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志の輔は本当に親切だ 〜立川志の輔「中村仲蔵」

2012年10月29日(月) 12:33:16

年齢なのかなぁ。移動が疲れるんです。

いや、都内の移動なんかはどうってことない。でも、出張が続くとすぐ疲れてしまうですね。若いころは東京ー大阪20往復/月とかザラにしていたのになあ。ここ2週間、福岡、長岡、札幌、仙台、大阪と動いたら、ブログも滞ってしまうくらいな疲れ方。おまけに腰痛、来ました。おひさ!と挨拶したくなるくらい酷いのが。うぅ。

出張はブログ・ネタの宝庫で、いくらでも書けることがあるのに、実にもったいない。

というか、毎日更新の習慣が崩れ始めてからもおもろいことが日々起こっていて、「あー書きたいなぁ」と思うんだけど、やっぱり独立して自分の看板背負ってると忙しさが根本的に違うです。そのうえ移動が重なると途端に書けなくなってしまいます。

あ、あと、執筆に入ったので(計5冊に増えてます。書けるのか !?)それもある。「書こう!」というモチベーションを執筆の方に傾けてしまうので、ブログが二の次に…。

でもブログを辞める気はまっったくないので、暇を見つけて少しずつ「おもろいこと」を振り返って書いていきたいけど、最近で最大なのは「志の輔らくご in 赤坂ACTシアター」でしょうか。先週水曜日に行ってきました。

ポスターでわかるとおり、今回は十八番「中村仲蔵」を演るとの予告付き。
この「中村仲蔵」、ボク、志の輔ですでに2回、聴いています。2年前のパルコ1年前の半刻一噺

今回で3回目。
同じ噺家で同じ噺を何度も聴く楽しみが少しわかってきたなぁ。

世の中の空気や自分の工夫、そのときのノリなどによっていろんな微調整をしているのがよくわかる。短い間での変化や進化も見えてくる。そしてそれらを汲みつつ深く深く噺に入っていける(ちなみに今回はサゲも変わってた)。

一昨年のパルコは正月ということもあってかとてもポジティブな空気の中村仲蔵だったけど、去年の半刻一噺では震災後の空気を受けて、より庶民目線のウェットな中村仲蔵だった(泣いた泣いた)。

そして3年連続の今回。
この2年の経験を受けて、彼は演りながら少し不安も感じていたのかも、と、ちょっと思った。「お客さん、この噺、背景まできっちり理解してくれてるのかなぁ」って。

これは噺家に共通した悩みだとは思うけど、昭和時代ならまだ近所に明治生まれが生きていたりして共有できていた噺の背景(江戸の暮らしとか長屋の様子とか)を、現代人はほとんど共有できない。限られた時間内にそこを説明しつつ噺を進めるのは無理があるので、どうしても「ある程度は共有してますよね」という前提で演ることになる。

でも、特にACTシアターみたいな若い人もたくさん来れる大箱(1300人収容)でやるときは、不安になるのだろうと思う。

特にこの「中村仲蔵」は歌舞伎の「忠臣蔵」が舞台。若い人がこの国民演劇の内容をちゃんと把握してるかというとかなり怪しい。

そして、この噺のポイントは「中村仲蔵という役者による忠臣蔵五段目の新しい型(解釈)の創出」だ。
「ん? そんな、役者個人が、忠臣蔵みたいな史実に基づいたストーリーを勝手に解釈していいの?」みたいに若いお客さんが思うのではないか。この噺のヤマの部分で疑問符が生じたら申し訳ない。。。

そんな不安が過去の高座で常に頭をよぎっていたんじゃないかな、と思うですね。

という理由だったかどうか全く定かではないけれどw、今回は、仲入り前に「中村仲蔵を1.2倍楽しむ方法」と銘打った「解説らくご」を演ってくれたのです。忠臣蔵全十一段のあらすじをなんとパワポで映して、志の輔が1時間も解説してくれたんですね(ためしてガッテン調)。

細かくストーリーを教えてくれ、「中村仲蔵」の噺のキモである五段目がどういう位置づけか(いかにどうでもいい位置づけか)をわからせてくれたのだけど、もっとも彼が伝えたかったことは、「そもそも赤穂事件という歴史上の出来事と仮名手本忠臣蔵というお話はまったく別のものなんですよ」ということだと思う。彼は「この前、新橋演舞場に忠臣蔵を観に行って、情けないことにそれに初めて気づいた!」と言っていたけど、まぁそれが本当かどうか別にして、そのことを共有したかったのだと思う。

忠臣蔵の登場人物も、その行動も、ほとんど創作。
当時の売れっ子作家3人組の創作(彼は「倉本聰さんと三谷幸喜さんが組んで、そこに橋田壽賀子がやってきたような感じ」と言っていた)。

だからこそ、中村仲蔵は(史実に関係なく)独創的な斧定九郎の役作りを創出できた。
そういうあたりを先に理解してもらった上で、本番に入って、思う存分、中村仲蔵の世界を堪能していただきたい、と。

志の輔って親切だなぁ(笑)
ボクは観てないけど、圓朝の「牡丹灯籠」でも同じような「解説らくご」をしてくれたらしい。「ためしてガッテン」含めて、もともと先生体質なのだろうとは思う。

まぁでもボクとしては、「その解説に1時間使うなら、仲蔵の若いとき(出世前)の描写をもっともっと膨らませてほしかった」とか思う。この落語、仲蔵の若いときの描写がもっとあれば、ぐっと深くなると思うから。

とはいえ、ラストでは涙涙。
総じて素晴らしい中村仲蔵だった。解説を含めると3時間弱。飽きさせずに聴かせてくれ、泣かせてくれ、そして忠臣蔵にもくわしくなれるお得つき。ほんと親切w

ちなみに、江戸時代の貨幣価値を現代の円に置き換えた表を見ると、歌舞伎の桟敷席が1席 銀164匁(180400円)、切落席が1席 銀35匁(38500円)、土間席で1席 銀15匁(16500円)だって。

高いなぁ。。。
仲蔵の噺に出てくる芝居好きのじいさんたちが一回16500円の席を毎回買っていたとは思えないから、たぶん一幕立見 1席16文(264円 安ッ!)を何幕も買って見たんじゃないかなと思うんだけど、でもそうなると「弁当幕」である五段目なんかわざわざ見ないだろうし・・・立見で弁当食べるのもどうかと思うし・・・どうなんですかね? くわしい方々。

というか、この表でわかったけど、初鰹、高っ!(一尾85800円!)
まぁ江戸の流通を考えると納得値段と言えないこともないけど、これを無理して食べた江戸っ子の気持ちが、値段を見て初めてわかったよ。

佐藤尚之(さとなお)

佐藤尚之

佐藤尚之(さとなお)

コミュニケーション・ディレクター

(株)ツナグ代表。(株)4th代表。
復興庁復興推進参与。一般社団法人「助けあいジャパン」代表理事。
大阪芸術大学客員教授。やってみなはれ佐治敬三賞審査員。
花火師。

1961年東京生まれ。1985年(株)電通入社。コピーライター、CMプランナー、ウェブ・ディレクターを経て、コミュニケーション・デザイナーとしてキャンペーン全体を構築する仕事に従事。2011年に独立し(株)ツナグ設立。

現在は広告コミュニケーションの仕事の他に、「さとなおオープンラボ」や「さとなおリレー塾」「4th(コミュニティ)」などを主宰。講演は年100本ペース。
「スラムダンク一億冊感謝キャンペーン」でのJIAAグランプリなど受賞多数。

本名での著書に「明日の広告」(アスキー新書)、「明日のコミュニケーション」(アスキー新書)、「明日のプランニング」(講談社現代新書)。最新刊は「ファンベース」(ちくま新書)。

“さとなお”の名前で「うまひゃひゃさぬきうどん」(コスモの本、光文社文庫)、「胃袋で感じた沖縄」(コスモの本)、「沖縄やぎ地獄」(角川文庫)、「さとなおの自腹で満足」(コスモの本)、「人生ピロピロ」(角川文庫)、「沖縄上手な旅ごはん」(文藝春秋)、「極楽おいしい二泊三日」(文藝春秋)、「ジバラン」(日経BP社)などの著書がある。

東京出身。東京大森在住。横浜(保土ケ谷)、苦楽園・夙川・芦屋などにも住む。
仕事・講演・執筆などのお問い合わせは、satonao310@gmail.com まで。

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