新橋「トニーズバー」閉店

2009年12月29日(火) 11:10:43

名店がまたひとつ、姿を消した。

新橋「トニーズ・バー」。
昨日がラストの営業であった。25日のクリスマス、そして昨日の最終日、と、2回続けて行って別れを惜しんだ。

もともとそんなに熱心な常連ではない。
ボクがまだ大阪勤務時代、トニーさんがまだご存命の頃に5,6回、亡くなってからはここ数年で2,3回。そして今週2回。全部で10回ほどしか通っていない。30年40年通い詰めた方も多い名店なので、ここで何かを語る資格もないし、最終日にお邪魔するのも厚かましいくらいである。でも、あのウナギの寝床みたいな細長い空間とそこに漂う大人な空気、圧倒的される洋酒の量、佇まいのいい昭和なオヤジたち……、といった得難い雰囲気を味わいたくて、2回続けて飲みに行ってしまった。

この店で修行した「祇園サンボア」の中川さんもカウンターに入られていた。最終日ということで京都から駆けつけられた模様。客席は常連たちで立錐の余地もない。「オレは○年通ったんだよー」「オレなんかトニーからさぁ…」とか自慢し合っているオヤジたちが愛しい。

店内いっぱいにカウンターがのびていて、スツールもいくつか置いてあるのだけど、基本的にはスタンドバー。バックバーには数千本のボトルが所狭しと並べてある(都内随一の量)。「大声出したら出入り禁止2ヶ月、酔ってスツールから落ちたら出入り禁止3ヶ月、とか決まってたんだよー」とは横に立った常連さんの弁。そう、トニーさんは静かなことを好んだし、若い客や酔った客を嫌っていた。

亡くなったトニーさんは、本名は松下安東仁。英国人を父に持つハーフで、お顔も雰囲気も完全なイギリス紳士だった。
1952年に19歳で店を開いて、2001年(6月26日)に69歳で亡くなられるまで、スコッチを売りにずっとカウンター内に立たれ続けた。宣伝するのが嫌いで、常連さん相手のみの商売。常連が友人を連れてきて、という回転でお客さんが増えていった。ボクもあるCMディレクターに紹介されて初めて行ったっけ。まだ若かったボクは縮こまってこっそり飲んだ。周りの常連とかが「若い者の来るところではない」という目でジロリと睨んだ。大人の入り口に立ったみたいで、そんな感じも好きだった。

「トニーズバー」での最後の一杯は「ソルトレイクシティ」。
トニーさん考案のカクテルで、塩を使ったジンフィズ。すっきりしていて実にうまい。大人の味である。

昨晩一緒に行った先輩とは、6年前、銀座の名店「クール」の最終日にもご一緒させてもらった。
あのときは古川緑郎氏自身から、最後のギムレット、最後のハイボール、最後のマティニーを作ってもらい、彼の真ん前で飲ませてもらった(この日この日のさなメモ)。今回もトニーさん本人から作ってもらいたかったな(叶わぬ願いだけど)。というか、名店というのは一期一会。毎回心して味わわないと。

そういえば「テンダリー」の宮崎優子さんも客として来られていた(最終日を共有できてうれしい)。彼女のカクテルも名品。毎回心して味わおうと思う。

それにしても……、「トニーズバー」のバックバーを彩る圧倒的な量の貴重な洋酒たち、これからいったいどうするんだろう。だれか価値の分かるいい引き取り手にもらわれていくのならいいのだけど。

佐藤尚之(さとなお)

佐藤尚之

佐藤尚之(さとなお)

コミュニケーション・ディレクター

(株)ツナグ代表。(株)4th代表。
復興庁復興推進参与。一般社団法人「助けあいジャパン」代表理事。
大阪芸術大学客員教授。やってみなはれ佐治敬三賞審査員。
花火師。

1961年東京生まれ。1985年(株)電通入社。コピーライター、CMプランナー、ウェブ・ディレクターを経て、コミュニケーション・デザイナーとしてキャンペーン全体を構築する仕事に従事。2011年に独立し(株)ツナグ設立。

現在は広告コミュニケーションの仕事の他に、「さとなおオープンラボ」や「さとなおリレー塾」「4th(コミュニティ)」などを主宰。講演は年100本ペース。
「スラムダンク一億冊感謝キャンペーン」でのJIAAグランプリなど受賞多数。

本名での著書に「明日の広告」(アスキー新書)、「明日のコミュニケーション」(アスキー新書)、「明日のプランニング」(講談社現代新書)。最新刊は「ファンベース」(ちくま新書)。

“さとなお”の名前で「うまひゃひゃさぬきうどん」(コスモの本、光文社文庫)、「胃袋で感じた沖縄」(コスモの本)、「沖縄やぎ地獄」(角川文庫)、「さとなおの自腹で満足」(コスモの本)、「人生ピロピロ」(角川文庫)、「沖縄上手な旅ごはん」(文藝春秋)、「極楽おいしい二泊三日」(文藝春秋)、「ジバラン」(日経BP社)などの著書がある。

東京出身。東京大森在住。横浜(保土ケ谷)、苦楽園・夙川・芦屋などにも住む。
仕事・講演・執筆などのお問い合わせは、satonao310@gmail.com まで。

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