岩田守弘を称える
2012年2月10日(金) 8:09:23
「さとうさん、ボクがんばりましたー。夜まで持つかなぁ。あはははは」
いや、モリ、もうホント、最高のダンスだった!
昨日はボリショイ・バレエ東京公演の最終日だった(まだ神戸でもやる)。
昼(マチネ)と夜(ソワレ)、「白鳥の湖」をやった。当初、岩田守弘くん(モリ)はソワレだけ踊るはずだったが、2日前に急遽マチネも踊ることになったのだった。両方観る予定だったボクは本当にラッキーだった。
「白鳥の湖」での彼の役は「道化」。
第1幕の中盤と第2幕のド頭に大きな見せ場が来るイイ役で、彼の当たり役でもある。なにしろ「道化」なので、コミカルな笑わせもある。その演技がまたうまい。会場からクスクスと笑いが起こる。これはボクが観た幾多もの「白鳥」でもなかなか起こりえないこと。いいダンスを踊るダンサーはたくさんいるが、いい演技ができるダンサーは少ない。彼は確実に数少ないそのひとりだ。
見せ場はなんといっても第1幕中盤の神業回転。
今回は、彼自身、公演パンフに「これで死んじゃっても良いと思うくらい全身全霊をかけて踊ります」と語っていたくらい気合いが入っていたが、それにしてもすごかった。魂がこもった回転。マチネもソワレも観ていてブワッと涙がこみ上げた。あまりにすごくて。
今回岩田くんのダンスを初めて観た、という友人も来ていたが、彼女も泣いたらしい。そのくらいすごいダンスだった。ゼルダが回転斬りするときにフォースが周囲に飛び散るでしょ。ちょうどそんな感じが30秒くらい続く(その例えでいいのか?)。
ロシア・バレエに憧れ、共産党時代のソ連にひとりで渡ってバレエ学校に入り、超アウェイのモスクワ国際バレエ・コンクールで第1位金賞を受賞し(つまり圧倒的だったということ)、その勢いで何度もトライして、ようやくボリショイ・バレエ団への入団を許された岩田くん。
東洋人への偏見に満ちた当時のソ連のボリショイ・バレエ団で認められ、当時唯一の外国人団員になり、初めての外国人ソリストになった岩田くん。
圧倒的に背が小さく、顔もひとりだけ東洋顔。猿役を与えられても腐らず踊って少しずつ認められ、第一ソリストまで上りつめ(身長的にプリンシパルになれない人としては一番高い地位)、あげく、ロシア政府より友好勲章まで授与された岩田くん。
弱肉強食で敵も多いバレエダンサーの世界で、モスクワのある美術スタッフに「モリは聖人だ。彼だけはひとりも敵がいない。みんなが彼を尊敬してるし大好きだ」と言わせてしまう岩田くん。
野球で言ったら、フロンティアとして大リーグでひとりがんばっていた野茂と重なる。その純粋さで孤独な闘いの日々をしっかり生き抜いてきた。それを思うだけで泣ける。
彼は謙虚すぎるくらい謙虚なので決して前に出てこない。だから上のような半生もおくびにも出さない。いや、本当にナイスガイで、ボクはこんなに性格のいい青年(?)を他に知らない。何度も書いてるけど。
今年で彼はボリショイを引退する。
ボリショイとして来日するのもこれが最後だと思う(兵庫県立芸術文化センターで12日にラストの「白鳥」を踊る)。
団員の中でもほぼ最年長(41歳)。
でも稽古を休まず、その抜群な(控えめに言って抜群な)ダンス技術をキープしつづけている。昨日のダンスを観てもレベル的にはトップだ。安定感が半端ない。引退にはまだまだ早い。でもバレエって38歳が定年適齢期と言われるし、後進にも道を譲らないといけないのだろうな。
きっとボリショイの後も違う劇団で踊ってくれるとは思う。ボクはこれからもずっと彼を応援し続けるし、ずっと誇りに思っている。助けになることはこれからもなんでもやろうと思う。
岩田くん、お疲れ様。昨日は本当にいいダンスだった。
※昼の部はルンキナとチュージンとラントラートフ、夜の部はシプーリナとスクヴォルツォフとドミトリチェンコだった。ルンキナもシプーリナも黒鳥が良かったが、先日のアレクサンドロワが神すぎて少し印象が薄い。チュージンはとっても良かったなぁ。
