ダイアログ・イン・ザ・ダーク

2009年4月 6日(月) 8:18:11

もう2週間前になるかな。「ダイアログ・イン・ザ・ダーク」(DID:DIALOG IN THE DARK)に行ってきた。ひと言で言うなら暗闇イベントである。感動したのですぐ書こうと思ったのだが、なんとなく書くタイミングを逸して今に至ってしまった。

公式サイトを見ればわかるが、世界25か国・約100都市で開催され、2009年現在で600万人以上が体験したイベントで、1989年に哲学博士アンドレアス・ハイネッケの発案によってドイツで生まれたもの。1999年に日本で開催されて以来、日本でも約36000人が体験しているらしい。

直訳すると「暗闇の中の対話」。
まさに真の暗闇。目の前の自分の手すら見えない暗闇。この中に1時間30分放り込まれ、目以外の四感(つまり視覚以外の聴覚、触覚、味覚、嗅覚)で探検し、物を「見る」体験である。

まず匂いがする。木の匂いだ。そして足の下の触感。ん、なんかおがくずの上を歩いているような……いや、途中から土になった。お、岩がゴツゴツした道になった?……とか思っていると右手が葉っぱに触る。わっ。目に枝が刺さらないか不安になり顔を背ける。手をおそるおそる伸ばして触ってみる。あぁ普通の木だ。右前方に水の音。参加者から「水だ。あ、触った」とか言っている。数センチずつ足を進めて声のするところへ。目が見えないと声だけでは場所が特定しにくい(馴れるまでの最初の数十分は特に)。ここらへんかな?としゃがむ。あ、水だ。懐かしい触感。遠くに牛の声。鳥のさえずり。あぁあっちに行ってみよう。ヨチヨチ歩いて行くと「丸木橋がありますよ!」という声がする。丸木橋? そう、真っ暗闇の中、丸木橋を渡るのだ。ギョギョギョ。その不安。周りの人と声を出し合って、丸木を確かめ一歩一歩こわごわ渡る。その後「おじいさんの家」へ。ひなたぼっこする縁側も真っ暗闇の中。あ、畳だ! あ、テーブルの上に何かある!

……と、あまりくわしく書くとネタバレになるのでこれ以上書かないが、最後は暗闇の中のバーで飲んだりもする。
総時間1時間30分。総勢8人の知らない人たちでグループを組み、暗闇のエキスパートであるアテンド(視覚障害者)のサポートのもと、暗闇空間を探検し、様々なシチュエーションに対峙する企画である。四感が開き、とぎすまされる以上に、その1時間30分を通してヒトとのコミュニケーションの意味に気づいていくのが素晴らしい。視覚を失ったときの頼りなさ。相手が近くにいることの安心。そして助け合わないと何もできない人間という存在への実感。

ネット空間はフラットだとよく言われる。肩書きも姿形も関係なく、まったくフラットに存在する。この「DID」はとてもネットに似ている。姿カタチが見えないとここまでフラットになるのだなぁ。まぁネット生活が長いせいか、これって匿名文化と一緒だよなぁとか、しょーもないことも考えながら暗闇散歩していたけど、ヒトによっていろんな想いがあることだろう。そして何人かが「倦怠期の夫婦とか一緒に来るといいね」「つきあい始めの恋人とかと来ると親しさがグッと増すね」と言っていたが、それもその通り。なんか親密になるというか「個としての相手の存在」が愛おしく思えてくる体験なのである。

それにしても。
自分の内部が次第に大きくなっていき、カラダが実物大から無限大に変わっていく感覚が面白かったな。尋常でなく面白かった。目が見えないと「実物大」ということが意味をなくし、精神がどんどん拡張していく。手が長く伸びる。耳が異様に大きくなる。鼻の穴も無限大になる。ここからここまでが自分の内部でここからあっちが自分の外部、という境目がわからなくなる感じ。これが一番面白かったかも。

誤解を恐れずに言うと、暗闇の中では「圧倒的強者」であり「頼れるボス」だった視覚障害者が、暗闇から出た途端にそのチカラを急速に失い「社会的弱者」になる感じが、なんか堪らなかった。暗闇の1時間30分。彼がいなければ一歩も前に進めなかった自分。それが光の存在があるだけで逆になる。そして「本当に大切なことは目には見えない」という「星の王子さま」の大切な言葉に辿り着く。目は時に心の邪魔をする。そういうことだ。

もうすぐ暗闇から脱出、という段になって、自分が異様にフリーな気持ちになっていることに気がついた。ここにあと数時間いれさえすれば、ボクは目から自由になれる。そんな感じ。もちろんそこからが長いのだろうけど、真理の入り口をちょっとだけ垣間見た気がしたかも。

イベントが終わって明るい街に出る。
異様な量の情報が目に飛び込んできて、いままで開いていた耳や鼻がしゅるるるる〜と閉じていく。この感覚、絶対忘れないでいよう。そう思った。

今回は第1期が3月20日から6月下旬まで。第2期が7月上旬から。入場者が多ければ長期開催も可能な模様。完全予約制で8000円。高い? いや安いと思う。何食かおにぎりで済ませて節約してでも是非。

佐藤尚之(さとなお)

佐藤尚之

佐藤尚之(さとなお)

コミュニケーション・ディレクター

(株)ツナグ代表。(株)4th代表。
復興庁復興推進参与。一般社団法人「助けあいジャパン」代表理事。
大阪芸術大学客員教授。やってみなはれ佐治敬三賞審査員。
花火師。

1961年東京生まれ。1985年(株)電通入社。コピーライター、CMプランナー、ウェブ・ディレクターを経て、コミュニケーション・デザイナーとしてキャンペーン全体を構築する仕事に従事。2011年に独立し(株)ツナグ設立。

現在は広告コミュニケーションの仕事の他に、「さとなおオープンラボ」や「さとなおリレー塾」「4th(コミュニティ)」などを主宰。講演は年100本ペース。
「スラムダンク一億冊感謝キャンペーン」でのJIAAグランプリなど受賞多数。

本名での著書に「明日の広告」(アスキー新書)、「明日のコミュニケーション」(アスキー新書)、「明日のプランニング」(講談社現代新書)。最新刊は「ファンベース」(ちくま新書)。

“さとなお”の名前で「うまひゃひゃさぬきうどん」(コスモの本、光文社文庫)、「胃袋で感じた沖縄」(コスモの本)、「沖縄やぎ地獄」(角川文庫)、「さとなおの自腹で満足」(コスモの本)、「人生ピロピロ」(角川文庫)、「沖縄上手な旅ごはん」(文藝春秋)、「極楽おいしい二泊三日」(文藝春秋)、「ジバラン」(日経BP社)などの著書がある。

東京出身。東京大森在住。横浜(保土ケ谷)、苦楽園・夙川・芦屋などにも住む。
仕事・講演・執筆などのお問い合わせは、satonao310@gmail.com まで。

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