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LV5「転がる香港に苔は生えない」

星野博美著/情報センター出版局/1900円

転がる香港に苔は生えない
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2000年4月初版の本で、大宅賞もとっており、前から読みたかったのだが本屋で見つけてやっと読んだ。581ページの大部。中国返還の前と後、激動の香港の、現地人でも住むのをためらうような地域に2年間住み込んだ著者の貴重なノンフィクションである。

取材目的で入ったのではなく人生生活として香港に入ったことがノンフィクションに厚みを与えている。しかも著者は現地語(広東語)がある程度しゃべれる。危ない場所や汚いところもあまり物怖じせず入っていく。そして現地の人とかなり濃いふれあいを重ねている。そういう貴重な体験を、ちょっと内省的だが素直で精緻な文章で表現し、ボクたちに伝えてくれている。対象を客観的かつ肌感覚で捉えられ、それを静かな筆致と心地よいリズムで表現できる日本人の書き手があの時期の香港にいたことを、同国人として幸せに思う。

題名がいい。動的で勢いのある題名なので中身もそうかなと思って読み始めるが、中身はわりと静かで分析的。そのギャップに戸惑いながら読み進むと、だんだん著者が題名に込めた思いが見えてくる。そして「さざれ石の巌となりて苔のむすまで」変わらない安定を望む日本人との鮮やかな対比が(結果として)見えてくる。

これはあの時期の香港を語った都市的ノンフィクションというよりは、「苔むす」日本人である著者が「苔の生えない」香港人の中に混じることで自分を見つけていく(もしくは見失う)、模索と喪失の物語だ。だから美しく切ない。堪能した。著者の視点と同化して他にもいろんなものを見てみたい。他の作品も読んでみよう。

2002年02月01日(金) 12:00:00・リンク用URL

ジャンル:ノンフィクション ,

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