ドゥダメル初来日公演2日日

2008年12月19日(金) 9:27:45

さて、前日の「いままで観たクラシック・コンサートの中で一番よかった」ドゥダメル指揮シモン・ボリバル・ユースだが、昨晩のコンサートはちょっとだけ残念な結果だった。いや、さすがに素晴らしいライブだったよ。とても楽しかった。ニコニコ。でも前日のが凄すぎて、それに比較するとちょっとだけ残念ということ。

理由はふたつ。
東京国際フォーラム(ホールA)がでかすぎたこと。音が全然ダメ&一体感が出なかった。そして大御所アーチストとの協奏曲だと「ボクが望むドゥダメルの良さが出にくい」こと。

入場前から、当日券売り場に倍賞美津子が並んでいたり、小澤征爾の姿が見えたり、もう心がウキウキ浮き立って仕方がなかった。
でも、会場に入るとあまりの巨大さに唖然。いや、過去に数回ここでライブは観ている。のだめコンサートとかピンクレディ復活ライブとか。でも、前日の東京芸術劇場の親密で一体感ある空間とあまりに違うのであらためてビックリした。不安がよぎる。ドゥダメルは一体感が命なのに…。

会場はすいていた。7割の入り。後ろの方は空席が目立った。5000席の巨大な箱だもんなぁ。とはいえユース・オケのためにも満席にしてやりたかったなぁ。
まぁポジに考えれば、ステージも巨大なので、オケも超巨大編成に出来ること。200人弱いたんじゃないか。1曲目のベートーベンはコンパクトだったが、マーラーはこれでもかの超巨大編成。ただ、その超巨大編成が必死に音をかき鳴らしても前日みたいに音圧が襲ってこない。音が拡散&霧散していく。マーラーの1番の終楽章はさすがの迫力だったが…。あぁこれを2000席の東京芸術劇場で聴きたかった。音の壁がカラダ全体にぶち当たってきて、マーラーなんか震えるくらい感動しただろうに…。

というか、世紀の来日コンサートの会場にここを選んだのは誰だ? 貴重な時間がぶちこわし。ほとんど罪。

1曲目のベートーベン「ピアノ、ヴァイオリンとチェロのための三重協奏曲」は端正な演奏。
大好きな大御所アルゲリッチは軽く流した感じ。弦のカプソン兄弟はフレッシュで良い。ドゥダメルはその脇役にまわり、正確に支えた。前日は第二ヴァイオリンの前に座っていたのでよく聞こえなかったが、第一ヴァイオリンの美しい音が際だっていた。よく揃っているしよく歌う。前日目立っていたコンマスが今日もよい。彼のリーダーシップがとても機能しているのが感じられる。

一曲目が終わっても、前日みたいなスタンディング・オベーションは出ず。いや、マエストロ小澤征爾がひとりでスタンディングしていたか。でも前日のような熱狂はない。選曲もあるが(前日はとても盛り上がる曲だった)、やはりドゥダメルもオケもアルゲリッチのバックに回った、という印象。まぁアルゲリッチみたいな巨匠とやるのは彼らとしても貴重な経験だっただろうからいいんだけど。でもアルゲリッチ好きのボクでも「アルゲリッチよりキミたち単独の演奏が聴きたいよ!」と思ったくらいだからなぁ。

1曲目の終楽章のラストを数分アンコールでやってくれて、アルゲリッチたちが下がり、休憩。

2曲目はマーラーの交響曲第1番「巨人」。
ほとんど暗記している曲なのでいろんな楽しみ方を出来たが、前日聴いた印象と同じ印象を今日も持った。細部まで構成が見える。楽譜が見えてくるような解像度なのである。これ、他のコンサートでついぞ感じたことのない印象なのだけど、なんなんだろうか。もちろんドゥダメルとシモン・ボリバル・ユースは猛烈に激しい演奏をしているのだが、全体がごちゃごちゃにならず各パートがすぅっと耳に入ってくる。クリアな解像度と遠近感。これがドゥダメルの天才たる所以なのだろう。

前日はチャイコフスキーで熱狂したが、今日は席が後方だったこともあり、ずいぶん客観的に聴いた。
ドゥダメルのマーラーは緩急の付け方がわりとユニーク。グググと溜めてパッと消費する。まずサビありき、な構成と感じた。サビで歌い上げるために序章やピアニシモをロマンチックに磨き上げている印象。

昨日「カラヤン以来」と書いて「カラヤンかなぁ、むしろクライバー的じゃない?」と疑問のメールもいただいたが、なんというか、カラヤンって「美しければそれでいい」という部分があると思うけど、ドゥダメルには「歌えればそれでいい」という感じがあって、そういう方向付けのハッキリした感じが少しカラヤン的だと思うのですよね。時代を反映して屹立するという意味でも。そういう意味ではカラヤンと同じようにアンチも増えるかもしれない。
クライバーは確かに近いけど、「歌う」は彼の技の一部分。目的ではない感じ。ドゥダメルは「いかに歌うか。歌うためにどう構成するか」を目的化している気が(いまのところ)する。CD数枚、コンサート2回から受ける印象だけど。そしてボクは彼のそういう部分が好き。喜びの歌。彼のそれを聴きたい。

終楽章はかなり盛り上がった。うねり、絶叫し、疾走する。観客も熱狂し、前日のような大歓声&スタンディング・オベーションとなった。ただ、前日の大熱狂よりは弱いかな…。とはいえ前日を知らない人は「こんなに盛り上がるクラシック・コンサートがあるんだ!」と驚いたと思うけど。

アンコールは「マンボ」のみ。ありゃ、2曲やらないのか。あ、もう9時半だからか。と、少し残念。ヒナステラの「マランボ」が大好きになっているボクとしては物足りず。
でも、一度舞台が暗転し、団員が全員ベネズエラ国旗カラーのジャンパーに着替えて演奏したのは良かった。演奏後はそのジャンパーを全員脱いで客席に投げるパフォーマンス。良いねぇ。今日だけで数千人のベネズエラ・ファンが生まれたと思う。

いずれにしても、前日の東京芸術劇場での2時間半がいかに「マジック」だったかよくわかった。それもこれもたぶん箱のせい。広島公演は昨日と同じBプロらしいが、小さい会場だったらいいな。あのマーラー、小さい会場で聴いたらきっと泣く。

あぁ。でも。それにしても。
ドゥダメルの初来日公演、2日とも行けて本当に良かった。たぶんこれから一生聴いていく指揮者だと思う。まだ27歳の彼がこれからどう成長して行くのか、リアルタイムで追えるシアワセよ(長生きしなくちゃ)。そして(特に初日の)歴史的ステージを体験できたシアワセ。ボリショイ・バレエに続く年末の大きな贈り物。ちゃんと受け取って活かせるかどうかは自分次第。

佐藤尚之(さとなお)

佐藤尚之

佐藤尚之(さとなお)

コミュニケーション・ディレクター

(株)ツナグ代表。(株)4th代表。
復興庁復興推進参与。一般社団法人「助けあいジャパン」代表理事。
大阪芸術大学客員教授。やってみなはれ佐治敬三賞審査員。
花火師。

1961年東京生まれ。1985年(株)電通入社。コピーライター、CMプランナー、ウェブ・ディレクターを経て、コミュニケーション・デザイナーとしてキャンペーン全体を構築する仕事に従事。2011年に独立し(株)ツナグ設立。

現在は広告コミュニケーションの仕事の他に、「さとなおオープンラボ」や「さとなおリレー塾」「4th(コミュニティ)」などを主宰。講演は年100本ペース。
「スラムダンク一億冊感謝キャンペーン」でのJIAAグランプリなど受賞多数。

本名での著書に「明日の広告」(アスキー新書)、「明日のコミュニケーション」(アスキー新書)、「明日のプランニング」(講談社現代新書)。最新刊は「ファンベース」(ちくま新書)。

“さとなお”の名前で「うまひゃひゃさぬきうどん」(コスモの本、光文社文庫)、「胃袋で感じた沖縄」(コスモの本)、「沖縄やぎ地獄」(角川文庫)、「さとなおの自腹で満足」(コスモの本)、「人生ピロピロ」(角川文庫)、「沖縄上手な旅ごはん」(文藝春秋)、「極楽おいしい二泊三日」(文藝春秋)、「ジバラン」(日経BP社)などの著書がある。

東京出身。東京大森在住。横浜(保土ケ谷)、苦楽園・夙川・芦屋などにも住む。
仕事・講演・執筆などのお問い合わせは、satonao310@gmail.com まで。

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