ボクには「春雨」と呉屋さんのマンゴーがある

2009年5月 4日(月) 12:38:52

さて、一日遅れで沖縄最終日(5/2)のことを簡単に書いておこう。

この日は連休中唯一のオフ。まず、昼過ぎに宮里酒造所に伺った。
ここは近年評判をどんどん上げている泡盛「春雨」を造っている酒造所。実際ボクは最近ではこの「春雨」が一番好きである。「山本彩香」でもこの泡盛を出している。というか彼女が作る絶品の「豆腐よう」も「春雨」を使用して仕込んであるようだ(だからあの豆腐ようには「春雨」が一番マリアージュする)。

小禄(おろく)の住宅街にさりげなくある赤瓦屋根の酒造所。こんなに有名なのに本当に小さいし看板もない。駐車場に大きな野生のキーツ・マンゴー。これが目印。これがなければ再訪できないくらいさりげない。こんなさりげない酒造所、初めてである。
後で宮里社長(ボクより2歳ほど若い)にお話しを聞いたら、「最近、小禄も住宅街になり、こういう工場に対しての規制が多くなって、建物を大きくも出来ないし建て替えも修理もできないんです。こちらの方がずっと古くからやっていて、住宅街になったのは最近なのに…」とのことだった。だから売れていても大きく出来ず、施設が古くなっても修理もできない。周辺に気を遣って看板も出していない。そんな風に身を潜めて沖縄を代表する泡盛が造られている…。

話をくわしく聞いていくと、ボクみたいな第三者が聞いても「それはどう考えても行政のイジメだろう」と思えるようなことが他にもザクザク。そのくせ「観光が一番大切!」と、こんな小さな酒造所に観光バスを入れろとゴリ押ししてくるとか。宮里さんは本当に(ほんとの本当に)真面目で真摯な方なので、それにも文句ひとつ言わず対応しているが、いろんな状況を聞けば聞くほど沖縄行政の問題は根深いな。昨晩も彩香さんとさんざんそんな話になった。それにしてもなぁ…。

まぁそれはともかく宮里酒造。
ボクは泡盛の酒造所は15ほど訪ねているが、この宮里酒造はダントツに清潔だ。
いや、もっと近代的で清潔な酒造所はある。ただ、設備がものすごく古く、修理もできないことを考えると、奇跡的に清潔。泡盛を造っている工場特有の匂いもほとんどしない。壁に黒麹も染みこんでいない(他の酒造所で壁が真っ黒なところは「これが黒麹が豊富な証拠」と言っていたりするが、単に管理が悪いだけなのは宮里酒造を見ればすぐわかる)。

試作途中の新酒を飲ませてもらったが、「泡盛が嫌いな人にもおいしいように」という目的で作ってあって、アタックが柔らかいわりに、手のひらでグラスを握って温めながら飲んでいるとだんだん花の香りが立ち上ってくる美しいお酒だった。「これ、ぬる燗にしてもいいかもですね」と言ったら「そうなんです!」と意を強くされて語る語る。泡盛のことを語り出すと宮里さんの口は止まらない。本当に真面目で真摯。これからもここの泡盛を飲み続けよう(あと、石垣島の請福酒造さんと)。

そして特筆すべきは従業員の感じ良さ。本当にすべての人(男性5人だったか)が異様に感じが良い。きっと宮里さんの薫陶が行き届いているのだろうなぁ。ひとりの若い従業員が「私、本当に宮里さんの下で働けて幸せなんです」とこっそり教えてくれた。いい会社だ。こういう酒造所がおいしくないお酒を造るわけがない。


すっかり感動して、いろんな泡盛をご馳走になって酔っぱらって、次は東風平(こちんだ)にあるマンゴー園へ。

今年、彩香さんの紹介で、マンゴーの木のオーナーになった。
完全無農薬自然農法のマンゴー。彼女の友達の呉屋さんという方が作られているマンゴーである。この方に会いがてら、ボクのマンゴーの木を見学に行くことにした。

東風平の景色のいい丘の上にその農園はあった。ちょっと見、荒れ放題。でも「奇跡のリンゴ」を読んだボクとしては、完全無農薬だと荒れ放題になることもありえることはわかっているつもり。しかし呉屋さん本人に会ったときはビックリしたな。「奇跡のリンゴ」の木村さんと同じく歯がないし、雰囲気も笑顔もまさに木村さん。で、話を聞くと、やっていることも木村さんと近い。儲け無視の情熱から手作りの液での木の消毒の仕方とかまで。

ひと通りマンゴーの成長具合を見せていただいてから(収穫は7月かな)、農園横の作業小屋みたいなとこで「ゆんたく」(おしゃべり)。ここでまた沖縄行政の話になった。「私ら最低限食べられればいいんです。何の欲も持ってない。いいフルーツ作って喜ばれれば満足。でも、行政のやってることは『生きていくな』と言っているに等しい。邪魔ばっかりする」と。
ここでもボクはなるべく客観的に聞こうと努力した。行政にも言い分はあるはずだし、こちらが一方的に憤っている場合もある。でも今回もドス黒い気分に。真面目に沖縄の未来を考えて地道に真摯に働いている人たちから「もう無理。辞めようかとも思う」みたいな話を昨晩から連続してずっと聞いている。あぁ沖縄はもう本当にダメかもなぁ…。

んー…、まぁそれはそれとして、呉屋さんの無欲さには呆れかえったな。
何にもいらない、というのが徹底している感じ。で、一時も手を休めない働き者なので、次から次へと新しいフルーツに挑戦していく。マンゴーだけでなく、バンペイユ(晩白柚)やフートー(ローズアップル)のこと、カニステル(エッグフルーツ)のくわしい話など、フルーツに関するいろんな情熱を次々と聞かせてもらった。楽しくて仕方がない感じ。でもそれがお金にはほとんど結びついていない。「ちゃんとお金に結びつけないと、ヒトも物も動かないし、現実が変わりません。儲けろって言ってるのではなくて、ちゃんとお金に結びつけた方がいいですよ」とお願いしたが、あまりピンと来なかった模様(笑)

つーか、「この敷地の一等地にログハウスを建てたらいいよー」と勧められた。タダですか(笑)。なんつうか、とことん無欲。ヒトが喜んでくれればいい、自分は食べていけるだけでいい、という感じ。あぁこんなヒトがまだいるんだなぁ。


帰りのヒコーキの時間が迫ってきたので、再会を誓って空港へ。
先ほど預け物をした宮里酒造に寄ってそれを受け取ってモノレールで空港へ行こうとしたら、宮里さん自らクルマで空港まで送ってくださった。

ビジネスの世界でビジネス・ライクにビジネスマンの常識に沿って生きていると、いろんなことを忘れていく。特に東京ではそれが顕著である。
でもボクは大切なことを思い出す方法をこの日ふたつ手に入れた。泡盛「春雨」と呉屋さんのマンゴー。東京で何かを忘れている気がしたとき、「春雨」飲んで呉屋さんのマンゴーを食べよう。きっとちゃんと思い出せる。そんなことを思いながらJAL機内へ。

今年はもう一回くらい、沖縄に行けるかな。

佐藤尚之(さとなお)

佐藤尚之

佐藤尚之(さとなお)

コミュニケーション・ディレクター

(株)ツナグ代表。(株)4th代表。
復興庁復興推進参与。一般社団法人「助けあいジャパン」代表理事。
大阪芸術大学客員教授。やってみなはれ佐治敬三賞審査員。
花火師。

1961年東京生まれ。1985年(株)電通入社。コピーライター、CMプランナー、ウェブ・ディレクターを経て、コミュニケーション・デザイナーとしてキャンペーン全体を構築する仕事に従事。2011年に独立し(株)ツナグ設立。

現在は広告コミュニケーションの仕事の他に、「さとなおオープンラボ」や「さとなおリレー塾」「4th(コミュニティ)」などを主宰。講演は年100本ペース。
「スラムダンク一億冊感謝キャンペーン」でのJIAAグランプリなど受賞多数。

本名での著書に「明日の広告」(アスキー新書)、「明日のコミュニケーション」(アスキー新書)、「明日のプランニング」(講談社現代新書)。最新刊は「ファンベース」(ちくま新書)。

“さとなお”の名前で「うまひゃひゃさぬきうどん」(コスモの本、光文社文庫)、「胃袋で感じた沖縄」(コスモの本)、「沖縄やぎ地獄」(角川文庫)、「さとなおの自腹で満足」(コスモの本)、「人生ピロピロ」(角川文庫)、「沖縄上手な旅ごはん」(文藝春秋)、「極楽おいしい二泊三日」(文藝春秋)、「ジバラン」(日経BP社)などの著書がある。

東京出身。東京大森在住。横浜(保土ケ谷)、苦楽園・夙川・芦屋などにも住む。
仕事・講演・執筆などのお問い合わせは、satonao310@gmail.com まで。

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