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なぜかケベック、モントリオール

この日記は「ニューヨーク日記〜97年夏、また来てしまった篇」の番外編です。

つまり、出張でニューヨークに滞在していて3日ほどフリーの日が出来た僕は、突然ケベック、そしてモントリオールに来ることになったのでした。最初はボストンに小旅行でもしようかな、って感じだったんですがとにかくホテルが取れなくて…。で、なぜかケベック、モントリオール。
これは縁のようなもので、こういう「流れに身を任せてなんとなく見知らぬ土地を訪れる」という行為は実は大好きだったりします。ケベック、モントリオールについて全く何にも全然予備知識がないのがまたイイじゃないですか!

ここに至るまでのニューヨーク日記(97年8/1〜8/5)を読みたい方はこちらへどうぞ。 ということで。

8/5(火)

さて、ニューヨークとしばしのお別れなのである。
たった4日後にはまたニューヨークに帰ってきてあと7日ばかり滞在することになるのだが、いざお別れするとなると、ケベックになんぞ行かずにもうちょっといればよかったかな、という気になる。

で、とりあえずケベックなのである。
ボストンに行くはずが、ボストンのホテルがひと部屋たりとも空いていないという異常な事態で不可能になり、かといってじゃぁニューヨークにとどまるかというのも、一度旅心がついてしまった身には酷な話で、じゃぁどうしよう、といろんな人に相談していたら「ケベックはどうでしょう?」となったわけです。
え?ケベック?ケベックねぇ……ワシントンD.C.やフィラデルフィアよりは惹かれるなぁ。その程度。
だって全然知らない。
確かフランス語が公用語だよね。大丈夫かなぁ……でもまぁこれも縁だし行ってみよっ、って感じで決めてしまったけど、本当に良かったのかぁ? ケベックだけじゃ飽きるということでケベック2泊モントリオール1泊にしたんだけど、な〜んにも予備知識なし。フランス語わからないしカナダ東部ってほとんど興味がなかったからなぁ(西海岸のバンクーバーは行ったことがあって大好きであるが)。

まぁ、繰り返すけど、これも縁。
とにかくマンハッタンに別れを告げてニューアーク空港に向かったのである。

この空港は初めて。なかなかきれいで機能的な空港だ。
待合室に入っても東洋系は僕一人。アメリカ国内線には日本人はめったに乗らないからね。前にラスベガスからサンタ・フェに行ったときもそうだった。まわりを見回してもアジア人は僕一人って状況はわりと心細いものです。

さすがにジロジロ見られることはないけど、ここまで異邦人を実感できるシチュエーションってあまりないから楽しむことにした。本も読まず孤独に浸ることにする。
民族とは何か、帰属とはなにか、存在とは何か。こういう時はわりと深く考えられる。深く、ふかく、ふ・か・く…………不覚! 寝入ってしまったではないか! およ!待合室がすいている!やばいやばい!もう少しで乗り損なってしまうところだったぜ!

北米は、実際広い。だから飛行機は完全に住民の足だ。感覚としては文字どおりエアバスだよね。バス感覚。サンタフェに行くとき乗ったアメリカンウエストなんか席すら決まっていない。どこに座ってもいいのだ。バスだよバス。
エア・カナダに乗ったのだが、席は決まっていたがまぁバスだな。だって定員36人の飛行機。乗り合いバスのノリなのだ。


15時頃ケベック空港についた。約3時間のフライトである。
北海道の中標津空港くらいの規模だ。小さい。

ニューヨークのギスギス感覚を引きずっているせいか、まず腰が砕けたのが入国審査。なんと笑顔で迎えてくれるのだ。
「よく来たね、どこから?」みたいな話から、ケベックは初めてか?そうか良いぞケベックは、日本はどこからだ?コーベ?しらないな、おーい、なんとか(と隣を呼ぶ)コーベって知っているか?…………ニューヨークのあの冷たさからたった3時間で、ホラこんなに温かい。

空港でUSドルをカナダドルに換えたときも窓口のねぇちゃんはあくまで笑顔。とにかく笑顔だけで驚いてしまうカラダになってしまっていたのだ。ニューヨークでこういう笑顔はまず見れないからね。
タクシーに乗ってもまず笑顔。礼儀も正しく「ワタシ、スコシシカ英語デキマセン。スイマセン」とまず謝ってきた。信じられない。急に肩のチカラが抜けていく。この国なら寛げる。フランス語が公用語だろうがまったく予備知識がなかろうが、この国ならこの都市なら緊張せず楽しめる。

なんか温泉につかっているみたいに、カラダがほぐれていく。
何だかんだ言っても、ニューヨークでは気が張っていたのだね。あぁ・ほ・ぐ・れ・て・い・く……


空港から旧市街(観光の中心地)まではタクシーで22カナダドル(米ドルより3割ほど安い)。20分くらいで着いた。涼しい。湿気もなく快適だ。
泊まるホテルは「Loews Le Concorde」。こっちではかなりいいホテル。うん。後悔してます。ニューヨーク感覚でお願いしてしまったのだ。
ニューヨークの8月ってハイシーズンだからホテルがみな高い。今回もあんな暗い狭い部屋なのに195ドル取られるのだ。その感覚でコーディネーターに「まぁ200ドルくらいまでね」と気軽に頼んだのだったが……すっごくいい部屋になっちまった。ここまではいらない。120ドルくらいって言えばよかった。ニューヨークのホテルは世界でも特に高いことを失念していた。

25階の角部屋でものすごく景色がいい。ほとんど最上階だ。ホテル自体のセンスはBGMがビージーズの「恋のナイトフィーバー」だったりすることで想像できると思うけど、この広さは何物にもかえがたい。ここでも気持ちがほぐれていく。やっぱりいいね、広い部屋は。
もったいないという気持ちと、でもやっぱりいいという気持ちが半々だが、とにかくまず街に出ることにする。
観光の中心の旧市街まで歩いて5分くらい。
北米で唯一の城壁都市らしいしプチパリと言われるほどの美しさを誇るらしいが(ホテルにあったパンフによる)、とりあえず旧市街は狭い。店をくまなく見ても2時間もあれば全部回れる。感覚からすれば東京ドーム1個分くらいな程度。う〜ん、狭い。だけどすっごく賑わってはいるなぁ。


運動をかねてウォーキング(まぁ単なる早足ですけど)で街を回ったので大汗をかいた。もうだいたい回ってしまった。まだ明日一日あるのに。
一度ホテルに戻ってシャワーを浴びる。シャワーの後のビール。最高。もうほぐれきっている。で、寝てしまったのでした。


起きたのが夜の20時で、腹スカスカ。すぐ食べにいく。
観光地なので店しまるのが早いのかな、と思ったがさにあらず。ほとんどのレストラン、ブティックが夜11時までやっている。夜型の街なのだ。
まず「新しい土地に来たらその土地の料理を」という独自の鉄則を貫くためにケベック料理店を足で探す(そんなものがあればだが)。イタリア料理店とフランス料理店ばかり目に付く。とにかくレストランだらけの街だ。

あった!
アッパータウンに1軒だけ見つけた。その名も「古いカナダ」というレストラン。1675年に建てられた家を使った格式のあるレストランらしい。客が行列を作っている。しばし並んでから案内係りに「One person, OK?」と聞くとちょっと嫌な顔をしつつ入れてくれた。混んでいるので嫌がられたのだろうが、そんなこと気にしていたら美味しいものにありつけない。

頼んだのは「Quebec Platter」というケベック伝統料理セットみたいなもの。ミートボールシチューにミートパイ、ポーク&ビーンズに塩漬けラードのカリカリ焼き。ウエイトレスはみなケベックの民族衣装で給仕してくれ、なかなか雰囲気だ。味はまぁ普通。思ったよりしつこくなかったのがうれしかった。ミートボールはうまかったがラードは……貧しく寒い冬を越えるための食料なのだろう。

とにかく土地のものを食べて満足した後、街を散歩する。人出がすごい。旅人も夜型にさせてしまう街なのだ。何しろ臨時イベントの仮設テントでさえ夜11時まで営業している。新宿でもそこまでいかないよね。
ホテルに戻ると25階からの夜景に驚く。人口が少ない街なのにこの夜景はどうだ。しばし夜景を見ながらビールを飲み、「リオノーラの肖像」を読みながら寝る。日本を出てから頁がちっとも進まない。まだ23時だ……

aux Auciens Canadiens

418-692-1627/34, rue Saint-Louis, Quebec

ケベック伝統料理を食べられる。古い伝統ある家をレストランに改造したらしく趣がある内装。アッパータウンのサン・ルイ通りにある。伝統料理をひと皿に盛った「Quebec Platter」(ミートボールシチューにミートパイ、ポーク&ビーンズに塩漬けラードのカリカリ焼き)とサラダかスープで量は十分。ケベック料理はフランス統治の影響をあまり感じないアメリカのそれとよく似た感じ。なんでかな。他にカリブー(となかい)料理などもある。ウエイトレスがみな民族衣装でもてなしてくれて楽しいです。

8/6(水)

9時までぐっすり寝た。幸せだ。
起きてからバスタブに熱い湯をため入浴。幸せだ。
30分つかってから裸のままだらっとメールを打ち、着替えて11時に街に出る。幸せだ。

何が幸せって、な〜んにも束縛するものがないことが幸せだ。
予定がない。丸一日途方に暮れるくらい予定がない。仕事もない上に友達も家族もいないから全く自分の好きにしていい。
親友や妻と一緒なら気楽だがそれでもやはり全然気を使わないわけではないでしょ?
何食べる?とかどこ行く?とかさ、気を使う。
でもそれもない。その上、言葉も通じない。これも思った以上に重要だ。何からも孤独な思考が邪魔されないのだ。
回りに飛び交うフランス語は単なる音楽でしかない。日本だとこうはいかない。片言がわかってしまうアメリカでもこうはいかない。新聞もテレビも周りの会話も僕を日常に呼び戻してしまう。ここではそれがない。つまりあらゆる情報からも自由だ。全くの自由。
自分の命の価値が下がったような、そんな「社会的接点のなさ」。こんな気分はじめてだ。

なにかとしがらみの多いこの人生の中で、こんな一日を過ごせることがそんなにあるだろうか……?


放浪癖(例えば檀一雄のそれ)って単なる無責任と自堕落ではないか、と僕は短絡的に考えていたが、「こういう自由を獲得すること」が放浪の最大の動機なのだろうな、といまは思う。


閑話休題。

とにかく幸せな僕は街に出て昨日は行かなかったロウワータウンに出かけた。
「シデラル」とか「知事の散歩道」とかガイドブック(街の本屋で英語のを立ち読みした)で有名なところも通ったが愚にもつかない。が、ロウワータウンはアッパーよりわくわくするものがあった。狭い分アットホームな雰囲気が漂っているのだ。

腹が減ったので良さそうなレストランを探しながら歩く。今日は「カリブー」が食べてみたくてしょうがない。そう、トナカイ。舌がうずうずする。
街中探して3軒だけ見つけた(レストランはメニューを必ず外に出している)。昨日の夜食べた郷土料理屋とロウワーにあるイマイチそうな郷土料理屋とホテルの近く、城壁の外の繁華街「グランド・アレ通り」のレストランの3つ。最後のは昨日から目を付けていた「良さそうな」レストランだったのでそこに入る。もう腹が減ってめまいがしそうだ。

わりと高級なテラスレストランで、お洒落している人が多いが食欲に目がくらんだ僕は堂々とジーンズにTシャツで入った。一人だと言うと面食らったみたいだが(そんなに独り客は珍しいのか?)気にせず「ランチメニューではなくてカリブーが食べたい」と言うと了解してくれた。うれしいなぁ。探した甲斐があったよ。
カリブーのステーキはわずかな酸味の奥に鉄分が感じられてたいへん美味しかった。シラー種のワインに良くあった。香りは蝦夷鹿に似ている。エノキダケを噛んだときに広がる淡い香りを薄く伸ばした感じ、って言ってもわからないか。香りや味の説明って難しいね。
繊維も豊富でシャクシャク歯ごたえがあるのがまたうまい。ベリーのソースも相性よく、焼き具合も抜群。このレストランは当たり。


食べ終わってセントローレンス河沿いに広がる戦場公園に行く。緑の芝が目に痛いほどの広い公園で河や対岸、そして地平線までずっと見渡せる。絶景。
河を見下ろすベンチを確保して、日光浴しながら景色を見たり本(ゴダード)を読んだり昼寝をしたり。とにかく自由気ままに4時間ほど楽しむ。19時だが、まだ太陽は燦燦と照っている。暮れる気配もない。

とにかく気持ちがいい。
ケベックは観光するにはどうということない街だ。
古い城壁都市と言ってもイギリスのコンウィやらと比べるとまだ新しいし趣も足りない。フランスの街並みと似ていると言っても本物のあの猥雑さが足りない。
つまりはここは「アメリカ人が手軽に異国情緒を楽しみに来る観光地」なのだ。NYから2時間弱でフランス気分が味わえるのだから。でも日本人にとっては中途半端だ。観光するにはね。
だが、のんびり「放浪」するにはこれほど最適な街もないかもしれない。完全な自由が確保できる。そんな自由の象徴として、僕はこの戦場公園で過ごした数時間を忘れない。身も心も解き放ってしまった。

と言いつつ、情けないのだよ。
まだまだ僕は「自由」がわかっていないのでした。
時計の針が夜19時を指しているのを見て「まだ明るいけど、そろそろゴハン食べなくちゃ」と思ってしまったのだ。まだお腹もそんなに減っていないというのに、だ。
いまや「ゴハンを食べない自由」も獲得しているのに、なんということだ! 日常から脱せよ!

(余談だが、ケベックの公園には蚊がいない。だから4時間も楽しめたのだな。蚊がいたら10分と持たなかっただろう。この辺って蚊の生息北限を越えているのか?あ、そういえばセミもいない)


花が咲き乱れる街にまた出かける。
Every Cornerと言ってもいいくらい大道音楽家がいる。人出は昼より夜の方が増えるようだ。その賑やかなこと。
ケベックは美しすぎる夏と厳しすぎる冬の両方を持つからだろうか、開放的でかつ内省的だ。そして全く関係ないが美人が多い。フランスとイギリスの混血なのだろう。すべてのレストランの入口には案内係兼客引きの美人が必ず立っている。あぁその可憐さ。詩が書けそうではないか。

たぶんブスばっかりのニューヨークから来たからだろうな。少なくともあそこの女性は「可憐」からは程遠い。

さて、ちょっと目を付けていたレストランから3軒断られた。理由は満席というだけではなさそうである。やっぱりかきいれ時の独り客は迷惑なのだ。
しょうがないから横道に入ったレストランに入る。フレンチ・イタリアン・スパニッシュなんでもござれスタイルの店が多い中、ここはフレンチで勝負しているようだ。スープとサーモンのエストラゴンソースを頼む。二回続けて肉を食べたので魚が食べたかったのだ。まぁまぁ。標準は行っているレストランだった。ほっとした。ケベック最後の夜にイヤな印象を残したくないから。


23時だというのに街はまだ眠らない。
こういう地方都市では珍しいことだ。
僕と入れ換えにレストランに客が入ってくる。繰り返すが23時だよ。フレンチレストランに23時に客が入ってくる街なのだ。僕が出た時点で約7割の入り。とにかく短い夏だ。人々は眠りたくないのかもしれない。

ホテルに帰って窓からの夜景に見惚れる。 寝たのは24時半くらい。ゴダードの「リオノーラの肖像」読了。えらく時間がかかってしまった。やっぱりデビュー作「千尋の闇」には負けるな。

Auberge Louis Hebert

418-525-7812/668 Grande-Allee est, Quebec

旧市街の外の繁華街グランド・アレ通りにある高級テラスレストラン。ここはテラスレストランがずっと続くがその中でも一番落ち着いた趣だ。料理はフレンチで味はすごくいい。カナダならではということでカリブー(となかい)のノワゼットを頼んだがソースも焼き具合もたいへんよく出来ていた。これで24カナダドルはこの辺ではかなり高めだが価値はある。グランド・アレ通りで食べるならオススメ。通りの西側。

Cafe de la Paix

418-692-1430/44, Des Jardins, Vieux-Quebec

3軒のレストランに満席と独り客という理由で断られた後仕方なく入った店だが、料理はまぁまぁだった。素朴なフレンチで、ひねりもなにもないのだが美味しい。スペシャリテのサーモン・エストラゴンソースを頼んだが鮭の身は香ばしくソースも相性よく、楽しく食べた。ケベックには珍しく男のみの給仕である。客もどんどん来たしわりと当たりなのかも。サン・ルイ通りをフロントナックホテルに向かって行ってホテルの一本前の道を左に折れてすぐ。

8/7(木)

4時に目が覚めてしまった。
潔く起きてマックを打つ。メールやらこの旅日記の覚えやらを打つ。
5時頃、夜が明けてくる。部屋からは東の地平も見えるのでしばらくマックを打つのをやめて眺めた。絶景である。ニューヨークなら頭にガーシュインが流れるところだが、ここではなぜかブルックナーの4番(まぁキザなこと!)。
ケベックの朝焼けは清澄である。見とれた。

6時54分になる。
一応意識していた覚えていた時間だ。
平成9年8月7日6時54分32秒1。
「9-8-7-6-5-4-3-2-1」と数字が並ぶのだ。おお!いまこの瞬間!!!!
……何一人で喜んでいるのだ。バカみたい。

でもカナダ時間で平成を意識しても意味ないね。日本時間じゃないと。


モントリオールに行く準備をする。
8時半の電車に乗るのだ。

部屋を出る前、もう一度ケベックの絶景を眺めた。
僕はこの部屋からの景色が非常に気に入った。ルース・ル・コンコルドの2502室。195カナダドル。日本円で18000円くらいか。最初は高いと思ったが、この最もいい季節でほぼ最上階でこの景色でならやっぱり高くはないな。キングサイズベッドだし。
もう一つ旧市街の中心にシャトー・フロントナック・ホテルがあるが、そこかここですね、泊まるなら。景色自体はこちらの方がいい。上の方の南側に泊まるなら。あっちは趣きと伝統、そして歴史の中に泊まれるのがいい。

でも旧市街の小さな民宿に泊まったらこの街の印象も随分違ったろう。


駅はタクシーで10分のところにあった。
駅のカフェでクーンツの「コールド・ファイア」を読みながら朝飯を食べているとぞくぞく人が集まってくる。
案内板がないのでどこに行けばいいのかわからず、不安。近くの人に聞いてみようかと思うのだが、なぜか勇気が出ない。なんだかきのう一日自由に浸っていたら気が抜けちゃったみたいでうまく英語が出てこない。
幸い電車は時間通りに出るようで、人々が動き出す。プラットフォームは離れていて、出発前でないと入れてくれない。アメリカ人らしい旅行者に「For Montreal?」と聞いたら「Maybe」と不安そうに答えた。なんだ、アメちゃんも不安なのか。気が楽になった。

電車は非常にきれいであった。
「世界の車窓から」の気分で楽しもうとするが、わりと景色が単調でつまらない。広大なカナダ平原などは見えない。新幹線から見る東海地方のそれと感じは似ている。


3時間の後、窓からモントリオールの街が見えたときは感動した。
ものすごくキレイなのだ。
セントローレンス河の向うに近代的なビル群と中世風の建物群が重なって見えてきて、ニューヨークと違って清潔そうな雰囲気があり素晴らしい。これは、これはいい街に出会えるかもしれない!

と、いう想いは駅を出るまでしか続かなかった。
結局はあの車窓からのモントリオールがいろいろ考えてもベスト眺望ポイントだったのだ。
街は埃っぽくくすんでいて無秩序。宿泊する「Le Centre Sheraton」まで駅から歩く間に期待は失望へと変わった。このくすんだ無個性な感じは、そう、ロスに似ている。

気を取り直して街を歩くことにした。
ホテルの部屋にあったガイドによると街のポイントは3つ。
おしゃれなファッション街セント・カトリーヌ通りと、学生街のサン・ドニ通り、そして旧市街。
まぁ、銀座と御茶ノ水と浅草、ってとこだな。

まず銀座に出て北西の御茶ノ水までまっすぐ2キロ半ほど歩くことにする。
驚いたのは「ファッションがとんがっている」こと。
予想を遥かに超えるレベルのファッショナブルさなのだ!
ニューヨークの数倍お洒落だ。みんなよく研究された個性的な先端ファッションを身につけている。ちょっとびっくり。北米のパリと呼ばれる由縁か。

そしてまたびっくり。
なにしろ美人が多い。美人だらけだ。立ち止まって振り返ってしまうような美女が10歩に1人は現れる。なんだ?この高打率。そんな美女が計算され尽くしたファッションを身に纏っているんですよ。これはもう呆然立ちつくし状態なのです。

街はそれらを裏づけるように先端ブティックが並んでいる。が、銀座も1キロも行けばいきなり新宿に変わってしまった。ポルノ街。ここらへんの続き方はパリっぽいね。
相変わらず道行く女性は美人だが、街はどんどんカジュアルになっていく。学生街にたどり着くとファッションはパンクになった。ロンドンの一番過激な格好の若者がそこら中でうんこ座りしている絵を想像してみてください。割と怖いでしょ。そんな感じなんだけど、街が明るくカルチェラタンみたいだから似合わないんだよね。変な街だ。


すごく腹が減ったんだけど、なかなか入りたい店が見つからない。
学生街のレストランのレベルってだいたいわかるから、もうちょっとがんばろう、ということで旧市街へ行く途中にあるチャイナタウンを目指す。
中華街は小さいが活気があるのは全世界どこへ行っても同じ。中国人はどこでも中国っぽくしてしまう。それって簡単そうでいて割とチカラがいることだと思う。
中華街の店は、ある程度経験を積んでいるつもりの僕でさえ、どこが美味しいか全然わからない。見分けがつかないのだ。まぁどこでも似たようなもんだろう、と一番近くの店に入る。もう3時前なのに客は多い。これは当たりか?

………大ハズレ。

焼きそばを頼んだんだけど、腹減ってるはまずいは、まずいは腹減ってるは、いったいオレはどうすればいいんだ状態。食欲に負けて食べたけど、激マズ。油が悪いせいか胸焼けがする。「故郷酒店」ここだけは入ってはだめですよ。僕の鼻もまだまだ鍛え方が足りないなぁ。しかしなぜ流行っている?

胸焼けに吐きそうになりながら2キロ歩いて旧市街にたどり着く。
早いこと言えばここは「ケベックの旧市街」と全く一緒。そう、だから楽しい。が、僕はもうケベックで十分堪能したのであまり興味はない。しいて言えばこちらの方が汚い分、パリの裏通りに雰囲気がよく似ている。うん。似ている。言葉もすべて仏語だし看板も仏語。歩いているのはパリジャン風ファッショナブル美女。ビデオにとって「パリに行ってきたよん」と言っても誰も見分けられないでしょう。

旧市街はセントローレンス河に面している。
そこの港にちょっとしたパビリオンがあってフリーマーケットやらシアターやらがあるのだがそこで戦艦の公開をしていた。海軍の兵士が観客に一人一人付いて案内してくれるのだ。これは長蛇の列。こういうのっていいよなぁ。日本では絶対やらない類のことだ。
でもむき出しの短距離砲などを見るとさすがにぎょっとするが。

胸焼けが取れぬまままた2キロほど歩いてホテルへ。
疲れた。気分が悪い。バスに浸かる。なかなか元気にならない。ちょっと寝る。


夜の8時に目が覚めた。2時間ほど眠ったわけだ。胸焼けは取れたようだがなんだか胃が重たい。
和食だな。和食を食べよう。
昼間歩いているとき4軒和食屋を見つけた。その中で最もまともそうな店に行く。蕎麦くらいで軽く済ませようと思っていたが、いざメニューを見るとカナダの寿司を試してみたくなって、カウンターに座ることにする。

結果は……まぁこんなものかな。カナダ産のウニと鮭がうまかったな。あとアメリカの本マグロ。握るのは20年こっちにいるという日本人のオヤジ。
「ここにも日本料理屋はいくつかあるけど日本人がやっているのは少ないんですよ。え?そう、美人が多いでしょ。やっぱり血が混ざっているからねぇ。カナダの中でも有名ですよ、美人の産地として」
そうなのか。やっぱりな。それにしてもこの和食屋すごく流行っている。味は普通だが、モントリオールとしてはかなり上級だ。値段も割と高かったが。
最後に明日の昼御飯にいいところがないか、と聞いたらすぐ近くのフレンチを教えてくれた。楽しみ。


おかげで胃が重たいのも直ったので「銀座」に出てそぞろ歩く。
夜10時近いのに人出がすごいのはケベックと同じ。お国柄か?
着飾った美女が肩で風切って歩いていく。
着いたときより少し目が慣れたせいか呆然とまではならないが、それでも振り返ってはしまう。


「モントリオールの美女」っていう人生って、いったいどういう人生なんだろう。


ホテルに帰りつく。23時。
このホテル、NINTENDOが部屋で遊べるようになっている。5ドル。ちょっと迷ったが寝れなくなると困るので諦める。
クーンツの「コールド・ファイア」を読みながら寝る。

Tokiwa

514-876-0056/1184, rue Bishop, Montreal

モントリオールの銀座、セント・カトリーヌ通り界隈の特に高級な一角「クレセント通り」の一本南西がビショップ通り。そこにある和食屋。ドミニオン広場から5筋ほど南西である。こっちに来て20年というオヤジが静かに握る寿司は素材もバランスも普通のもの。だがこの街ではかなり上級と見た。つまりは大変流行っている。決して安くはないが(握り14貫くらいで50ドルちょい)、和食が恋しくなったらどうぞ。そばとかさば定食とかもあるよ。

8/8(木)

朝8時までぐっすり寝る。
胸焼けは直ったが、昨日のウォーキング・エクササイズ(ただの歩き回り)がきいているようだ。疲れ切っている。36歳。五捨六入でも40だもんなぁ。少しは考えんと。

モントリオールの主要なところは昨日見たんだけど心残りがひとつ。水族館があるらしい。モントリオール水族館……なんとなく良さげでしょ。水族館好きの僕としては行ってみたいところだが、なんか午前中はダラダラしていたい気分なのでパス。あんまり無理して予定詰め込むと明日からの仕事に差し支えるしね。 あと1週間、ニューヨークできつい仕事が待っているんだから、無理は禁物だ。

11時まで文字どおりダラダラして、チェックアウト。
メールを見たら妻から指令が入っている。
「カナダのチーズ事情を探ってこいっ」

ハイハイハイ。
昨日寿司屋で教えてもらったレストランは「モントリオールの銀座」のすぐ近くなので、とにかく銀座に出てめぼしい百貨店に入り食品売り場を探す。探す。探す。おいおい、3軒探してもないぞ?

いや、ないと思ってうろちょろしていたら3軒目の高級デパートEATONの地下のスーツ売り場の片隅に食品売り場を発見。小さいのだ。でもチーズは盛大に置いてあった。まぁ考えたらそりゃそうなのである。ここはカナダの中でも特異の文化を持つフランス語圏。フランスチーズをいっぱい置いていても不思議はないのだ。あぁ骨折り損。


昨日の寿司屋のオヤジが教えてくれたフレンチに出かける。一人だからちょっと物怖じしたけどかまわず乗り込む。しょぼい入口だったが奥に広くなかなかコージーだ。
ウサギのロティは例によってパサパサ。アメリカ文化圏はとにかく‘ホワイトミート’をパサパサに料理する。ここも前菜とかは美味しかったのにうさぎがイマイチだった。オーダーする方が悪いよね。
まぁ全体的に味はまぁまぁか。これだけファッションが進んだ街だからきっと探せばかなりおいしい店がいっぱいあると思う。フランス語圏だし。でも、なにせ情報不足だ。探しようがない。


14時頃店をでる。ドーバル空港を16時55分発の飛行機でニューヨークに帰る。 まだ1時間半くらいはぶらぶら出来るな……こういう時は美術館でしょう。手荷物も預けられるし。

ということでモントリオール美術館に出かける。銀座からすぐのところ。これが大当たり。面白かったのでした。特に面白かったのは特別展の「Exiles〜The Flight of European Artists from Hitler」つまり「ヒトラーから逃げてきたヨーロッパのアーティスト達」という特集で、追放者、アメリカへの亡命者、教師として渡米した人など別に展示。それだけでなくモンドリアンの当時のアトリエを再現したりしていて凝っている。カディンスキー、モンドリアン、ダリ、シャガールをはじめ錚々たるメンツの絵画を時間ギリギリまで楽しんだ。


ドーバル空港は雑然とした空港でなんだかカナダっぽくない。雰囲気も殺伐としている。 チェックイン手続きを終え、さてどうしようかな、と思ったらこっちこっちと手招きされる。「アメリカに行くならこっちだ」と言っている。ん? 要領が良くわからない。え?パスポート?入国審査表?だってここカナダでしょ?なんでアメリカの入国審査が???

なんとカナダからアメリカに行く場合、アメリカへの入国審査はカナダの空港で済ませちゃうというお手軽さだったのであった!
知らなかったぁ。そうかそうか。そんなに仲がいいのか、カナダとアメリカは。

すらすらと飛行機に乗る。
カナダでうだうだしているうちにグアムとフロリダで飛行機が落ちたらしい。
う〜ん、怖い。ただでさえも飛行機は嫌いなのに……。

そのうえ。
そのうえそのうえ、ちょうど読んでいたクーンツの「コールド・ファイア」でまさに旅客機が墜落する場面!!いや冗談でなく本当に乗っている間に読んでいたのがその場面だったんですよ!胃の底がくら〜くなる。でもまぁ行きよりも帰りで落ちるのは本望だよな、などと思いつつ読み進める。夢中で読んでいるといきなり「ドド〜ン!!」

着陸した音だったのでした。
(それにしても、「コールド・ファイア」の中ではユナイテッド航空が実名で落ちている。よく許したなユナイテッド。クーンツだったら全世界で何百万人が読むと思うのだけど、大丈夫なのか?)



ニューヨークに帰り着いた。

あぁなんか「帰ってきた」という印象。窓からマンハッタンが見えた時、その小ささに愕然とした。
なんて小さな街なんだ、と思う。なぜわざわざこんな狭いところにひしめき合う?
でもそれが活力を生んでいる。狭い方が活力がでるのだ。日本だって四畳半で食べて寝てしていた頃の方が活力があった。極論かな。




たった3日間のカナダ旅行。

フランス語圏カナダは、一言で言って「アメリカ人がお手軽に異国情緒に触れられる便利な観光地」であった。日本人がわざわざ出かける程の価値はあまりない。
が、僕個人からしたら、本当に久しぶりに孤独に浸れた貴重な日々。心身共に予想以上にリフレッシュしたのでした。

ニューアーク空港からタクシーでマンハッタンに向かう。

汚い空気と猥雑なざわめき。

こうして僕は新たな気分で活力を生む都市ニューヨークへと帰って来たのでした。


Le Mas Des Oliviers

514-861-6733/1216, Rue Bishop Montreal

寿司屋のオヤジに「どこかに美味しいフレンチはないか」と聞いて教えてもらった。入口はしょぼいが奥に広く非常にコージーな雰囲気。料理は南仏系の味つけ。しっかりしたソースで彩りも豊か。おいしい。他を知らないので比べようがないがモントリオールでは上の下レベルではないかな、と想像する。

さとなおと一緒にニューヨークに帰りたい方はこちら


ケベック・モントリオールに来る前のことを読みたい方はこちら

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