紙の本で読んだ方がいいよ。「ある小さなスズメの記録」
2011年1月21日(金) 11:26:28

「ある小さなスズメの記録」
(クレア・キップス著/梨木香歩訳/酒井駒子絵/大久保明子装丁/文藝春秋/1500円) という本を読んだ。
「心を込めて丁寧に丁寧に作られた本」という言葉がとても似合う佳品。
原作者の紡いだ言葉はもちろん、梨木香歩の訳、装丁、装画、写真に至るまで、心を込めて丁寧に丁寧に作られている。こういう質感はデジタルでは出ないなぁ。しかもデジタルでは読みたくない内容だ。窓外の景色を見ながら、そこにふとスズメが飛んでこないかなとか期待しながら、紙の手触りを楽しみつつ頁をめくりたい作品。
戦時中のイギリスでの実話でありノンフィクションでありエッセイである。
たまたま玄関前で拾ったスズメの雛。生まれて数時間。まだ毛も生えておらず目も見えていない。足と羽に決定的な不自由を抱えている雛で、たぶん親に「これは生き延びない」と巣から放り出されたのだろうと作者は推理する。
もう仮死状態なのだが、命を救うべく作者は必死に介抱する。そこからこの小さなイエスズメとの友情の12年が始まる。野生のスズメを育てて「極度の老衰」まで飼いきった例はなく、生物学的にも貴重な資料となるらしいが、そういう表面的なところがこの本の魅力ではない。作者とスズメとの奇跡的な交流。これが温かくも静かで豊かな時間を贈ってくれる。ボクはこの本を手にベッドに入る数十分がとても愛おしかった。読み終わるのがイヤでゆっくり数頁ずつ読んだ。
スズメは最初名前すら付けられなかった。作者は愛玩的に彼とつきあったわけではない。でも最後に作者がスズメをさして「この人物」と思わず表現してしまったように、スズメはほとんど人間的といってもいい感情と仕草を身につけ、細やかな愛情表現とともに作者との毎日を送っていく。
スズメの写真は老年の数枚のみ。そして、スズメとしては信じられないような歌を歌ったと書いてあるが、その録音も残っていない。いまだったらYouTubeとかで上げられ、瞬く間に世界のアイドルになっていただろう。でも動画も音もない分、作者はなんとかそれを文章で表現しようとしていて、それが読者の想像力をいたく刺激する。ボクの頭の中でスズメは朗々と歌を歌い、首もとでムニャムニャとつぶやいて眠りについてくれる。この想像を巡らす時間の楽しいこと。
よく「この映画は(DVDではなく)映画館で観た方がいいよ」というような勧め方を人にするが、「このエッセイは紙の本で読んだ方がいいよ」とボクは勧めるな。まぁここでデジタルとアナログの話をするわけではないが、「紙にするといい本」と「デジタルで充分な本」と分かれるとは思う。
で、これは紙の秀作。
静かな気持ちになりたいときに本棚からそっと取り出して数頁ぱらぱらめくってまた戻す。そんな感触を楽しみたい本。
