ホンマタカシ著「たのしい写真」
2009年7月21日(火) 6:19:22

最近、アタリ本が多くて感想が間に合わない。
この本も数週間前に読み終えた。すばらしい。写真だけでなく人生にも新しい視点を与えてくれる本である。
著者のホンマタカシさんは日本を代表するカメラマンのひとり。
彼が書き下ろしたこの本「たのしい写真 ーよい子のための写真教室」(平凡社)は、「photograghは『写真』じゃない。〈真を写す〉だけじゃない---」というキーワードを出発点に、小難しく語られがちな写真史をさらっと整理してくれ(写真初心者が知っておくべきふたつの「山」"決定的瞬間とニューカラー" に絞って簡潔に俯瞰させてくれる)、写真がもっとたのしくなるための最低限の考え方を楽しく気楽に提示してくれる。ワークショップもエッセイも対談もそれぞれにすばらしい。
あとがきにこうある。
写真を目にしながら、何も考えずに好き嫌いの次元で判断してはいませんか? もったいないなあ! と思うのです。もうちょっとだけ写真について考えてもらえたら。そうすれば、写真はもっともっとたのしくなるはずなのに。いや、そのとおり。
実際ボクは、この本を読み終わってから、写真の見方がずいぶん変わった。ブレッソンとかティルマンスとかの写真集を買い求め、"この本以前" とは違った目で写真を眺めている。そして自分でもまた撮りだした。たのしくて仕方ない。
ホンマさんとはハワイで一緒にロケしたことがある。とっても無口で物静かな人だった。でもこの本ではたいへんに饒舌。たとえば「は・じ・め・て・の写真」という章なんか、長々と「はじめてのデート」のことを書いてボケるんだけど、実物のホンマさんを知ってたら驚天動地だ。内面ではこんなに豊かに言葉が奔出してたのか!(笑) というか、文章うまっ!
この本にボクはたくさん付箋をつけたんだけど、そのうちのひとつをご紹介しよう。
写真する人はいつも考えるだろう、どうやったら他人と違う写真が撮れるのだろう、と。どうしたら自分だけの世界を構築できるだろう? それが間違いなんだ。自己表現なんて考えるな。自分が考えられることなんてたかが知れている。その風景にただ体を預ければいいのだ。そして感謝しろ。「太陽さん、ありがとう」。何も考えずにバーチバチ撮るんだ。ただし、その風景を敏感に感じなければいけない。絶えず自分の感覚を鋭敏にして、オープンにしておかなければ、せっかくの絶景を逃がしてしまう。この本の帯には「『今日の写真』を読み解くための必読教科書!」と書いてあるが、これを教科書とカテゴライズしてしまってはもったいない。写真ともっとたのしくつきあうためのエントランスであると同時に、「人生をたのしく過ごすためのバーチバチとは何か」でもあるんだな。このバーチバチとは「カメラがあれば助けにはなるが、カメラがなくても本当は切り取れる瞬間瞬間」のこと。そこに写っている「時間」こそが人生だ。
1回逃がしたら終わり。2度目はない。それが写真のリアル。ボケッとしていたり悩んでいたら、せっかくのチャンスは全速力で逃げてしまう。あっという間に何億光年も先まで行ってしまうんだ。だから素早く捕まえよう。そしてバーチバチドンドン撮影するのだ。(P143)
読後、なんとなく芭蕉の「高く心を悟りて、俗に帰るべし」という言葉を思い出した。
ホンマさん、一周回って俗に帰り、そのたのしさに浸っている感じ。そこへの「近道」を提示してくれている本だ。ありがたく、近道、行かせていただきます!
