか無謀というか、「オレはこうやってきたぜい!」「これしかできないぜい!」「これ、超たのしいぜい!」というのに終始する、あまり計算してない(ように見える)スピーチが新鮮で楽しく心の奥底まで届いた。

なんというか「プレゼンではなく、その人の人生や仕事のシェア」なんだな。
プレゼンって「よりよく見せるテクニック」な部分があるけど、それがもう通じなくなってきている。そうではなくて、オレはこうだぜ、と「自分の熱狂」をシンプルに提示してシェアする。その方が心に届く。そんなことを実感した感じ。

その人の狭量でクレイジーな部分こそが他人の心の襞を刺す。
コンセプトである「ideas worth spreading」のアイデアって、「新しい切り口」なんかではなく「斬新でびっくらこく気づき」のことだと思うけど、この情報洪水社会においての「斬新」って、ある意味「狭量でクレイジー」なのだろうと思う。

土曜日のスピーチの一覧(一部はYouTubeへのリンクあり)はここに出ている

この中でも特に「オレはこうやってきたぜい!」「これしかできないぜい!」「これ、超たのしいぜい!」的なスピーチで心に刺さったのは、クモの糸の人工生成をした関山和秀さん、プラネタリウム・クリエーターの大平貴之さん、おもちゃ開発者の高橋晋平さん。あ、あと、会田誠さんと宇野常寛さんもクレイジーで良かったw

パフォーマンスとしては冒頭にやった手妻師(江戸時代の手品)・藤山晃太郎さんとカリンバ奏者のHIROYUKIさんがボクは印象に残った。プロジェクトとしてはデザイナーの太刀川英輔さん、あ、あと、物静かな語りながら人間国宝の漆芸作家、室瀬和美さんのスピーチも好きだった。

もちろん、あのプレッシャーだらけのTEDの舞台に上がった、というだけで、すべての登壇者をリスペクトするんだけど。シンプルでわかりやすい上質なプレゼンばかりだったのだけど。


さて。
それぞれが8分〜12分程度の持ち時間。34組の刺激的なスピーチ&パフォーマンスが次から次へと分野もバラバラに行われ、各個人の頭の中でブレインストーミングが強制的に起こらされるこのイベント。

刺激が多すぎる分、わりと受け身になりがちな部分はある。
でも、今年は個人的にひとつ発見があった。

「いま自分がやっていることを8分でシンプルにまとめてスピーチするとどうなるか」

これを意識しながら34組を見てみた。
そうすると、急にすべてのスピーチやパフォーマンスが「自分ごと」になった。

8分で印象深くシンプルにまとめると結局自分はなにが言いたいのか。なにがやりたいのか。社会にインパクトはあるのか。個人の熱狂は伝わるのか。なにより自分にクレイジーな部分があるのか。それは大勢に発表しても誇りに思えるクレイジーさなのか。

そんな意識で見ていくと、それぞれのスピーカー(パフォーマー)の根底にある「熱狂」が手触り感とともに伝わってきて、なんだかとても充実した。

去年は、休憩時間、知り合いを探して話したりすることに時間を使ったけど、今年はスピーチを見ながら考えたことを自分にブレイクダウンするのに精一杯で、多くの時間を席に座ったまま思考して過ごした。

いい講演会というのはどうしても登壇者に身を委ねて受け身になりがちなのだけど、短くシンプルなTED方式は、そのお作法ゆえに自分ごとにできていい感じだったな。

最後になりますが。

協賛企業とボランティアスタッフのおかげで入場料も聴講料もメシ代も飲み物代もすべてタダでした。
渋谷ヒカリエでやって、パーティは去年と同じく金王八幡宮でやって、何から何までタダってすごい! ありがとうございました。普段はそうでもないのだけど、TEDのときは二回とも「どこがお金を出してくれているのだろう」と、協賛企業をガン見してしまった。僭越ながら、価値あるスポンサードだとボクは思います。

佐藤尚之(さとなお)

佐藤尚之

佐藤尚之(さとなお)

コミュニケーション・ディレクター

(株)ツナグ代表。(株)4th代表。
復興庁復興推進参与。一般社団法人「助けあいジャパン」代表理事。
大阪芸術大学客員教授。やってみなはれ佐治敬三賞審査員。
花火師。

1961年東京生まれ。1985年(株)電通入社。コピーライター、CMプランナー、ウェブ・ディレクターを経て、コミュニケーション・デザイナーとしてキャンペーン全体を構築する仕事に従事。2011年に独立し(株)ツナグ設立。

現在は広告コミュニケーションの仕事の他に、「さとなおオープンラボ」や「さとなおリレー塾」「4th(コミュニティ)」などを主宰。講演は年100本ペース。
「スラムダンク一億冊感謝キャンペーン」でのJIAAグランプリなど受賞多数。

本名での著書に「明日の広告」(アスキー新書)、「明日のコミュニケーション」(アスキー新書)、「明日のプランニング」(講談社現代新書)。最新刊は「ファンベース」(ちくま新書)。

“さとなお”の名前で「うまひゃひゃさぬきうどん」(コスモの本、光文社文庫)、「胃袋で感じた沖縄」(コスモの本)、「沖縄やぎ地獄」(角川文庫)、「さとなおの自腹で満足」(コスモの本)、「人生ピロピロ」(角川文庫)、「沖縄上手な旅ごはん」(文藝春秋)、「極楽おいしい二泊三日」(文藝春秋)、「ジバラン」(日経BP社)などの著書がある。

東京出身。東京大森在住。横浜(保土ケ谷)、苦楽園・夙川・芦屋などにも住む。
仕事・講演・執筆などのお問い合わせは、satonao310@gmail.com まで。

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