「鮨 水谷」の極上
2006年11月29日(水) 8:43:26
「あれ? 大阪かどっかに転勤したのかと思ってたよ」
と開口一番に言われつつ「鮨 水谷」。水谷さんにそんな皮肉言われるくらいは間が空いた。ていうか、年一回来れるか来れないかっていうお値段だから仕方ないんです。銀座のこの店にコンスタントに通うのは(自分の中では)10年早い。
それにしてもうまかった。凄みすらあった。
銀座に開店してしばらく、多少酢飯に塩がきつすぎる時があったのだが、昨晩はそんなこと微塵も感じさせない安定感抜群の美味。ここまで高レベルで安定していると客って別の意味でくつろぎきるのね。もう真の意味での「おまかせ」になり、身も心も預けてしまっちゃう。四の五の考えず心をすべてオープンにしてまかせきる1時間。極上だった。
ぐっと柔らかく歯の侵入を許しつつ、最後に「やっぱりいや…」と静かに抵抗を試みる煮アワビ。その抵抗時にふんわりと芳香を放出する。あぁこれ。しとやかなのに奥の方から気の強さが立ち上がってくるこの感じ。歯を入れたままずっとじっとしていたくなる。
日本一のまぐろを握る彼に「今日のは、まぐろよりうまいんじゃないかと思う」と勧められた松輪の鯖。うわ。なんだこれ。これ以上脂が乗ると品がない、というギリギリのギリ。ラインのすぐ向こうに見える「下品」という文字を見ながら食べる、強烈に「上品」な握り。なんだかベルモットの瓶を横目で睨みながらジンを飲んだチャーチルを思い出すような。
世界中すべてのパティシエに食べさせて感想を聞きたい煮穴子。最近では煮穴子がうまい店も増えたが、わざとらしく柔らかかったり、どうしようもなく甘かったりする。水谷さんのはわざとらしさが微塵もない。舌の上に載せて上顎にぐぅっと押しつけてつぶすときのこの快感。なんだろうなぁ…。このバランスに辿り着くまでの長い年月を想ってしまうような穴子。特有のねっとり系の酢飯だからこそのバランスだ。無二。
いつかいい大人になった娘を連れてきて、背筋を伸ばして対峙させたい玉子。毎日食べているありふれた食材がちょっと手を入れて焼くだけでどうしてここまで輝くのか。人生の秘密がここにそのまんま入っている。心して食べられよ。
「あんまり間をあけないようにね」と釘をさされて店を出る。ひと月数千円ずつ水谷貯金しなくちゃね。
それにしても、うーん、家族を連れてくるとするとちょっとした旅行くらいはお金がかかるなぁ。でもたった1時間強とはいえ、そこらの温泉に行くよりずっと濃縮された時間がここにはある。うん、やっぱ連れてこよう。とはいえハタチそこそこで娘を連れてくるのは贅沢すぎる。せめて30歳くらいになって、多少の味覚とお金の価値を知ってから連れてきたい。いま娘が11歳だから…。うぅ。水谷さん、あと20年はやっていてくださいね。無理?
