モスクワ4日目 〜新装ボリショイ劇場こけら落とし公演初日

2011年11月26日(土) 23:19:23

11月18日。
この日は新装ボリショイ劇場のバレエこけら落とし公演初日であった。

ボリショイ劇場自体のこけら落としは10月末にあった。
オペラとバレエとコンサートが一体になったガラコンサート。まぁお祭りみたいなものである。でも本格的なバレエ公演はこの日が初日なのであった。

もう楽しみで仕方がなかった。
8年前に旧ボリショイ劇場で観たバレエがボクのバレエ好きを決定づけたわけだけど、今回はそれを更新するような体験がきっとできるはずである。あぁなんて幸せな!

ちなみに、8年前のボリショイ劇場体験は、それはそれは夢のようなラインナップであった。

いや、ホント、バレエファンなら必ず驚く。
たった5日しかモスクワにいなかったのに、マチネ含めて6本観た。しかも毎日違う演目。スターたちが次々と出てくる。岩田くんのゴールデン・アイドルも観たし、アナニアシヴィリとフィーリンの白鳥も観たし、グラチョーワのニキア観たし、ザハロワのボリショイ移籍初日のジゼルも観たのである。

  • 「ドンキホーテ」 そのシーズンの初日の舞台。アントニチェワとベロガロフツェフ主演。ブッシュ夫人とプーチン夫人が貴賓席から観劇してた。ペトコフとズィブロワ、アラーシュが印象的だったけど、アントニチェワがいまひとつ。
  • 「バヤデルカ」 グラチョーワのニキア最高。ネポロージニーもいい。シプーリナのガムサッティ。岩田くんの黄金の偶像が特に最高。
  • 「レ・シルフィード(ショパニアーナ)」 マチネー。オペラ「モーツアルトとサリエリ」を短くやった後の上演。これは普通。
  • 「無益な用心(ラ・フィーユ・マル・ガルデ)」 カプソーワ、ボロチン。ペトコフとヤーニンがとても良かった。
  • 「白鳥の湖」 アナニアシヴィリとフィーリン。ヤーニンの道化、アレクサンドロワがちょい役である贅沢さ。
  • 「ジゼル」 ザハロワのデビュー公演。行儀の良い演技。ツィスカリーゼは後半盛り返した。アレクサンドロワのミルタがとても良かった。ロシア首相が観てた。

と、思い返しても実に最高。こんな毎日を体験してバレエファンにならないヤツはいない。

で、今日は、8年前にボリショイ・デビューしたザハロワと、今日がABTからの移籍デビューであるホールバーグのペアである。あぁ楽しみだ!


午前中は、取材でボリショイの美術工房へ。
ボリショイ劇場から歩いて5分ほどのところにあるビル(ソ連のころに立てられたぼろいビル)の中にそれはあり、大道具や小道具、シューズ、そして衣装などを作っていた。写真は衣装用の「型」ですね。これはアラーシュの体型のトルソ。彼女の体型変化に合わせて、布を貼ったり剥がしたりしてよりフィットするように作られている。その繊細さに驚く。

すべてのダンサーのシューズを作る職人や、帽子を作る人、小道具を作る人など、200人近くの人がボリショイの舞台の美術に携わっている。最上階には緞帳などを刺繍するでかいスペースもあった。20人くらいの人が座り込んで少しずつ少しずつ刺繍して背景幕などを作っていた。

実は、モスクワに着いてすぐ、ボリショイから(大好きな)ワシリエフやオーシポワが脱退したニュースを聞いて、このふたりが本当に好きだっただけにショックを受けた。「こんな大スターがふたりも抜けて、ボリショイの今後は大丈夫か?」と心配にもなった。でも、この美術工房を見学したり、新装ボリショイ劇場を見学したりして考えが変わった。

ボリショイは、ひとりやふたりのスターが辞めたからって揺らぐようなやわなものではない。数百人、いや数千人が関わり、お客も含めて全員で作り上げる壮大なストーリーでありコンテクストなのだ。だからひとりふたりのスターが変わっても、脈々とその「血」と「情熱」と「時間」は受け継がれ、語り継がれていく。

なんか、うまく言えないけど、この美術工房を見学したことで、ボクのバレエへの見方は深くなったと思う。行ってよかった。ここを隈無く見なければ、スターありきのバレエ観のままだったかもしれない。

「私は42年、ここで働いている。私が作った衣装を着て数々のスターが踊った。私の衣装で踊ったんだ! 私はそれをとても誇りに思っている」

美術工房のマスターがこう話してくれた。

ダンサーたちはみんなこういうものを背負って踊っているんだな。そして歴史と伝統を背負い、文化を背負っている。だから素晴らしいんだ。個人の超絶技巧の良し悪しで観るなんて実に薄すぎる。

そんなことを改めて思った。


午後はホテルの部屋にこもって東京の仕事に対処し(哀)、18時、スーツに着替えて、いよいよ新装ボリショイ劇場バレエこけら落とし公演「眠りの森の美女」へ!

初日だけに、みんなものすごくオシャレしてくると思っていたが、意外とそうでもなかったのは意外だった。
でも、どうやら「初日の初日」なので、接待系のお客(招待券が配られた人)が多いらしく、本当のバレエ好きは来ていないような感じだった。

これは後々、拍手やブラボー、アンコールなどへの対応でもよくわかった。なんかあっさりしているのだ。本当のバレエ好きは初日なんていうプラチナチケットは狙わず、もっとずっと後の日程で観るのだと思う。

でも、貴賓席にはメドベージェフ大統領夫妻が座ったりして、なんとも華やかではあったのだけど。

写真は、上の方から、開演前の会場の感じや通路の感じ。そして、幕間のメドベージェフ大統領遠景など。雰囲気わかりますかね?


さて肝心のバレエだけど。
まぁなんというか、ダンサーはみんな新装ボリショイ劇場の初日に踊れることを喜んでいて、とてもテンションは上がっていたようだけど、とはいえミスをしたくないのか、なんだか全体に慎重で手堅い舞台だった、という印象。

いや、美術も衣装もダンスも、本当にきらびやかで華やかで、ただただため息だったのだけど、でも、ボリショイ特有のグアーーーッと来る迫力やアピールがなく、そつなくまとまっていた感じ。

リラの精のアラーシュ(ファンです)がとても端正に踊ったのだけど、この端正さが目立たないくらい、みんながみんな端正。しまいには青い鳥役のオブチャレンコまで端正で(青い鳥はもう少し盛り上げて欲しい)、全体にきれいで美しい静かな舞台だったなぁ。まぁでも新装開店の初日は縁起物みたいなものだから、これはこれでいいのかもしれない。

青い鳥と一緒に踊った王女役のカプツォーワがとても良かった(翌日の主役だが、両日ともに素晴らしい出来)。あと、カラボス役のロバレビッチも良かった。

ボリショイ移籍初日のホールバーグは、ホテルで何度か会ったこともあり(この日の朝もすれ違った)、心の中で応援していたのだが、まぁ本当にそつのない演技で、美しいけどなんだか存在感が薄い。惜しいなぁ。大向こうを湧かせて欲しかったなぁ(まぁ演目自体がそんな盛り上がりがない演目なのだけど)。

ザハロワは美しく、かわいく、キレイ。観ていて安心できる出来。
昨日書いたリハーサルのザハロワと指揮者のバトルは、結局活かされず、キメのタイミングが少しずつズレたりしてそれはザハロワに気の毒だったかな。

まぁ全体に80点の出来。
初日のワクワクを足しても、もう少し期待しただけにちょっと残念だった(先に書くと、翌日のカプツォーワ主演の舞台は本当に最高だった。それに比べるとやはり物足りない舞台ではあったかな)。


終幕後、関係者を集めてのパーティがベートーベンホールであり、取材で行ったボクはそこに招かれてのこのこ出かけていった。いやー希有な体験!

ザハロワは来なかったけど、ホールバーグは来ていたし、アキーモフ先生やペトコフ(往年のスター)も来ていて、いろいろお話ができた。ペトコフは終始「東日本大震災ではとても心を痛めている」と話してくれ、なんだか涙が出た。ありがとう。

写真はグリゴロービッチのカメラ目線(たぶん珍しい)。

グリゴロービッチさんは、まぁなんというか、ボリショイ全盛期を作り上げ、30年以上にわたり振付と演出を手がけた大大大有名人。初日の今日も貴賓席にメドベージェフ大統領と一緒に座っていたくらいである。

あと、芸術監督のフィーリンも来ていた(彼も貴賓席に座った)。

あー。
書きたいことがたくさんあるけど、いい加減長いのでこの辺にしよう。ぱらぱらと羅列してすいません。とてもじゃないけど書ききれないや。

モリはこの日、ロシア・バレエ団で踊っていた。だから会えず。残念。

佐藤尚之(さとなお)

佐藤尚之

佐藤尚之(さとなお)

コミュニケーション・ディレクター

(株)ツナグ代表。(株)4th代表。
復興庁復興推進参与。一般社団法人「助けあいジャパン」代表理事。
大阪芸術大学客員教授。やってみなはれ佐治敬三賞審査員。
花火師。

1961年東京生まれ。1985年(株)電通入社。コピーライター、CMプランナー、ウェブ・ディレクターを経て、コミュニケーション・デザイナーとしてキャンペーン全体を構築する仕事に従事。2011年に独立し(株)ツナグ設立。

現在は広告コミュニケーションの仕事の他に、「さとなおオープンラボ」や「さとなおリレー塾」「4th(コミュニティ)」などを主宰。講演は年100本ペース。
「スラムダンク一億冊感謝キャンペーン」でのJIAAグランプリなど受賞多数。

本名での著書に「明日の広告」(アスキー新書)、「明日のコミュニケーション」(アスキー新書)、「明日のプランニング」(講談社現代新書)。最新刊は「ファンベース」(ちくま新書)。

“さとなお”の名前で「うまひゃひゃさぬきうどん」(コスモの本、光文社文庫)、「胃袋で感じた沖縄」(コスモの本)、「沖縄やぎ地獄」(角川文庫)、「さとなおの自腹で満足」(コスモの本)、「人生ピロピロ」(角川文庫)、「沖縄上手な旅ごはん」(文藝春秋)、「極楽おいしい二泊三日」(文藝春秋)、「ジバラン」(日経BP社)などの著書がある。

東京出身。東京大森在住。横浜(保土ケ谷)、苦楽園・夙川・芦屋などにも住む。
仕事・講演・執筆などのお問い合わせは、satonao310@gmail.com まで。

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