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「柔らかな頬」

amazon名作「OUT」から2年。相変わらず見事な内面描写で桐野夏生が帰ってきた。
そのリアリティ、そのストーリーテリング、行間から溢れてくる匂い・色彩、どれをとってもさすがなものである。
特にうまいのは「照明の使い方」。驚くほど陰影に溢れた場面が読んでいる目の前に展開する。これは「OUT」から一貫したボクの印象だ。今回まいったのは病気の内面描写。読んでいるこちらまでが胃の当たりが重くなる胃癌の症状描写など絶品である。病は気から、だとすると、これを読んで病気になる人が出るのではないかと思ってしまうような描写力だ。あ、肉欲の内面描写もすごかったな。
「OUT」同様、これも「脱出」をテーマとしている。
脱出と解放、孤独と自由。そこに死期近い元刑事のイマジネーション、そして追いつめられた主人公のイマジネーション、女親子三代の業の移り変わり、が濃厚にからんでくるあたりが圧巻だ。いくつもの結末の付け方を提示しつつ、幻想と現実の境目が消えていく。どこから脱出するべきなのか、わからなくなってくるところの描き方の素晴らしさ。また、最後の最後の「脱出」も呆然たるものがある。
個人的には直木賞確実だと思う力作。題名がちょっと甘いのが気になる以外はすべてに傑出した一冊である。
1999年06月01日(火) 12:00:00・リンク用URL
ジャンル:ミステリー
@satonao310