お金のお話

2008年8月19日(火) 9:25:43

ここのところ知り合いから立て続けに副収入関係でうらやましがられたので、いい機会なので誤解を解いておきたい。お金のことを書くのってイヤだし、書き方によっては批判を受けるのだけど、あまりに誤解が多いので。

よく訊かれるのは本の印税。
これは何度か説明しているが、定価の10%がボクの収入となる。「明日の広告」は743円だから、誰かが1冊買ってくださったら74.3円がボクに入る計算となるわけだ。本屋の書棚でたまたま巡り会い、たまたま手にとって、意を決してレジに行ってくださる、という確率的に異様に少ないことが起こって、初めて74.3円が入るのだ(この辺の心情は昔こちらに書いた)。

本というのは1万部売れたらヒットである。10万部なら場外ホームラン。100万部は人気作家でも一生に一回あるかないかのミラクルだ。たとえば1万部で計算すると74万3千円がボクに入る計算。「明日の広告」はその数倍は売れているが、10万部にはもうちょっと届いていない。たとえ10万部売れたとしても743万円にしかならない。

しかならない、と書くと反発を受けそうだが、10万部というのは普通のライターにとって人生にそんなにはない場外ホームランだということを思い出して欲しい。毎回このくらい売れれば喰えるが、人生で数度、ようやくこの程度の収入が入るのではとても「印税で喰っていく」のは無理だということがわかると思う。「夢の印税生活!」と、知らない人は必ず揶揄してくるのだが、とんでもないことでございますよ。世に本の印税だけで食べて行けている人なんて数十人しかいないだろう。

もちろんボクは本業のサラリーマンがあるから印税は副収入となり、いろいろ助かる。でも、3ヶ月くらい毎晩毎週末しこしこ頑張って、自分の20年分の広告経験をすべてぶちこんででの収入としては決して見合うものではない。え? それでも収入入るだけマシじゃんって? それはそう。でもアナタも書いてごらん。異様に大変な地獄の作業だから。お金儲けだけ考えるなら別の方法の方がいい。全く見合わない世界なのです。

次に講演料もよく訊かれる。
ある友人に「1回100万円とかもらえるの?」と言われて呆然とした。そんな風に思われているのか! 確かに有名タレントや文化人の中には1回数百万もらえる人がいるだろう。でもボク程度の人間の、しかも専門分野の講演なんて数万円ですよ、数万円。二桁違いますって。2時間しゃべりまくって1万円ってなこともよくある。来月、ある地方にヒコーキ乗って講演に行くが、これなど講演料は0円。ホテル代とヒコーキ代出すから是非是非来てくれ、と若い人たちに頼まれて出かけるボランティアだ。

だから、ここ半年、立て続けに講演をしてますが、こんだけ予習して、仕事の合間を縫って駆けつけて、こっちが得たノウハウや教訓を出し惜しみなく提供して、「え、この程度?」って程度の収入ですよ。半年分を足し算しても数十万。軽自動車も買えない程度の収入。それに費やした経験と時間を思えば、決して見合うものではないのです。いままで育ててくれた業界への恩返し的な考えでなんとか続けていっているだけ。

ついでだから連載料も。
10年前、超超無名だったころは数千円でした。雑誌1ページとか書いて数千円。マクドナルドのバイトの方がずっとずっと効率的です。最近はちょっとは上がったですけど、それでも数万もらえるかどうか。それにかける時間には全く見合わないものです。原稿ライティングだけで食べていくなんて相当奇跡だ。
おまけに(特に単発原稿では)出版界の悪習として書く前に報酬が提示されない。苦労して書き終わって入稿してようやく「○○円を振り込みますので口座番号を教えてください」というメールを受け取り、報酬がわかるという仕組み。ライター専業の人なんかやってられないと思う。収入わからず仕事するって異様に不安なものなのです。ホント悪習だ。

でもね、もっとスゴイのが非常勤講師料。
大学とかの非常勤になるとするでしょ。いくつかオファーがあって受けてからビックリしたんだけど、半期(要するに半年)1コースの非常勤講師料っていくらだと思います? 5万円行かないんですよ? いいですか、講義1回分ではなくて、半年分で、ですよ。毎週毎週半年教えて、全部でたったの数万円。交通費になるかならないか。こんなの正当な報酬じゃない。教えさせてやっている、に近い発想。バイト代以下だよなぁ。教えるに至る努力や知識や経験もまったく無視。いやぁ下には下があるなぁ、と驚きまくった次第。

とにかく、出版や雑誌や大学ってそれぞれみんな不況で悩んでいらっしゃるけど「そんな報酬で優秀な人が集まるわけない」という根本的なところから考えなおすべきだと思う。優秀な書き手や講師が集まらないから、どんどん内容がつまらなくなり、読者や学生から見放されるという負のスパイラルに陥っている。

お金のあるところに優秀な人は集まる。
まずコンテンツ・メイカーを優遇して報酬を増やすこと。それが業界不況脱出の一番優先すべきことだとボクは思うなぁ。ライターで高収入が得られる、となったら、優秀な人がその世界に入ってきて競争しだす。そうすればコンテンツは加速度的に面白くなっていく。他業界からも人材が流入してくる。でまた競争が起こって…、と、そういう正のスパイラルにならないと不況なんか脱せないと思う。

佐藤尚之(さとなお)

佐藤尚之

佐藤尚之(さとなお)

コミュニケーション・ディレクター

(株)ツナグ代表。(株)4th代表。
復興庁復興推進参与。一般社団法人「助けあいジャパン」代表理事。
大阪芸術大学客員教授。やってみなはれ佐治敬三賞審査員。
花火師。

1961年東京生まれ。1985年(株)電通入社。コピーライター、CMプランナー、ウェブ・ディレクターを経て、コミュニケーション・デザイナーとしてキャンペーン全体を構築する仕事に従事。2011年に独立し(株)ツナグ設立。

現在は広告コミュニケーションの仕事の他に、「さとなおオープンラボ」や「さとなおリレー塾」「4th(コミュニティ)」などを主宰。講演は年100本ペース。
「スラムダンク一億冊感謝キャンペーン」でのJIAAグランプリなど受賞多数。

本名での著書に「明日の広告」(アスキー新書)、「明日のコミュニケーション」(アスキー新書)、「明日のプランニング」(講談社現代新書)。最新刊は「ファンベース」(ちくま新書)。

“さとなお”の名前で「うまひゃひゃさぬきうどん」(コスモの本、光文社文庫)、「胃袋で感じた沖縄」(コスモの本)、「沖縄やぎ地獄」(角川文庫)、「さとなおの自腹で満足」(コスモの本)、「人生ピロピロ」(角川文庫)、「沖縄上手な旅ごはん」(文藝春秋)、「極楽おいしい二泊三日」(文藝春秋)、「ジバラン」(日経BP社)などの著書がある。

東京出身。東京大森在住。横浜(保土ケ谷)、苦楽園・夙川・芦屋などにも住む。
仕事・講演・執筆などのお問い合わせは、satonao310@gmail.com まで。

アーカイブ

同カテゴリーの他記事