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楽しくて、やがて切ない八戸「えんぶり」祭り

2012年2月20日(月) 9:25:57

仙台からの八戸に移動して、真冬のお祭り「えんぶり」を見てきた。

有名なお祭りである。
八戸の人は当然「全国の人が知っている」と思っているくらいである。

でも、東京のボクの周りで知っている人はとても少ない。まぁなんといっても「お祭りの季節」じゃないからなぁ。なぜよりによってこの真冬の厳寒時に、しかも青森県周辺で(死の行軍があった八甲田山も近いのに!)、お祭りがあるのか。札幌雪祭りみたいなテーマパーク的なものは別にして、聞けば800年以上前からある農民のお祭りであるという。うーん、寒いなんてもんじゃないくらい寒いときになぜ??

調べてみたら、もともと東北地方では初春(小正月)の祝いに、田植等田作りの順風満帆、豊作の様を前もって演じみせる田植踊が広く行なわれてきたらしいですね。このえんぶりもその一種。田植前に杁(えぶり)という道具で田を均す過程があるらしいのだけど、そこを特に取り上げ、しかも「杁(えぶり)」が訛って「えんぶり」と呼ぶらしい。

ボクは1年半ほど前からやけに八戸に縁ができ、今回で5回目の八戸行きになるのだけど、八戸っ子だけでなく、外からの人も「えんぶりは本当にいいよ」とみんな勧めてくれる。いままで何度勧められたことか。「あんなに幻想的なお祭りはない」「雪の中での真摯かつユーモアある踊りが素晴らしい」「感動しますよ」とか口々に言うのである。ううむ、こりゃ見に来なければ。ということで、いそいそと一昨日出かけたのである。あ〜、それにしても寒かった。八戸の厳寒を甘く見ていた。スキー場に行く格好で行けば良かったよ・・・

えんぶりは4日間行われ、奉納から行列、一斉摺り、お庭えんぶり、かがり火えんぶりなどいろいろ行われるのだが、特に夜にやる「かがり火えんぶり」が良いと聞いたのでそれ目当てで行ったのだけど、八戸ポータルミュージアム「はっち」の館長さんや相模さんのご配慮で「お庭えんぶり」も見られることになった(席を予約しないと見られない)。

写真1枚目はお庭えんぶり。
お金持ちの家でえんぶりが行われることを再現した催しだけど、お大尽の旦那様になった気分で座敷でせんべい汁と甘酒をすすりながら、しかも解説付きで見ることができ、とても面白かった。えんぶり初体験で期待しすぎたせいか、最初は「はぁ…まぁこんなもんか…」だったのだけど、時間が経つにつれ、演目が進むにつれ、その素晴らしさにカラダがどんどん前のめりに乗り出していく。こりゃなかなかすごい。

農民のお祭りなのと、わりと子供が出てくる演目が多いので、踊りのレベルとか仕掛けのおもしろさで驚く部分は少ない。素朴すぎるくらい素朴だ。エンターテイメントが溢れている現代、なかなか人をこの程度では感心させられない。

でも「えんぶり」の良さはそんなところにはない。古くから何百年にもわたり祈り憧れてきた「春」の到来。それに対する深い深い想いが背景からじわっと染み出てくる瞬間にこのお祭りの醍醐味がある。祈りと憧れと想いの何代にも渡る長い長い継承。厳しすぎる冬と冷害凶作口べらしの不幸を長く味わい続けたこの地方の強い叫びが所作すべてから伝わってくる瞬間があるのである。

だから、基本的にこのお祭りは、哀しく切ない。

子供たちは祝福芸をユーモラスに踊るし、全体に笑いも満載の楽しいお祭りなのだけど、でも根底はどこか哀しくて切ない。

その印象は、夜の「かがり火えんぶり」(写真2枚目)、そして横丁の「門付け」(写真3枚目)でより強まった。

「かがり火えんぶり」は市庁舎前の広場で暗い夜を背景に踊りが行われる。寒さは頂点に達するが(カイロだらけだ)、周りの屋台で甘酒飲んだり汁もの食べたりしながら見学を続ける。夜の闇が深い分、祈りと憧れと想いがより強く伝わってくる。

それらのイベントが終わり、20時に子供たちが帰ってから、大人たちのえんぶりが飲み屋を回り始める。それが「門(かど)付け」。店の門の前で踊りを披露するのである。

昼間も数回見たが、夜中の横丁(八戸の飲み屋街は横丁と呼ばれとても賑わう)の「門付け」は、飲んべえたちを相手にする分、より盛り上がる。この「門付け」は、ある時期「物乞い」に近く見られることも多かったらしい。それが元でお祭りが禁止された時期もあったと聞く。ある種原点を感じさせる踊りである。

その背景には、冷害凶作が続いたこの地方の農民たちの、つらいつらい暮らしの数百年がある。
あえて収穫の時期ではなく、春の神様に目を覚ましてもらうこの時期にお祭りをするのは、冷害凶作による無収穫が多かったこともあるのかもしれないなぁ。

寒さに震えまくりながら、この何不自由ない現代に生まれた自分を振り返る。

そんな内省に厳しく晒されるお祭り。それがボクにとっての「えんぶり」であった。

佐藤尚之(さとなお)

佐藤尚之

佐藤尚之(さとなお)

コミュニケーション・ディレクター

(株)ツナグ代表。(株)4th代表。
復興庁復興推進参与。一般社団法人「助けあいジャパン」代表理事。
大阪芸術大学客員教授。やってみなはれ佐治敬三賞審査員。
花火師。

1961年東京生まれ。1985年(株)電通入社。コピーライター、CMプランナー、ウェブ・ディレクターを経て、コミュニケーション・デザイナーとしてキャンペーン全体を構築する仕事に従事。2011年に独立し(株)ツナグ設立。

現在は広告コミュニケーションの仕事の他に、「さとなおオープンラボ」や「さとなおリレー塾」「4th(コミュニティ)」などを主宰。講演は年100本ペース。
「スラムダンク一億冊感謝キャンペーン」でのJIAAグランプリなど受賞多数。

本名での著書に「明日の広告」(アスキー新書)、「明日のコミュニケーション」(アスキー新書)、「明日のプランニング」(講談社現代新書)。最新刊は「ファンベース」(ちくま新書)。

“さとなお”の名前で「うまひゃひゃさぬきうどん」(コスモの本、光文社文庫)、「胃袋で感じた沖縄」(コスモの本)、「沖縄やぎ地獄」(角川文庫)、「さとなおの自腹で満足」(コスモの本)、「人生ピロピロ」(角川文庫)、「沖縄上手な旅ごはん」(文藝春秋)、「極楽おいしい二泊三日」(文藝春秋)、「ジバラン」(日経BP社)などの著書がある。

東京出身。東京大森在住。横浜(保土ケ谷)、苦楽園・夙川・芦屋などにも住む。
仕事・講演・執筆などのお問い合わせは、satonao310@gmail.com まで。

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