立川談笑 落語会(ゲスト立川談志)

2009年8月22日(土) 9:45:04

danshi.jpgサンケイリビング新聞社主催の「J亭 談笑落語会」に行ってきた。
場所は虎ノ門のJTアートホール。ある方が押さえてくださったプラチナチケットである。なんと言ってもゲストが立川談志だ。

同じ夜に行われた「Wish2009」と迷ったが、未来は取り返しがついても談志は取り返しがつかない(笑)。でもホントに取り返しがつかないような高座であった。

7月に談志独演会を見たときに異様にうらやましがられた方(落語マニア)をお誘いして出かけた。
JTアートホールはチェロのソロコンサートが似合いそうな小さな箱。席も前から3列目。あぁ談志をこんな近くで見られるなんて。でも小さなコンサートホールって声が不必要に響くせいか落語向きではないなぁ。音が回っちゃってちょっと聞き取りにくかった。

基本的に立川談笑の落語会なので、談笑が数席やって、最後に談志がゲストで一席(もしくは小咄のみ)する段取り。トリに談志が控えている談笑はとてもやりにくそうだった上に「談志が来たらこのネタを聴かせたい」と、ネタの順番も変えた模様。つまり、談志が途中で楽屋入りするので、家元に聴いてもらいたいネタを彼が楽屋入りしてからやろうという心づもりだったようだ。

どうやらその「聴いてもらいたいネタ」は、「青菜」。
「青菜」をやって「化け物長屋」をやるのが当初のプログラムだったのに、「化け物長屋」を先にやった。で、それが終わってもまだ談志が楽屋入りしないので、予定になかった「片棒」を一席。そして談志の楽屋入りを確かめてから「青菜」をやった。なるほどね、高座に寝っ転がっちゃうあたりとか、家元に見せたかったのかな。

談笑は初めて聴いたが、とても達者な人。人の良さそうな顔して毒もたっぷり。談志スピリッツの片鱗を伝承している。上手だなぁ。細かい時事ネタを噺の中にさりげなく入れちゃうあたりもうまい。落語家って「一緒に飲んで楽しそうな人」と「一緒に飲んだら気詰まりっぽい人」に分かれるが、談笑は典型的な前者。バラエティ番組でも重宝されそうなタイプの人。

ただ、三席続けて聴くとちょっとTOO MUCHな部分もあった。若いせいもあってくどい。あと「落語マニアにしかわからないネタ」を振っては客席を伺うのがちょいと鼻につく(ウケるんだけど)。もうちょっと自然体になってくるといいなぁ。でもまぁ大笑いさせてもらった。「化け物長屋」はいまひとつだったが、「片棒」と「青菜」はとても良かった。「片棒」のオカマやゾンビの描写など達者達者。

で、談志。

例によって出囃子が鳴っても全然出てこない。ようやくヨチヨチと出てきて顔をちょこっと出したときの驚き。7月の独演会のときよりずっと調子が悪そうだ。というか、失礼を顧みず書くと「死相が出ている」。顔が真っ白で表情がなく、皮膚がテローッとしている。うわー…、こりゃ、死んじゃうよ……(客席も大拍手しながら凍り付いていたと思う)。

高座にもひとりでは上がれない。談笑の手を借りてようやく。
ただ、喉(声門ガンを切った)の調子はよいみたいで、声は出ていた。上半身の動きも問題なし。

「もう落語もこれが最後だと思うんです」と始めた。「これ」とは今日のことを指すのか、今回の病後のことを指すのかドキドキする。話すに従って心配された顔色も徐々に戻ってきて、小咄をふたつほどやったあとくらいからはなんとか普通っぽくなった。で、一席始めたは良かったが、これがまたちょっと衝撃。

「疝気の虫」を話してくれたのだが、入り方をいきなり間違え、途中で「あ、最初からやり直してもいいすかね」と。で、やり直したんだけど、これがまた筋を行ったり来たり、「あ、これも抜かしちゃったよ」「あ、間違えました」の連続で、最後にはサゲも出来ず、あまりのボロボロさにあの談志が絶句(泣)。「ひどいことになっちゃったな」と黙ってしまった。

「もう耄碌だね。見てる方もつらいだろうが、やってるほうもつらいんだ」と笑わせたが、実に寂しそうな顔。もう今にも「落語も今夜で仕舞いにしたいと思います」と頭を下げて引退宣言しちゃいそうで怖くて怖くて。そんな出来だった。

いや、大笑いは何度もとったよ。お得意のアメリカンジョークもきちんとしてた。辛口時評や他の落語家への文句も散りばめた。疝気の虫が胃から上がってくるあたりのアクションも元気一杯だった。でも、やっぱり、衰えは隠しようもなく。いかに好意的に見ても、明日にも引退宣言が出てもおかしくない状態(少なくとも昨晩は)。

「疝気の虫」のサゲで長く絶句したあと「これでオシマイには出来ないから」と小咄をひとつふたつやってくれ、「不思議な夜になりまして」と苦笑いして終了。好意と敬意いっぱいの大拍手。何度か試みるも高座からひとりでは下りられず、談笑のおんぶされて退場した。

終わってから、その落語マニアの方とチケットをとってくださった方と3人で食事に行くべく新橋方面に向かったが、なんだか3人とも下向いてトボトボと歩いた。寂しい。でも仕方がない。でも眼福。でも寂しい。でも見られて良かった。でも寂しい。でも。でも。でも。

気を取り直しての食事は、実はそのおふたりが「異様なサブカル・オタク」だったことが表明し、とても盛り上がった。ボクもそーとーオタクだと思うが、足元にも及ばない。世の中にはスゴイ人がいるもんである。

佐藤尚之(さとなお)

佐藤尚之

佐藤尚之(さとなお)

コミュニケーション・ディレクター

(株)ツナグ代表。(株)4th代表。
復興庁復興推進参与。一般社団法人「助けあいジャパン」代表理事。
大阪芸術大学客員教授。やってみなはれ佐治敬三賞審査員。
花火師。

1961年東京生まれ。1985年(株)電通入社。コピーライター、CMプランナー、ウェブ・ディレクターを経て、コミュニケーション・デザイナーとしてキャンペーン全体を構築する仕事に従事。2011年に独立し(株)ツナグ設立。

現在は広告コミュニケーションの仕事の他に、「さとなおオープンラボ」や「さとなおリレー塾」「4th(コミュニティ)」などを主宰。講演は年100本ペース。
「スラムダンク一億冊感謝キャンペーン」でのJIAAグランプリなど受賞多数。

本名での著書に「明日の広告」(アスキー新書)、「明日のコミュニケーション」(アスキー新書)、「明日のプランニング」(講談社現代新書)。最新刊は「ファンベース」(ちくま新書)。

“さとなお”の名前で「うまひゃひゃさぬきうどん」(コスモの本、光文社文庫)、「胃袋で感じた沖縄」(コスモの本)、「沖縄やぎ地獄」(角川文庫)、「さとなおの自腹で満足」(コスモの本)、「人生ピロピロ」(角川文庫)、「沖縄上手な旅ごはん」(文藝春秋)、「極楽おいしい二泊三日」(文藝春秋)、「ジバラン」(日経BP社)などの著書がある。

東京出身。東京大森在住。横浜(保土ケ谷)、苦楽園・夙川・芦屋などにも住む。
仕事・講演・執筆などのお問い合わせは、satonao310@gmail.com まで。

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