北方謙三著「楊家将」
2008年5月17日(土) 10:17:34
読み始めから「惚れざるを得ない男たち」をズラリと濃密に描いて、主人公たちにしっかり胸をときめかされ、もう彼らは永遠の命を生きるのだと信じるくらいの強さに痺れまくらされる。中盤には必ず敵役が出てくるのだがこれも敵役側から緻密に描いてきっちり惚れさせられる。それはもう見事な描写。
で、おもむろに「イヤな予感」が行間から立ち上り出す。誰かが死ぬ。まさか…。いや、でも、死ぬはずのない男が死ぬのだ。きっと死ぬのだ。そんなの絶対読みたくない。惚れた男の死など見たくない。
そうして読み進めるのがイヤになる。ガッデム北方謙三!
この「中盤でおもむろにイヤな予感が行間から立ち上り出す感じ」が北方謙三の真骨頂だと個人的には思っている(あとは出だしの一行)。主人公と敵を視点を変えつつ描き分け、脇役にも命を与え、それらを複層的に構成していく筆力。この複層的な大きな流れの中で、読者にイヤな予感を少しずつ与えていく。直接的な表現はない。ただただ構成で感じさせていくのだ。その辺、舌を巻く。
物語はそれぞれの視点で快調に進む。文体も特には変わらない。でも行間から立ち上るのだ。むあ〜っとイヤ〜なムードが。ヤだなぁ。主人公に惚れさせたあげくに壮絶な死を描く名人は他にもいるが、とらえどころのないイヤ〜な感じで読者の心を見事に染めてしまう作家は他にあまり知らない。
「水滸伝」に至っては、そのあまりの「イヤな予感」に途中で読むのを止めている(笑)
もう誰一人死んで欲しくないのだ。その魅力的な登場人物たち誰一人。楊志ひとりの死でいっぱいいっぱい。それなのにイヤ〜なムードが行間に立ち上り始めており、とてもじゃないけど前に進めない。ボクが読み進めない限り彼らは死なないのだ。それでいいやもう。ほとんど封印。
この「楊家将」(北方謙三著/上下巻/PHP文庫) も下巻途中から前に進めなくなった。でも昨晩無理矢理最後まで読んだ。素晴らしいラストだが、嗚呼でもこんなラストなど読みたくなかったよ。彼らには永遠の命を持って欲しかった…。
ということで、傑作です。
続編は「血涙 --新楊家将」。題名がイヤすぎる。絶対つらい思いをする。読むのどうしようかな。んーでも読まざるを得ないな。でもつらいんだろうな…。
北方謙三の本は本当にイヤだ(笑)

