アナニアシヴィリの至芸 @「ジゼル」
2010年3月 4日(木) 7:42:35
昨晩はグルジア国立バレエの公演で「ジゼル」を観てきた。@東京文化会館
グルジア国立バレエは、今回、ボリショイバレエからウヴァーロフと岩田守弘くんをゲストに迎えての来日公演でふたつの演目をする。「ジゼル」と「ロミオとジュリエット」。岩田くんは「ロミオ」にマキューシオ役で出る。配役が決まった半年前から今回の来日を楽しみにしていた。
昨晩は「ジゼル」で、岩田くんの出番はないのだが、なんといっても現代最高のプリマバレリーナのひとり、ニーナ・アナニアシヴィリが主役である。見逃せない!
彼女はボクより3歳下の45歳(3月末で46歳)。もういつ引退してもおかしくない。というか、普通のダンサーだったらとっくに引退している。実際、ボリショイもABT(アメリカン・バレエ・シアター)も引退した。そうして世界の第一線を退き、いまは旦那さんがいるグルジアで、このバレエ団の芸術監督をしながら細々と踊っている状態。もうニーナが踊るのをこの目で見られるだけで至福。ありがたやありがたや、である。呼んでくれたジャパン・アーツさん、ありがとう。
ボクが彼女の舞台を初めて見たのはモスクワだった。
2003年にロシアをひとり旅したとき、バレエを8舞台観たのだが(8泊9日で8舞台:笑。バレエ超初心者から一気に中級者へ)、このとき、ボリショイで彼女の「白鳥の湖」を観たのである。
死ぬほどよかった。
もう全盛期は過ぎた、とも言われていて、確かに超絶技巧的にはもう下り坂だったかもしれないが、「人の心に伝わるダンス」という意味では図抜けていた。翌日、ザハロワのボリショイ・デビュー公演があったのだが(マリインスキーから移ってきた最初の公演。演目は「ジゼル」)、まぁザハロワも教科書的でうまいけど、「心に伝わる表現」という意味では比較にならなかった。
それ以来、彼女の舞台はなるべく欠かさず観ている(人気も高く、値段も高いのでなかなか行けないのだが)。
で、昨晩。
なんだろう。
ニーナだけ「踊っていない」というかなんというか…。いや、もちろんいい意味で。
もちろん、すばらしいダンスなのである。見惚れる。図抜けている。でも「踊り」というより「演技」に昇華されていた。もう踊りが無意識下に降りていて、「がんばっている」「超絶技巧を見せている」みたいな感じがまったくなく、それよりも、心が伝わってくる。まさに「演技」。立ち姿だけで何かが伝わってくる。ダンサーというよりアクトレス。
圧巻は狂気の場面(狂い死にの場面)。
いままで何度か「ジゼル」を観ているが、これほどの狂気を演じた人はいなかった。ダンスが少しずつ崩れていく。最後は観ているのも辛いほどの狂気。まさに迫真の「演技」。
周りに泣いている人が何人もいたなぁ。
幕間にホワイエで岩田くんに会った。「ロミオ」のための稽古に来ていたらしい。
第二幕は岩田さんと並んで観劇(隣の席が空いていたので)。岩田さんがボソリと「ニーナはカラダが万全ではない」と言う。年齢的にももうボロボロなのは自分を顧みてみればよくわかる。たった3歳下でこれだけ動けることだけで驚異だ。
第二幕のウィリの場面はもうひたすら美しい。
おおっ!と驚くダンスはなかったが、完璧な表現力で楽しませてくれた。あぁすばらしいな…。ウヴァーロフもさすがに良かった。ミルタ役のラリ・カンデラキにもうちょっと期待したが、それでも全体にいい舞台。
グルジアは政情不安の余波もあり、バレエダンサーが急激に減っているという。バレエでは喰えない状態だとか。今回も男性ダンサーの層の薄さを感じさせた。ヤバイほど薄い。でも、アナニアシヴィリが芸術監督として急速に立て直しているというから、今後に期待。
終演後、岩田くんが無邪気に言う。
「佐藤さん、僕、バレエ、久しぶりに観ましたよー。やっぱりバレエって美しいですねー」
まぁ踊る側の彼が舞台を観る機会があまりないのはよくわかる。どんな気持ちでバレエのどこを観たのかなー。いろいろ聞きたかったが「今晩は予定が」とのことで終演後すぐ帰ってしまった。まぁ来日中あと何回かは会えるからその時に聞こう。
というか、「ジゼル」も「ロミオとジュリエット」も、今回の東京公演にボクは全部行く予定(まだ空席あり)。岩田くんもニーナも一回も見逃せない。ほんと、いつまで踊ってくれるのか、という二人である。目を皿のようにして観るぞ。
