本物の水牛のモッツァレラが…

2010年5月 6日(木) 19:20:05

先週の始めだったか、妻が残念そうな声で報告してきた。

「水牛モッツァレラを作っていたカゼイフィーチョの水牛が、口蹄疫に感染しちゃったらしいの」

カゼイフィーチョ。知らない人にはわけわからない単語なので少し解説がいるかもしれない。

正確には「カゼイフィーチョ チーロ・エスポージト」
宮崎県都農町にある牧場&チーズ製造所の名前だ。本格的な「水牛のモッツァレラ」を作っている。オーナーの竹島さんはイタリア・カンパーニャでチーズ作りと水牛の飼育などを学び、2007年に帰国して、日本で水牛飼育に最適な場所として宮崎を選んだとのこと。水牛はイタリアからは輸入出来ないのでオーストラリアからイタリア系の水牛を輸入。2010年4月時点で仔牛を含めて42頭まで増やしていたらしい。輸入も増産も相当な苦労があったと漏れ伝え聞く。

モッツァレラについては特に説明はいらないかもしれないが、少しだけ書いておこう。
イタリアンのフレッシュ・チーズの名前。白くてもちもちでとってもうまい。イタリアン・レストランなどで「カプレーゼ」としてトマトと一緒に食べたことがある方も多いと思う。本来は水牛の乳を原料とする(牛乳で代用したものもある)。水牛は飼育が難しい上に乳の量も少ないらしく、水牛のモッツァレラの方が値段が高い。

で、モッツァレラは鮮度が命なのだ。
南イタリア(モッツァレラ産地周辺)の人はその日作ったモッツァレラしか食べないそうだ。だから昔の日本の豆腐屋みたいに各町にチーズ製造所があり、毎日みんなが買いに来るらしいるらしい。そういうチーズ製造所をイタリアでは「カゼイフィーチョ」と呼ぶ。つまり、ここは「日本のカゼイフィーチョ」を目指している志高い牧場なのだ。

本場イタリア同様の新鮮な水牛モッツァレラを、日本人に提供したい。
その思いで、この「カゼイフィーチョ」では朝3時から作り始め、2時間かけて宮崎空港に持っていき、その日中に東京や大阪のレストランに届くように毎日努力されてたようである。そしてそのレストランはその夜か翌日のランチまでに使い切る。モッツァレラは冷蔵すると味が壊れてしまうらしく、保存がきかないからである。


さて。
妻はチーズ・プロフェショナル協会の理事をしているのでその筋の専門家だ。だからいち早く情報を掴んだのかもしれない。冒頭の言葉はつまりその牧場の水牛が口蹄疫に感染していることがわかったというのである。口蹄疫は伝染力が強いので、感染が確認され次第、家畜伝染病予防法に基づいて全て速やかに殺処分される。

サイトを見るとこんな言葉が載っている。

残念なお知らせがあります。

当牧場の水牛達も口蹄疫に感染しておりました。
子牛を含む、全ての水牛を家畜伝染病予防法に基づいて殺処分しなければいけません。
残念です。


この短い文章がどれほどの思いで書かれたか。

思わず涙ぐんでしまった。
苦労して水牛を輸入し、試行錯誤して日本で「本当の水牛モッツァレラ」を作り、時間との競争で毎朝発送を繰り返し、ようやく人気が出てきて生産が軌道に乗ってきた矢先のことらしい。


※追記(5/10 7時)
ここに続けて、水牛は殺処分補助金対象にはならないという話もある、という意味のことを記述したが、その後の情報で、家畜伝染病予防法第2条では水牛は指定されていないが、第2条本文(表の上の1行)の「政令で定めるその他の家畜」とは、家畜伝染病予防法施行令で規定されており、そこで口蹄疫に該当するその他の家畜は「水牛、しか、いのしし」とされているので、水牛もサポート対象になることがわかりました。家畜疾病経営維持資金融通事業でも、4/23に水牛が追加されています。なので、本文での当該部分を削除します(一応「正確な情報は収集中」と断って書いてはいるものの、どんなことから風評被害が起こらないとも限らないので)。


感染した以上、殺処分は仕方ない。そして、今回の口蹄疫騒ぎでは、「カゼイフィーチョ」だけでなく、畜産農家の多くで殺処分が行われている。ここだけが困っているわけではない。

ただ、食べることが好きな末端消費者として、おいしい本物の水牛モッツァレラを提供してくれようとしたこの牧場が、このまま身動きとれなくなっていくのを傍観しているのは忍びない。うーん、何か手はないのかな…。

いろいろ難しい問題だけど、単に「気の毒だなぁ…」で済ませたくはない。すぐには無理かもしれないが、自分ごととして、何かできることはないかどうか、考えてみたいと思っている。

佐藤尚之(さとなお)

佐藤尚之

佐藤尚之(さとなお)

コミュニケーション・ディレクター

(株)ツナグ代表。(株)4th代表。
復興庁復興推進参与。一般社団法人「助けあいジャパン」代表理事。
大阪芸術大学客員教授。やってみなはれ佐治敬三賞審査員。
花火師。

1961年東京生まれ。1985年(株)電通入社。コピーライター、CMプランナー、ウェブ・ディレクターを経て、コミュニケーション・デザイナーとしてキャンペーン全体を構築する仕事に従事。2011年に独立し(株)ツナグ設立。

現在は広告コミュニケーションの仕事の他に、「さとなおオープンラボ」や「さとなおリレー塾」「4th(コミュニティ)」などを主宰。講演は年100本ペース。
「スラムダンク一億冊感謝キャンペーン」でのJIAAグランプリなど受賞多数。

本名での著書に「明日の広告」(アスキー新書)、「明日のコミュニケーション」(アスキー新書)、「明日のプランニング」(講談社現代新書)。最新刊は「ファンベース」(ちくま新書)。

“さとなお”の名前で「うまひゃひゃさぬきうどん」(コスモの本、光文社文庫)、「胃袋で感じた沖縄」(コスモの本)、「沖縄やぎ地獄」(角川文庫)、「さとなおの自腹で満足」(コスモの本)、「人生ピロピロ」(角川文庫)、「沖縄上手な旅ごはん」(文藝春秋)、「極楽おいしい二泊三日」(文藝春秋)、「ジバラン」(日経BP社)などの著書がある。

東京出身。東京大森在住。横浜(保土ケ谷)、苦楽園・夙川・芦屋などにも住む。
仕事・講演・執筆などのお問い合わせは、satonao310@gmail.com まで。

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