Gファイル―長嶋茂雄と黒衣の参謀

2006年11月23日(木) 9:24:21

TVで会見する日ハムの小笠原道大選手に向かって「よりによって巨人に行くな〜!」と叫んでしまうのは、今年になって妙に北海道と縁が深くなったからだけではない。このところの巨人に嫌気がさしているからでもない。どうせなら阪神に来て〜というファン心理でもない。この「Gファイル―長嶋茂雄と黒衣の参謀」(武田頼政著/文藝春秋/1905円)を読んだからである。まぁどのチームに行っても実はそんなに変わらないのかもしれないが、読売ジャイアンツという巨大泥船にわざわざ選んで乗り込むことはない。このチームはどうやっても変わらない。変われない。いったん浮かび上がるかもしれないが、また必ず沈んでゆく。この本に書かれていることが本当ならば。

この本は、アメリカ仕込みの最新スポーツ理論をもとに(ちょっと「マネー・ボール」を思い出した)、長嶋巨人のメークミラクルを長嶋茂雄の陰の参謀として完璧に演出した、河田弘道という人間のノンフィクションである。彼が「誰にも知られていない長嶋茂雄の陰の参謀」として在職した期間(94〜97年)に実際に長嶋監督(当時)に指示・提供した5000ページにも及ぶ膨大な「G FILE」を元に書き起こした労作だ。

長嶋茂雄の快活・苦悩・成功の裏側・実像、 選手・他チーム監督達の素顔、 優勝の裏側・確執・ドタバタ、 選手トレードの暗闇、 読売ジャイアンツという伏魔殿の裏の裏、 今後も変われないであろう組織の疲弊と老害、などを粘っこい筆致で活写している。というか、読み終わってまず感じたのは、日本の組織のどうしようもない閉塞感みたいなもの。結局改革に挫折していく河田弘道の絶望感がもう少し濃く描かれていれば、もっと普遍的なテーマになっていたかもしれない。

長嶋ファンは一読ちょっと呆然とするだろう。でもボクは彼が「常勝軍団として勝ちにこだわる監督」から「日本中で愛される長嶋茂雄」を演ずる方に方向転換&妥協したことを責められない。家族よりも自分を取ったことも責められない。天性の性格、しがみつき、義理など、いろんな要素があるとは思うが、あえてその役目を負った部分もあると思うのだ。それはそれで立派なことである。日本は彼の笑顔でずいぶん救われても来たし。

勝つための冷徹なサイエンティストとしての河田と、娯楽&人気商売&自分を優先したエンターティナーとしての長嶋。彼らふたりが完璧な二人三脚で歩いていたこと自体が奇跡であり、その後の決別は必然だったのだろうと思う。ま、そこに渡邉恒雄氏が絡んでくるので大変複雑な様相を呈すのだが。

個人的にはPNFという最新スポーツ医科学(手技)が興味深かった。PNFを受けた日の松井秀喜は実に7割の打率を残したという。いまもアメリカで受けているかなぁ…。

佐藤尚之(さとなお)

佐藤尚之

佐藤尚之(さとなお)

コミュニケーション・ディレクター

(株)ツナグ代表。(株)4th代表。
復興庁復興推進参与。一般社団法人「助けあいジャパン」代表理事。
大阪芸術大学客員教授。やってみなはれ佐治敬三賞審査員。
花火師。

1961年東京生まれ。1985年(株)電通入社。コピーライター、CMプランナー、ウェブ・ディレクターを経て、コミュニケーション・デザイナーとしてキャンペーン全体を構築する仕事に従事。2011年に独立し(株)ツナグ設立。

現在は広告コミュニケーションの仕事の他に、「さとなおオープンラボ」や「さとなおリレー塾」「4th(コミュニティ)」などを主宰。講演は年100本ペース。
「スラムダンク一億冊感謝キャンペーン」でのJIAAグランプリなど受賞多数。

本名での著書に「明日の広告」(アスキー新書)、「明日のコミュニケーション」(アスキー新書)、「明日のプランニング」(講談社現代新書)。最新刊は「ファンベース」(ちくま新書)。

“さとなお”の名前で「うまひゃひゃさぬきうどん」(コスモの本、光文社文庫)、「胃袋で感じた沖縄」(コスモの本)、「沖縄やぎ地獄」(角川文庫)、「さとなおの自腹で満足」(コスモの本)、「人生ピロピロ」(角川文庫)、「沖縄上手な旅ごはん」(文藝春秋)、「極楽おいしい二泊三日」(文藝春秋)、「ジバラン」(日経BP社)などの著書がある。

東京出身。東京大森在住。横浜(保土ケ谷)、苦楽園・夙川・芦屋などにも住む。
仕事・講演・執筆などのお問い合わせは、satonao310@gmail.com まで。

アーカイブ

同カテゴリーの他記事