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すばの細道(2)独特すぎるその食感

「とにかく最初にあなたの絶賛している店に連れて行って」

「え? まぁまず普通の店に行った方が比較できていいよ」
「いや。まずそこに連れて行って!」
「……ひょっとして好きなものから先に食べるタイプだったっけ?」


首里そばボクは好きなものを最後にとっておくタイプだから、先に食べる人のことがいまいち理解できない。でもあまりに彼女が強硬に言うものだから、とにかくその店に連れて行くことにした。

その店の名は「首里そば」である。

結局全部で41軒、再訪した店を含めるとのべ50軒強の沖縄そば屋に行った我々であるが、最後まで極私的ランキングのトップにいたのはこの店である。

あ、意味がないことでもないと思うから、一応ここで書いておこうかな、行った店。
大衆食堂系で食べたすばについては店名を失念したのもあるし、沖縄そば専門店以外も含まれているけど、とりあえず。


●那覇  「牧志第一公設市場二階」「花笠食堂」「丸安そば」「むつみ橋かどや」
     「Su Bar」「どらえもん」「ゆうなんぎい」「だるまそば」「那覇そば」
     「うるくそば」「若狭パーラー」「天龍」「あじゃず」「やまさき」
     「てんtoてん」「月桃」
●首里  「首里そば」「御殿山」「潭亭」
●浦添  「ゆーじ小」「公園前」「てだこ」

●北谷  「浜屋そば」
●恩納  「恩納そば」「なかむらそば」
●コザ  「宮古そば愛」「しまぶく」「だるま」「アワセそば」「麺処幸」
●名護  「宮里そば」「新山そば」「我部祖河食堂」「丸隆そば」
●本部  「山原そば」「岸本食堂」
●今帰仁 「まんてん」
●与那原 「与那原そば」
●南部  「ひらら」「あらぐしくすば」「くぅんなとぅ」


うーん、本島全体、わりとよく行ったよなー。

1日の最高は7軒だったかな。

確かにボクたち家族は1日11軒ものさぬきうどんをハシゴしたこともある。それに比べると7軒というのもたいしたことに思えないかもしれない。でも沖縄の店はなにしろ量が多いのだ。だからさぬきうどんのようにはずんずんハシゴ出来ないのである(普通の人はしないって)。

とにかくその中でダントツは「首里そば」。

この店の麺に関してだけ言えば「沖縄そばは世界でもトップクラスの麺類」なのだ。

ラーメンや日本蕎麦やスパゲッティなどと比べてもまるで遜色ないどころか、勝っている。

あ、さぬきうどんと比べてしまうと不憫なのだが(だって、あれは別格だもの)、それでも「もし」このレベルの麺が沖縄のそこら中で食べられるのなら、全体力としてかなり迫っていたのではないだろうか。そのくらいはうまい。

昔、「さくや屋」っていうカメラ屋さんみたいな名前の『幻の名店』が首里にあったらしい。
ボクはそこのすばを食べていないのが実に悔しいのだが、その店は当時としては本部の「岸本食堂」と並んでただ2店だけ、伝統の打ち方を継承していた店らしいのである。

で、この「首里そば」、その「さくら屋」直伝の技らしい。

1993年に老齢のために店を閉めた「さくら屋」のおばぁちゃんの打ち方をしっかり継承しているという噂なのである。

「いいから早く行きましょ!」

ということで。
食欲満開になっている優子に引きずられて、まずは行くべし、首里そばへ!




「あら、わりとオシャレな店じゃない」
「ギャラリーを改造しているみたいだな」

那覇から29号線をまっすぐ行くと首里の竜潭通りに自然に入る。ずぅっと行くと左側にJAがあるから、その正面の小道を右に入って100メートルも行くと右側に「ギャラリーしろま」という看板がある。そこが「首里そば」だ。

ギャラリーだけあって、それなりにオシャレ。靴をぬいで上がるからか、あまりお店という感じがしない店内。つめこんだら30人くらいは入るかな、という程度の広さである。

「いらっしゃいませー」
「えーと、首里そばの小を3つ」
「はい、少々お待ちください」

首里そばの小は400円。
基本は沖縄そばなのだが、こうして店の名を冠として載せている店は多い。

ここもそのパターン。
厨房の方から鰹の香りがプンとしてくる。

5分ほど待っていたら、それは来た。
麺は全体に白めでちょっと縮れがある。
見た目はうどんより少しもっさりしている。太さは7〜8ミリくらいできしめんみたいに平ら。だしはあくまで透明で、沖縄そばによく乗っている紅生姜の代わりにただの生姜が細切りして乗せてある。シンプルだ。

首里そば待望の一口。ズズズ。

「!!!!!!!!!」

「……どう、うまいだろ?」
「おいしーーーーー! こ、これは……未経験の食感だわ!」

口の中に入れると麺はゴワゴワする。うどんみたいにニュルニュルしないのだ。狭い口の中に入っても元のカタチをしっかりキープしている。形状記憶麺だ。

そして歯で噛むと最初にホニッと歯が入り、グッと力を込めるとブチッと切れる。その切れ方はアルデンテのスパゲッティみたいで、なかなか気持ちがいい。

そしてなんというか、日本蕎麦みたいなボソボソ感とうどんのモチモチ感が一体化しているのである。
 
うーん、そうだな、白くないちょっと黒っぽい日本蕎麦あるでしょ?
あの麺をぐっと太くして、ちぢれをつける。そうするとかなりボソボソした食感になると思うんだけど、それがもう少しモチモチで、しかも切れ方がスパゲッティ似のブチッなのだよ(わかるか!)。

「……これって小麦粉100%なんでしょ? うどんと一緒よね。なのになんでこんなに食感が違うの?」
「灰汁(アク)でつないでいるからかなぁ」

見た目はちょっとうどんっぽい。でもなにしろ「ゴワゴワモチモチホニホニブチッ!」なのである。塩水を使って小麦粉をつなぐうどんとの違いは、やっぱり灰汁なのではないだろうか。

とにかくこの一連の「ゴワゴワモチモチホニホニブチッ!」は他の麺では得られない食感だ。
例えばうどんなら、ぐぐっと首の皮一枚で粘る。ムニ〜〜と粘ってから切れる。でも沖縄そばは同じ小麦粉100%なのに、そういう粘りがまるでないのである。


そしてまた、だしがめちゃくちゃ洗練されている。

とんこつも脂とアクをきちんと取るとここまであっさり上品になるのか、と、びっくりするくらい洗練されて、そこにたっぷりの鰹がプ〜ン。そのうえ、生姜がとても効いている。これを食べると、他の店の沖縄そばに入っている紅生姜は、だしとのバランスがまるでなっていないということがよくわかる。

「最後の一滴まで一直線だわ」
「後引くうまさだよね」
「それと具の三枚肉が……なんでこんなにおいしいの?」
「上品に甘くて、これだけでメインディッシュになるなぁ」

だしも具もバランスがいい。
そして何より麺がすごい!
何よりも麺を重視するボクたちとしては、それが喜ばしいのである。

「……これが沖縄そばなのね」
「うん。伝統の打ち方を継承しているっていうし」
「これかぁ……こりゃあなたが騒ぐわけだわ」
「だろ? めちゃうまいだろ?」
「やっぱり灰汁かしらね、この食感のポイントは」
「そうだろうなぁ。それにしてもユニークだよなぁ。なんで木の灰なんか使うんだろうなぁ」

優子も賛同してくれたし、娘の響子も夢中で食べている。なによりすばがおいしいし、ボクはニコニコと浮かれていた。
灰汁なぁ、どこかで手に入るかなぁ、手に入ったら自分で打ってみようかなぁ、あ、木を燃やして灰をとればいいのか、いっちょやってみっか……

店のおねぇさんにお勘定をしてもらう。

「ごちそうさまー。おいしかったですぅ」
「あ、ありがとうございます」

気軽な気持ちで、聞いてみる。

「こちらでは灰汁を使用しているんですよねぇ。灰汁ってどこで……」
「あ、いい灰汁が手に入ったときは灰汁で打ちますが、普段はカンスイですよ」

「………え?」


ドドゴビシューーーー(沖縄そば観が根本から崩れ落ちる音)



だ、だ、だって沖縄そばって灰汁を使うってどのガイドブックにも書いてあるよ?

な、な、なんでここは使わないの?

伝統の打ち方を継承している店なのに、灰汁を使っていないわけ?

「いまはカンスイを使う店がほとんどなんですよ」


はぁ〜〜〜〜?

じ、じ、じゃぁ、こ、この独特の食感は、どこから来るの?
第一、カンスイって、あの、ラーメンに使うカンスイのこと?

二人して立ちつくす(響子は座っている)。

小麦粉100%にカンスイを使うってことは、むしろラーメンに近いのか?

ラーメンは基本的に小麦粉とカンスイを使って麺を作る(卵などを加える場合も多い)。
カンスイとは化学的に合成した炭酸カリウムと炭酸ナトリウムを主成分とする水だ。小麦粉+カンスイ、つまりラーメンと成分的には一緒なのだ。

ひゃぁ〜〜、でもラーメンともまるで違う食感だぜ〜〜!


いったいどういうことなのか?

あの「ゴワゴワモチモチホニホニブチッ!」な食感はいったいどこから来るのか?

いや、だいたい、沖縄そばとは何なのか?


一気に沖縄そばの闇に放り出され、途方に暮れる我々なのであった。

矢印 すばの細道(3)「灰汁 vs カンスイ」へつづく。

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