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覚えていた方がいい一卵性双生児 ブベニチェク兄弟

2013年1月 6日(日) 11:43:38

bubenicek2.gifブベニチェク。

覚えにくい。
というか、バレエやダンスの世界は覚えにくい名前で満ちている。

大御所で大人気のアナニアシヴィリだって、知らない人から見たら超難解な名前。アナ、アナにアシ? アシヴィリ? なんだそれ? である。

ヴィシニョーワだってロパートキナだってシアラヴォラだって難しい。ベロゴロフツェフとかスクヴォルツォフとかコルスンツェフなんて、もう目が読むのを拒否する。

ブベニチェクも相当覚えにくい。
ポーランド生まれチェコ国籍。そうなんだよ、あっちって難しい名前多いんだよ。旅した時も覚えられない名前とか地名ばっかりだった。ブベニチェクも相当だ。まぁ覚えにくいだけに何度か声に出すと逆に忘れないのだけど。

名前が覚えにくい上にスター性も特にない。

とりあえず、顔が地味。
いや、もし俳優なら実にハンサムなのだが、バレエの主役向きでは全然ない。頑固で内省的で瞑想風なのだ。哲学者然としている。そんなダンサーが王子役をやっても女性ファンは盛り上がらないのである。

さらに、この兄弟、一卵性双生児であるw

舞台で同じ顔がふたつ並ぶ。ブベニチェクという地味な名前の哲学者みたいな顔がふたつ並ぶ。

地味すぎる。

そのうえ、所属しているバレエ団まで地味。
ボリショイでもマリインスキーでもオペラ座でもロイヤルでもない。

弟のイリ・ブベニチェク(写真上)がドレスデン・バレエのプリンシパル。兄のオットー・ブベニチェク(写真下)がハンブルグ・バレエのプリンシパルである。

でもね。
その地味さがこうしてネタになるほど「才能」があるのである。

だから忘れられない。
だから逆に女性ファンもつく。

なんつうか、マチュー・ガニオやエルヴェ・モローみたいな王子タイプのハンサム・ダンサーが福山雅治だとしたら、ブベニチェク兄弟は香川照之なのだ。

うまいし存在感もあるし迫力もある。オッと目を惹きつける。一度見だしたら目が離せない。福山を凌いで持って行っちゃう迫力がある。

「えっと、あの、ブなんとかっていう変な名前の、気難しい経理のおじさんみたいな、でも、すごい肉体とすごいダンスのあのひと! すごかったよねー!」

観劇後、そんな話題で持ちきりになるようなふたりである。

しかも、弟のイリは振付に、兄のオットーは美術と作曲に、その才能を広げている。

イリの振付、そしてオットーのデザイン・作曲で、オペラ座のスターダンサーを従えて(しかもドロテ・ジルベールとエルヴェ・モロー)、ブベニチェクの名前を冠した日本公演が、オーチャードホールで出来てしまうくらいは才能があり、世界的に有名なのである。

昨晩、観た。

「ブベニチェク・ニューイヤーガラ “カノン” 」@Bunkamura オーチャードホール(1月5日6日7日)

ね、名前を冠してあるでしょ。
ドロテ・ジルベールとかエルヴェ・モローとか、日本で有名なふたりの名前をとりあえず押し出す、というセコイことを主催者側がしないくらいはすごいのである(エルヴェ・モローなんてカムバック公演である)。

CMはこちら(YouTube)

ブベニチェクは、2005年、2008年、2010年の「エトワール・ガラ」で観ているが、とてもストイックで内省的なダンスという印象を持っている。

特に2010年にやった「ブラジル・ヴェッセル」「フェリーツェへの手紙」が素晴らしく、この2つは弟のイリの振付ということもあって、なんとなく「ブなんとか、すげー!」と覚えていた。

だから、今回もいそいそ出かけたのだけど、事前期待を上回ったなぁ。すごかった。

最初の「トッカータ」(振付:イリ、音楽/衣装:オットー)では「うーん、わかるけどちょっと難解。こんなの5つも観るのかぁ」と少し挫けそうになった。

でも、2つめの「ドリアン・グレイの肖像」(振付:イリ&オットー)が実に素晴らしかったのだ。

終わってから休憩に入ったのだけど、ずっと椅子に座ったままだった。立てん。えらく刺さった。ダンスも振付も演出も刺さった。キース・ジャレットの曲も実に合っていた。あー、すごいもの観たなあ。

しかもね、このふたり、一卵性双生児じゃん?

なんつうか、お笑いのタッチみたいな幽体離脱系のダンスというか、魂と実体が離れて葛藤し闘うようなダンスがこのふたりなら出来るわけですよ!

その、「ドリアン・グレイの肖像」の後半の、その葛藤の部分、す ご か っ た 。

休憩を入れて、次。
ドレスデン・バレエのダンサーたちによる「牧神」(振付:イリ)と、生ピアノにジルベールとモローが踊る「プレリュードとフーガ」(振付:イリ)。

ドロテ・ジルベールは大好きなのだけど、「ドリアン・グレイの肖像」が良すぎたのであまり印象に残らなかったなぁ。まぁでもこの辺は端正で良かったとは思う。

もう一つ休憩が入って、ラスト。
「ル・スフル・ドゥ・レスプリ 〜魂のため息」(振付:イリ、音楽/映像:オットー)

これが公演タイトル作「カノン」なのだが、これは一転、楽しくポジティブで印象的。目を奪う美しさでなんとも楽しかったのである。

イリもオットーもストイックで内省的なダンスだし、イリの振付もどんどん内面に入り込んで行くものなのだけど、この「カノン」は前面に生の喜びが出て来ていて、とてもバランスが良かったし、ちょっと感動的だった。

おー、いいなー、ブベニチェク兄弟!

新年早々、とてもイイものを観た。
もちろん客席は総立ち。スタンディング・オベーション。満足度高い公演だったと思う。肉体表現の粋を見せつけられた思い。

エルヴェ・モローもドロテ・ジルベールも好演だったのだけど、福山雅治も真木よう子もすべて香川照之に持ってかれてしまった、って感じw

・・・とはいえ、やっぱブベニチェクって名前ではお客さん集まらないんだよね。

客席、7割くらいしか埋まってなかったと思う。

ええと、今日の15時からと、明日の19時、まだ当日券は余っていると思います(問い合わせなどはここに電話が書いてある)。

現代の教養として、絶対知っておいた方がいいブベニチェク兄弟。

観ても損はないと思うです。

佐藤尚之(さとなお)

佐藤尚之

佐藤尚之(さとなお)

コミュニケーション・ディレクター

(株)ツナグ代表。(株)4th代表。
復興庁復興推進参与。一般社団法人「助けあいジャパン」代表理事。
大阪芸術大学客員教授。やってみなはれ佐治敬三賞審査員。
花火師。

1961年東京生まれ。1985年(株)電通入社。コピーライター、CMプランナー、ウェブ・ディレクターを経て、コミュニケーション・デザイナーとしてキャンペーン全体を構築する仕事に従事。2011年に独立し(株)ツナグ設立。

現在は広告コミュニケーションの仕事の他に、「さとなおオープンラボ」や「さとなおリレー塾」「4th(コミュニティ)」などを主宰。講演は年100本ペース。
「スラムダンク一億冊感謝キャンペーン」でのJIAAグランプリなど受賞多数。

本名での著書に「明日の広告」(アスキー新書)、「明日のコミュニケーション」(アスキー新書)、「明日のプランニング」(講談社現代新書)。最新刊は「ファンベース」(ちくま新書)。

“さとなお”の名前で「うまひゃひゃさぬきうどん」(コスモの本、光文社文庫)、「胃袋で感じた沖縄」(コスモの本)、「沖縄やぎ地獄」(角川文庫)、「さとなおの自腹で満足」(コスモの本)、「人生ピロピロ」(角川文庫)、「沖縄上手な旅ごはん」(文藝春秋)、「極楽おいしい二泊三日」(文藝春秋)、「ジバラン」(日経BP社)などの著書がある。

東京出身。東京大森在住。横浜(保土ケ谷)、苦楽園・夙川・芦屋などにも住む。
仕事・講演・執筆などのお問い合わせは、satonao310@gmail.com まで。

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