ネット上の発信を本にするということ

2009年3月29日(日) 10:45:00

ウェブは人類が有史以来初めて手に入れた「無名の生活者の発信メディア」である。
WWW登場以前は、何かを世の中に広く発信しようと思ったら、なんとかしてマスメディアに出るとか、出版社に原稿を持ち込んで本にしてもらうとかしかなかった。その確率は非常に低く、よっぽど意志が強い人以外はみんな最初から諦めていた。

でも、ウェブは違う。発信メディアであると同時に、自分が書いたものが世の中に取り上げられたり本になったりする確率がウェブ以前に比べて飛躍的に増大した。ブログで何気なく書いたことがメガサイトやマスメディアで取り上げられたことがある人も意外といらっしゃると思う。もしくはアマゾンとかでレビューを書いてもいい。それが「そのまま」多くの人の目に触れる。こういうのって、たった15年前は「ありえなかったこと」。世の中、根っこから変わった。そう思う。

ボクが本を出せるようになったのは、1998年にこのサイトに書いていた紀行文に出版社の方がたまたま目を付けてくれたのが元々(そして一作目「うまひゃひゃさぬきうどん」が出版された)。ボクが知っている限りでは無名素人のサイト上の雑文が書籍化されたのはボクで2番目だと思う。たぶん。1番目は山本ちずさんの「ソラミタコトカ―会社つぶれてしもたがな!」だと思う(元々のサイトはここ。文庫化もされたみたい)。当時このサイトは人気サイトで、ボクも大笑いしながら読んでいた。

なんでこんなこと書いているかというと、「ミクシィにこんな日記を書いていて、これが意外と好評なので本にできないかと思って…」とボクに相談してくださった方の本が今月頭に出版されたからである。いくつか出版社をご紹介し、結局それらでは実らなかったのだが、独自に売り込みを続けて、出版に至った。

偽ロレックスを買う人は、どうして一生貧乏なのか?その過程はブログにも書かれている(こちら)。
本の題名は「偽ロレックスを買う人は、どうして一生貧乏なのか?」(黒野修資著/PHP研究所)

普通のサラリーマン家庭で定年までに1億円貯めるにはどうすればいいか。一般人のための「金持ち父さん」であるこの本、異様にやさしく会計学を紐解いてくれ、それを家庭に上手に当てはめて資産作りの初歩を説いてくれている。数字に極端に弱いボクにもとてもわかりやすかったし、いろいろ発見があった本である。
それにしてもこれ、元がミクシィの日記なんだよねぇ。日記が40人前後のマイミクたちに受けて、それが結果的に本になる。すごい世の中だなぁ。

ネットより本が偉いなんて思わないし、出版がゴールだとも思わないが、SNSという仲間うちで何気なく書いていた文章が支持を得て、出版まで至る感じがイマだなぁと思う。
もちろん出版に至るには「この内容で売れるのか」という編集者の厳しいハードルを越えなければいけない。自分から持ち込む場合、WWW登場以前と変わらぬ高い壁があるだろう。でも「本を出すぞ!」と意気込んで書き始めるのではなく、「ミクシィ日記で書いてたらたまたまマイミクに受けて…」というところがイマ。しかも40数人のマイミク。

最近、会社で「こんなこと考えているんです」とか、広告についての展望とかを語る若手がいると「それ、本にしてみたら?」と無邪気に勧めているのだが、本を書くといろいろ世界が変わるのは確か。会社の一歯車である自分が個人名で世の中に出る。これ、ものすごく「人生の立ち位置」が変わる。会社の看板に隠れて遠吠えしていた自分から、個人名で世間に晒される自分へ。一見大変そうだけど、このスタンスを手に入れると人生が社外に大きく広がってより楽しくなること請け合い。

みなさんもブログとかミクシィ日記とかを読み直してみて、内容を広げて本に出来そうな部分がないか探してみるのはいかがでしょう。もちろん編集者のハードルを越えないといけないけど、越えられなくて元々。越えられたらラッキー。最初はダメモトくらいな気持ちで。

佐藤尚之(さとなお)

佐藤尚之

佐藤尚之(さとなお)

コミュニケーション・ディレクター

(株)ツナグ代表。(株)4th代表。
復興庁復興推進参与。一般社団法人「助けあいジャパン」代表理事。
大阪芸術大学客員教授。やってみなはれ佐治敬三賞審査員。
花火師。

1961年東京生まれ。1985年(株)電通入社。コピーライター、CMプランナー、ウェブ・ディレクターを経て、コミュニケーション・デザイナーとしてキャンペーン全体を構築する仕事に従事。2011年に独立し(株)ツナグ設立。

現在は広告コミュニケーションの仕事の他に、「さとなおオープンラボ」や「さとなおリレー塾」「4th(コミュニティ)」などを主宰。講演は年100本ペース。
「スラムダンク一億冊感謝キャンペーン」でのJIAAグランプリなど受賞多数。

本名での著書に「明日の広告」(アスキー新書)、「明日のコミュニケーション」(アスキー新書)、「明日のプランニング」(講談社現代新書)。最新刊は「ファンベース」(ちくま新書)。

“さとなお”の名前で「うまひゃひゃさぬきうどん」(コスモの本、光文社文庫)、「胃袋で感じた沖縄」(コスモの本)、「沖縄やぎ地獄」(角川文庫)、「さとなおの自腹で満足」(コスモの本)、「人生ピロピロ」(角川文庫)、「沖縄上手な旅ごはん」(文藝春秋)、「極楽おいしい二泊三日」(文藝春秋)、「ジバラン」(日経BP社)などの著書がある。

東京出身。東京大森在住。横浜(保土ケ谷)、苦楽園・夙川・芦屋などにも住む。
仕事・講演・執筆などのお問い合わせは、satonao310@gmail.com まで。

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