破壊されてしまったあなたへ

2011年10月 6日(木) 15:32:37

JR仙台駅から仙石線に乗って石巻に向かう。

仙石線はまだ全線復旧していない。
石巻に行くためには、松島海岸駅まで行っていったん電車を降り、バスに乗り換えなければならない。そして途中の矢本駅まで、津波に破壊されたままの町々をバスに揺られて通り過ぎ、矢本駅からまた仙石線に乗らなければならない。

バスで通り過ぎてきた町々。
野蒜のあたりは特に酷い。ひとりの男の人が破壊された家に向かって合掌していた。大切な人だったのだろうか。

矢本駅からディーゼル車に乗り、MacBook Airを開く。

矢本には7月にヘドロ除去のボランティアに来た。
矢本駅から見えるあたりはもうずいぶん復旧しているように見える。でもヘドロを除去しにいった海岸に近いあたりは、きっといまバスで通り抜けてきたところと同じように、“まだまだ全然あの日のままなのだ”、と、容易に想像できる。

東京では「また被災地行くの? でももうずいぶん復興してるんでしょ?」みたいなことを言う人もいるけど、まだまだなのだ。まだまだ全然、なのだ。この美しいマシンを開くことがちょっと躊躇されてしまうくらい、様々な物が、そして様々な生活が、根本から破壊され、破壊されたままそこここに転がっている。

MacBook Airをネットにつなげようとしてふと気づく。

そうか、“あなた”ももう破壊されてしまったのだな。この世に存在しないんだ。

今朝まで、当然のようにこの世にいてくれたのに。
またひとり、ボクは「その人がいるから今日もがんばれる」という存在を亡くしてしまった。


あなたが教えてくれたこと。

世界は、たったひとりの努力やセンスで、よりよい場所に変えることが可能な場所だということ。

毎日の生活の中に美しいデザインがあるとはどういうことかということ。使いやすいということの真の意味。

そして、毎日死を意識するということ。

毎朝、鏡に向かってこう問いかける。「もし今日が人生の最後の日だとしたら、オレは今日やろうとしていることを本当にやりたいと思うだろうか。」"If today were the last day of my life, would I want to do what I am about to do today?"

あなたにつけてもらったありがたい習慣だ。


会ったこともない人だけど、毎朝いつもボクの横にいた。
物理的には破壊されてしまったけど、これからも毎朝、あなたはボクの横にいる。

ボクも遠からず破壊される。
それを知っているからがんばれる。ジェットコースターのような毎日だけど、「今朝、鏡の前で『やりたい』と確認したこと」がたくさんある。

あなたが破壊された56歳まであと6年しかないけれど、もうちょっとだけがんばって毎日前に進んでみる。

あなたがいたことで世界は確実によりよい場所になった。本当にありがとう、スティーブ。

佐藤尚之(さとなお)

佐藤尚之

佐藤尚之(さとなお)

コミュニケーション・ディレクター

(株)ツナグ代表。(株)4th代表。
復興庁復興推進参与。一般社団法人「助けあいジャパン」代表理事。
大阪芸術大学客員教授。やってみなはれ佐治敬三賞審査員。
花火師。

1961年東京生まれ。1985年(株)電通入社。コピーライター、CMプランナー、ウェブ・ディレクターを経て、コミュニケーション・デザイナーとしてキャンペーン全体を構築する仕事に従事。2011年に独立し(株)ツナグ設立。

現在は広告コミュニケーションの仕事の他に、「さとなおオープンラボ」や「さとなおリレー塾」「4th(コミュニティ)」などを主宰。講演は年100本ペース。
「スラムダンク一億冊感謝キャンペーン」でのJIAAグランプリなど受賞多数。

本名での著書に「明日の広告」(アスキー新書)、「明日のコミュニケーション」(アスキー新書)、「明日のプランニング」(講談社現代新書)。最新刊は「ファンベース」(ちくま新書)。

“さとなお”の名前で「うまひゃひゃさぬきうどん」(コスモの本、光文社文庫)、「胃袋で感じた沖縄」(コスモの本)、「沖縄やぎ地獄」(角川文庫)、「さとなおの自腹で満足」(コスモの本)、「人生ピロピロ」(角川文庫)、「沖縄上手な旅ごはん」(文藝春秋)、「極楽おいしい二泊三日」(文藝春秋)、「ジバラン」(日経BP社)などの著書がある。

東京出身。東京大森在住。横浜(保土ケ谷)、苦楽園・夙川・芦屋などにも住む。
仕事・講演・執筆などのお問い合わせは、satonao310@gmail.com まで。

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