ボリショイ・バレエ「明るい小川」@東京文化会館

2008年12月11日(木) 9:12:06

NHK「プロフェッショナル 仕事の流儀」の中でも「新しい大役に挑む」として取り上げられていた演目「明るい小川」を観てきた。

もちろん岩田守弘さんも出演。
もちろん、って書いたけど、役を得る大変さは放映でも描かれていた通り。舞台上でたったひとりの東洋顔・東洋体型。しかも背が飛び抜けて低い。背が高いロシア人でさえも役を得るのは大変なのに、それだけ不利な状況を覆しての配役。すごいことだ。「日本公演だから役をもらえた」と思う人がいるかもしれないが、ボリショイはそんなに甘くない。「国の顔」なのだ。前回の日本公演では岩田さんは連れてきてさえもらえなかった。

放映で彼が悩む姿や必死の練習姿を見ていた演目を、放映の翌日に、生で観られるシアワセ。あぁあの振付だ!とかドキドキしながら観た。あのキスを投げる場面、練習よりずっと良くできていた。あれからも進歩しつづけたんだなぁ。会場からドッと笑いが起こる。これは贔屓とか応援とかではなく、虚を突かれて普通に笑った笑い。バレエでちゃんと笑いを取るって難しい。あれだけ高度なダンスを軽々こなしながらちゃんと笑いを取る。素晴らしいな。

弱みがちゃんと強みになっている踊り。その安定感と速さと高さ。空中滞在時間が異様に長い。ホントに38歳か? まったくすごい。目頭が熱くなる(またかよ)。
それはともかく、これ、岩田さんにとって当たり役かもしれない。とっぽくて胡散臭くて軟派なんだけど明るくて憎めない性格がよく表現できていたし、技術的な見せ所も充分。これなら40歳を越えても出られるんではないかなぁ。

終演後、楽屋を訪ねた。
今日はご両親もいたのでご挨拶をした(何度か自宅に遊びに行っているので知っている)。うれしそうだったなぁ。岩田さんが出てくる。ハグの順番待ち。ほぼ徹夜と会議だらけでフラフラの極致だったボクだが、彼とハグして固い握手した途端元気になった。出番を終えたばかりの岩田さんから溢れ出す誇りとオーラが乗り移ってくるからだろう。先ほどまでの疲れはどこへ?と不思議になる感じ。

あ、演目についての感想も短く書いておこう。

日本初演のこの演目、あまり期待しなかったんだけどとっても良かった。
第一幕から妙にコミカルな演技で「これは…はずしたかも」という感じだったんだけど、そのコミカルさに脳とカラダが馴れてくると、これが妙に気持ちよい。たわいもない喜劇なのだけど、見せ場も多く、実に可愛い。第二幕なんか、ボクの前に座った子供が大声で笑い続け。もうこっちに笑いが移るほどの大笑い。子供をこれだけ笑わせるバレエが他にあるだろうか。

しかしこの笑いもボリショイの高い技術力に底支えされているからこそ。コミカルな動きや演技を支えるダンスの素晴らしさ。圧倒的だった。マリインスキーやABTやパリオペラ座なんかの来日公演もよく観るけど、端役を含めた全体のレベルの高さに舌を巻き続けたのはボリショイだけ。特にこういう群衆ものは「熱い演技」のボリショイが群を抜いている。「踊りを見せる」の上にある「演技で伝える」ところまでちゃんと行っている(そういう方針を持っている)劇団だからだろう。

個人で言うと、ボクには超お馴染みのフィーリンがやはり良かった。この3月にボリショイを辞めちゃってダンチェンコ音楽劇場(モスクワ音楽劇場)の芸術監督になっちゃったんだけど、ゲスト・プリンシパルとして来日していたのだ。彼の出演舞台はいっぱい観てきたが、今回もとても良かったな。女装ダンスで異様に笑いを取っていた。うまいし花がある。もうボリショイでは踊らないかもなぁ。また踊って欲しい。カーテンコールでワシーリエフと肩組みながら出てきたのがなんか世代交代的で印象的だった。

ゴリャーチェワとオーシポワのふたり、とても可愛くて安定していて楽しげ。オーシポワの男装ダンスが素晴らしかった(第一幕でワシーリエフが踊ったのと同じ振付をやった)。7日の「白鳥の湖」は捻挫で休演(←岩田情報)した彼女だが、それを感じさせないダンスだった。ワシーリエフはちょい固かった。あとはシマチェフ(デブ役)が熱演。

主要キャスト:

 音楽 : ドミトリー・ショスタコーヴィッチ
 台本 : アドリアン・ピオトロフスキー/フョードル・ロプホーフ
 振付 アレクセイ・ラトマンスキー
 美術 : ボリス・メッセレル
 音楽監督 : パーヴェル・ソローキン
 指揮 : パーヴェル・クリニチェフ
 管弦楽 : ボリショイ劇場管弦楽団

 ジーナ (ピョートルの妻) : アナスタシア・ゴリャーチェワ
 ピョートル (農業技師) : イワン・ワシーリエフ
 バレリーナ : ナターリヤ・オーシポワ
 バレエ・ダンサー: セルゲイ・フィーリン
 アコーディオン奏者 : 岩田守弘
 初老の別荘住人 : アレクセイ・ロパレーヴィチ
 その若作りの妻 : アナスタシア・ヴィノクール
 ガヴリールィチ (品質検査官) イーゴリ・シマチェフ
 ガーリャ (女学生) : クセーニヤ・プチョールキナ

若手中心のキャスティング。若手中心の舞台ってどこか熱くていい。フィーリンも確か岩田さんと同じ38歳。このふたりがみんなを引っ張っていた印象の舞台だった。

作曲はショスタコーヴィッチだったんだなぁ。可愛い曲ばかりで意外だった。

佐藤尚之(さとなお)

佐藤尚之

佐藤尚之(さとなお)

コミュニケーション・ディレクター

(株)ツナグ代表。(株)4th代表。
復興庁復興推進参与。一般社団法人「助けあいジャパン」代表理事。
大阪芸術大学客員教授。やってみなはれ佐治敬三賞審査員。
花火師。

1961年東京生まれ。1985年(株)電通入社。コピーライター、CMプランナー、ウェブ・ディレクターを経て、コミュニケーション・デザイナーとしてキャンペーン全体を構築する仕事に従事。2011年に独立し(株)ツナグ設立。

現在は広告コミュニケーションの仕事の他に、「さとなおオープンラボ」や「さとなおリレー塾」「4th(コミュニティ)」などを主宰。講演は年100本ペース。
「スラムダンク一億冊感謝キャンペーン」でのJIAAグランプリなど受賞多数。

本名での著書に「明日の広告」(アスキー新書)、「明日のコミュニケーション」(アスキー新書)、「明日のプランニング」(講談社現代新書)。最新刊は「ファンベース」(ちくま新書)。

“さとなお”の名前で「うまひゃひゃさぬきうどん」(コスモの本、光文社文庫)、「胃袋で感じた沖縄」(コスモの本)、「沖縄やぎ地獄」(角川文庫)、「さとなおの自腹で満足」(コスモの本)、「人生ピロピロ」(角川文庫)、「沖縄上手な旅ごはん」(文藝春秋)、「極楽おいしい二泊三日」(文藝春秋)、「ジバラン」(日経BP社)などの著書がある。

東京出身。東京大森在住。横浜(保土ケ谷)、苦楽園・夙川・芦屋などにも住む。
仕事・講演・執筆などのお問い合わせは、satonao310@gmail.com まで。

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