グスターボ・ドゥダメル指揮シモン・ボリバル・ユース・オケ初来日公演 初日

2008年12月18日(木) 7:51:56

昨晩、ボクは天才を目撃した。

グスターボ・ドゥダメル。

この人、21世紀を代表するマエストロになるのは間違いない。カラヤン以来の存在になるかもしれない。

というか、開いた口がふさがらなかった。
チャイコフスキー第5番。なんだこれ。え? これなに? こんなに熱くてエキサイティングで明るくて、でも繊細で正確で求心力のあるチャイコフスキー、一度も聴いたことがない。うねり、叫び、疾走する。なによりも聴いていて(見ていて)楽しい。
演奏後、口をぽかんと開けたまま、知らぬうちにスタンディング・オベーション。これほど自然かつ無意識にスタンディングしたのは生まれて初めてだ。

会場のほとんどがスタンディング。まるで欧米かのような歓声とブラボー。こんなクラシック・コンサート、観たことも聴いたこともない。コンサートというより「ライブ」である。
オケは10代20代による巨大編成なのだけど、それを見事にまとめきって一音たりとも置き去りにしない。すべてが有機的につながって、まるで楽譜が見えるかのよう。こういう経験も初めて。1曲目にやったラヴェル「バレエ『ダフニスとクロエ』第二組曲」の豊かなピアニシモ。2曲目にやったカステジャーノス「パカイグリグアの聖なる十字架」の陽気なフォルテ。両方とも初めて聴いた曲なのに、もっとずっと聴いていたいと思った。たいていクラシックで初めての曲だと退屈というか眠い瞬間があるものだが、それが一秒もなかった。

んー、もう他のクラシック・コンサートを観られなくなってしまうよ…。


グスターボ・ドゥダメル指揮シモン・ボリバル・ユース・オーケストラ・オブ・ベネズエラの初来日「ライブ」は、君が代とベネズエラ国歌で始まった。
いきなりオケが立ち上がって演奏し始めるから何かと思ったら国歌を2曲。そして1曲目のラヴェルに移る。
これが絶品。まぁ巨大編成ということもあるのだが、まず音圧がスゴイ。その分厚い迫力。でも鈍重さは微塵もなく、軽快に駆け抜ける。駆け抜けているのに細部がよく聞こえてくる。こんなに大勢のオケなのにきちんと正確に揃っているのだ。揃った上での熱い表現。レベル高すぎ。ビックリした。よくここまでまとめたなぁ。金管木管とバイオリンのバランスが絶妙。ドゥダメルのリーダーシップの非凡さだ。なんというか、もう、ちびりそうだった。顔が自然と笑っていた。

席は前から二列目。舞台に向かって右の隅の方。オケを聴くには決していい席ではないが、ドゥダメルの指揮している顔を横からずっと見ていられるという意味ではとてもいい席。だって表情の豊かさがすごいのだ。表情で団員を乗せ、オケの一体感を作ってしまう。気持ちが団員に乗り移っていくのが見える。オケと非常に近い席だったこともあり、オケ目線で指揮者を見られたのも大きかった。もうね、ドゥダメルに団員が惚れてるわけですよ。その気持ちがよくわかる。オケの一体感は「ドゥダメルに対する一種の恋」から来ているな。

2曲目のカステジャーノス。知らないよ、この作曲家も曲も。でも、初めてなのに曲のカタチが見えてくる。なんだろう、この描写力。気持ちいいからずっと聴いていたくなる。素晴らしい質感と迫力。駆け上がり絶叫し静かに収まってまた熱狂する。フォルテが素晴らしいのは想像していたが、ピアニシモも抜群によい。滑らかでクリアで繊細。本当にユース・オケなのか。
もうこの2曲目が終わった時点でスタンディング・オベーションが止まらない。誰もこんなクラシック、生で聴いたことがないからだ。

休憩を挟んで3曲目「チャイコフスキー交響曲第5番」。
こんなのチャイコじゃない、と批判する人もいるかもしれない。ラテンすぎる、楽しすぎる、とかね。でもね、これはもう天才の技。ここまでうねり、絶叫し、疾走するチャイコを誰が作れる? しかも尋常ではない説得力。説き伏せられてしまった感じ。
序盤は品良くスローペースだったのだが、終楽章あたりから疾走&絶叫し始め、ボクはずっと口開きっぱなし。崩された。何か「古いもの」が自分の中で壊れた。ガガゴゴドビシュー。
コンマス(存在感抜群)とか笑いながら弾いているし、パーカッションたちも飛び上がる寸前。バイオリンも踊る寸前。こんなチャイコあるか? サビになるとオケ全体が揺れる。すごい音圧。音の津波を全身で浴びる。そしてまたドゥダメルの指揮ぶりの熱さ・楽しさはどうだ。跳ぶ、叩きつける、拳が天を差す。熱い感情を楽団員すべてに乗り移らせようとしているイタコのようであった。

日本ではついぞ聞いたことないレベルの拍手と歓声に包まれる。観客大興奮。
ドゥダメルはカーテンコールに出てくるたびに演奏者を数人立たせて褒め称える。12歳から26歳までの団員は照れくさそうに立ち上がる(このオケの尊い意味はこちらで書いた)。そこにまたすごい拍手と歓声とブラボー。ここは本当に日本? この人たちは本当に日本人?

そして。アンコール。
やるかもなぁとは思っていたが、ドゥダメルを知ったキッカケにもなった「マンボ」、そして「マランボ」の2曲をやってくれた。もう完全に暗記していたのでうれしすぎ。どちらもYouTubeにリンクしておいたので見て欲しい。この映像よりも実際はすごかった。生だとこの映像に音の厚さと団員の笑顔がつく。コントラバスは回るしバスーンは空を差す。空手のポーズも出る。マランボなんか、楽団員が好き勝手踊りまくる。勝手にステージ前方まで出てきて弾く弾く。

客は誰も帰らない。拍手が鳴りやまない。
ほぼ全員笑いながら手を叩いている。こんな楽しいクラシックは生まれて初めて。
ドゥダメルはいったい何度呼ばれて出てきたか。何度も何度も出てきて、ついに最後の最後、オケたちもさすがに全員ステージから引っ込んだのだが、ステージが空になっても客は帰らない。拍手も鳴りやまない。オケが引っ込んだのに拍手がやまないのは初めての経験。そしてまたドゥダメルがひとりで出てくる。それに釣られて、もう帰り支度してコートを着込んだ団員までステージに出てきたり(笑)。


昨晩、東京芸術劇場にいた人といなかった人。
人類はこのふたつに分かれるのではないか、と、そんなオーバーなことを思いつつ、帰宅。個人的にはこれは「事件」だ。いままで見た(聴いた)コンサートの中で一番良かった。

※NHKが収録していたので、いつか放映すると思う。偉い! NHK!
※※ちなみに今晩のチケット、まだあるみたい。アルゲリッチとドゥダメル。見逃すと人生の損。

佐藤尚之(さとなお)

佐藤尚之

佐藤尚之(さとなお)

コミュニケーション・ディレクター
(株)ツナグ代表。(株)4th代表。独立行政法人「国際交流基金」理事。復興庁政策参与。公益社団法人「助けあいジャパン」代表理事。
大阪芸術大学客員教授。東京大学大学院非常勤講師。上智大学非常勤講師。
朝日広告賞審査員。やってみなはれ佐治敬三賞審査員。
1961年東京生まれ。1985年(株)電通入社。コピーライター、CMプランナー、ウェブ・ディレクターを経て、コミュニケーション・デザイナーとしてキャンペーン全体を構築する仕事に従事。2011年に独立し(株)ツナグ設立。
現在は広告コミュニケーションの仕事の他に、「さとなおオープンラボ」や「さとなおリレー塾」「4th(コミュニティ)」などを主宰。講演は年100本ペース。
「スラムダンク一億冊感謝キャンペーン」でのJIAAグランプリなど受賞多数。
本名での著書に「明日の広告」「明日のコミュニケーション」(ともにアスキー新書)。「明日のプランニング」(講談社現代新書)
“さとなお”の名前で「うまひゃひゃさぬきうどん」(光文社文庫)、「沖縄やぎ地獄」(角川文庫)、「沖縄上手な旅ごはん」「極楽おいしい二泊三日」(文藝春秋)、「ジバラン」(日経BP社)などの著書がある。
花火師免許所持。
東京出身。東京在住。横浜(保土ケ谷)、苦楽園夙川芦屋などにも住む。
仕事・講演・執筆などのお問い合わせは、satonao[a]satonao.com まで(←スパムメール防止のため、@を[a]にしてあります)。

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