観る人に伝わるクリエイティブ

2011年6月14日(火) 8:42:48

さて、昨日書いたように、札幌のYOSAKOIソーラン祭りの話。

ボクはこの祭りに2006年からなぜか深く関わるようになり、ここ4年間、審査員なんかもした。YOSAKOIソーラン・フォーラムという巨大イベントでパネラーをしたり、基調講演をしたりもした。

その過程で、踊りも出来ないくせに、なぜか「どうやって演舞を構成していけばいいかをクリエイティブディレクターの視点から講義する」という講義行脚もしたのである。旭川、帯広、十勝で、たくさんのチームを集めて講義をした。

で、こういう視点からの話は聞いたことがなかったらしく、意外とこれが好評だったのだが、中でも特に深く興味を持って聴いてくださり、実践してくれたのが、去年今年と二連覇した「夢想漣えさし」の石岡武美代表だったのである。

そう、ここからは図らずも多少自慢めくかもしれない。
だって、ボクの講義を聴いて、その内容に沿って作り上げたら優勝した、なんて話に聞こえてしまう(笑)

いえ、ちゃんとわかってますから大丈夫。もちろん、演舞を作った本人と、踊った踊り子さんたちがすごいからである。ボクが貢献できたことはほんの少し。観る人のことを考えたクリエイティブの方法、そして、それを演舞に反映するためのディレクションの方法をお伝えしただけである。

簡単に内容をまとめると、

・ポイントをひとつに絞る(イイタイコトをひとつに絞る)
・他のチームと同じことをしない
・熱気・共感を大切にする
・緩急をつけ、印象的な山場を作る

こう書くとやけに普通だなw
でも、祭りの踊りって「自分たちが踊って楽しいこと」が先に来て、「観客が観て楽しいもの・印象に残るもの」という意識が乏しい場合が多い。祭りだからそれでいいじゃんって? いや違う。YOSAKOIソーランみたいな鑑賞型の祭りは、鑑賞して楽しくないと人々が参加しない(見に来ない)。みんなが参加して踊る盆踊りとは違うのである。「では、観て楽しい演舞って何?」ということを広告クリエイティブの視点から説き起こしてみたのである。

5年前のYOSAKOIソーランは、ちょっと大道具や小道具が多すぎて欽ちゃんの仮装大賞みたいになっていた。それはそれで鑑賞として楽しいと思うかもしれないが、いまはテレビやネットで完成度の高いエンタメがいつでも観られる時代。そっち方向に完成度を上げてもプロにはかなわない。わざわざ観客は見に来ないのである。自分たちが考える完成度よりも、もっと荒削りな「熱気」や「テンション」を伝えるべきである。そのためにはポイントがあり、優先順位や発想の順番がある。それは・・・

みたいなことを2時間以上かけて丁寧に話し、集まったチームたちと「イイタイコト」「伝えたいこと」をひとつに絞るワークショップまでやった。まずひとつに絞った後、それをどう表現するか、に移っていく。この順番が逆になっているチームが意外と多い。←ここを順番通りやるのはわりと難度が高い

そんな講義をする中、石岡さんはやけに食い下がってきた。
彼の疑問は最終的に一点に絞られた。「内容はよくわかったが、それをどうディレクションするのか。みんなの合議制では無理なのではないか」ということである。答えは「そのとおり。合議制では難しい」である。「もし可能なら、ひとりが演舞全体を俯瞰して見て、その人の感性でポイントと山場と熱気を一貫して構成した方がいい。なるべく観客の立場から客観的に見るために、その人は振り付けなどに関わらず、YES・NOを出すだけの存在になった方がいい」と申し上げ、そのやり方をふたりで話し合った。

要するにエグゼクティブ・クリエイティブ・ディレクター的な人が存在しないとダメですよ、ということ。誰かひとりその役について、客観的に見て上記の4つのポイントをチェックする必要がある。地域の人たちが自発的に集まって出来上がる祭りのチームはどうしても合議制になりがちだが、それではなかなかイイモノに仕上がらない。

そこを石岡さんは理解してくれ、演舞の細かいところまで口を出してきたことをやめ、全体を俯瞰して客観的に見る役割についた。彼がやるのは、みんなが苦労して作り上げてきた演舞を定期的に見て「いい」「ダメ」と告げることである。まぁチーム全員から愛され慕われている石岡さんだから出来ることではあるが、それにしても徹底的にそのスタンスをとった、という決断がスゴイと思う。

この方、「親父」と呼ばれ、ある意味YOSAKOIソーランの名物男なのだけど、翌年から、札幌の本番で石岡さんに出会うたびに「さとなおさんの教えを忠実に守って作ってみてますが、ちゃんと出来てるかどうか…」と、わざわざ握手をしに来てくれるようになった。恐縮であると同時に感嘆した。人の意見を聴く人は多いが、実行しキープする人はとても少ない。しかもそれを伝えてくれる方はもっと少ない。参りました…。


「夢想漣えさし」は、2年かけて演舞を改良し、去年、それは見事な演舞に昇華され、平岸天神や新琴似天舞龍神などの大横綱を破り、ついに悲願の初優勝まで至った。

繰り返すが、ボクがやったのは「考え方の整理」と「ディレクションの方法」だけ。実際に試行錯誤して努力したのは石岡さんと「夢想漣えさし」チームメンバーである。でも、こんなに違ってくるとは我ながら驚きだった。

おとといもファイナルステージの前に大通公園で石岡さんにばったりお会いした。
今年もまた「まだまださとなおさんの講義通りに出来ていないけど」と謙虚な言葉を。「いや、去年優勝されたし、今年もさっき見たけど素晴らしい出来じゃないですか!」と言ったらとてもうれしそうに笑いつつ、「いやぁ、まだまだでねぇ」と。

でも、午前中に見た「夢想漣えさし」の演舞はぶっちぎりのクオリティだった。
なによりも観客の顔と声がそれを物語っている。演舞が終わった途端「おーーー!」という叫びと拍手が起こり、みんなが「すげー!」「よかったー!」と笑っていた。めったにここまでの反応は起こらない。今年はボクも審査員の立場を離れたので、観客と一緒になって沿道で大拍手を送った。

そして予想通り、見事に二連覇達成!

去年(YouTube動画)といい今年といい、本当に焦点が来たいい演舞だと思う。映像でも現場の熱気が伝わるといいな。

大賞受賞後の夜の打ち上げ(呼び出されてボクも参加した)でも、ボクがその会場に深夜1時くらいに着いたら、石岡さんがチームメンバーたちに「陰の功労者はこの人なんだ!」と紹介してくれた。

ありがとうございます。
踊りの素人なりに一所懸命講義して本当に良かった。少しでも役に立てたとしたら本当にうれしいし、やっぱり講義したことをちゃんと聞いてくれて実行に移してくれるって、講師冥利に尽きるなぁ。


てな感じで、今年のYOSAKOIソーランも楽しく終わった。
祭り自体が変わり目を迎えている感じがあったが、それはまた機会があったら書きたいと思う。いい加減長すぎるメモなのでw

佐藤尚之(さとなお)

佐藤尚之

佐藤尚之(さとなお)

コミュニケーション・ディレクター

(株)ツナグ代表。(株)4th代表。
復興庁復興推進参与。一般社団法人「助けあいジャパン」代表理事。
大阪芸術大学客員教授。やってみなはれ佐治敬三賞審査員。
花火師。

1961年東京生まれ。1985年(株)電通入社。コピーライター、CMプランナー、ウェブ・ディレクターを経て、コミュニケーション・デザイナーとしてキャンペーン全体を構築する仕事に従事。2011年に独立し(株)ツナグ設立。

現在は広告コミュニケーションの仕事の他に、「さとなおオープンラボ」や「さとなおリレー塾」「4th(コミュニティ)」などを主宰。講演は年100本ペース。
「スラムダンク一億冊感謝キャンペーン」でのJIAAグランプリなど受賞多数。

本名での著書に「明日の広告」(アスキー新書)、「明日のコミュニケーション」(アスキー新書)、「明日のプランニング」(講談社現代新書)。最新刊は「ファンベース」(ちくま新書)。

“さとなお”の名前で「うまひゃひゃさぬきうどん」(コスモの本、光文社文庫)、「胃袋で感じた沖縄」(コスモの本)、「沖縄やぎ地獄」(角川文庫)、「さとなおの自腹で満足」(コスモの本)、「人生ピロピロ」(角川文庫)、「沖縄上手な旅ごはん」(文藝春秋)、「極楽おいしい二泊三日」(文藝春秋)、「ジバラン」(日経BP社)などの著書がある。

東京出身。東京大森在住。横浜(保土ケ谷)、苦楽園・夙川・芦屋などにも住む。
仕事・講演・執筆などのお問い合わせは、satonao310@gmail.com まで。

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