少しでも気持ちが明るくなる環境に住んで欲しい。 〜仮設住宅アート

2011年7月19日(火) 9:41:41

昨日もちょっと書いたが、この土日、宮城県名取市に行き、仮設住宅の壁に絵を描くプロジェクトをやってきた。

イラストレーターの黒田征太郎さんと、電通の元同期でその後独立してTGVという会社をやっている内藤久幹くんらと一緒にやったプロジェクト。題して「ひとりひとりがみんなではじめるあたらしい暮らし 〜サイン・表札づくり」である(コピー:山本高史&佐藤澄子)。

20年前くらいだったか。
黒田征太郎さんと「ホスピタル・アート」というのをやったことがある。

「いまの病院は(汚すぎて)命を癒す場所じゃないところが多い。だから病院の壁に絵を描いているんです」という黒田さんの言葉に共感し、まだ入社5年目くらいだったボクはそれをある企業の広告キャンペーンにした。その流れで一緒にNYに行ったり、サンフランシスコに行ったり、徹夜飲みを何度もしたりした。ボクのデビュー作である本「うまひゃひゃさぬきうどん」の表紙を描いてもらったりもした。

本当に魅力的な人で、会った人はたいてい虜(とりこ)となる。
ボクもご多分に漏れず惚れ、人生の目標のひとりになった。

で、今年5月にボラツアで南三陸町に行ったとき、10年ぶりくらいに黒田さんとバッタリ会い、彼の活動を手伝っていた内藤久幹くんともいろんな話をした。彼らは生ポスター企画(その場で黒田さんが1000円でポスターを描き、それを売って寄付する)をやっていた。

そしてちょうどその数日後、震災ボランティア連携室の方から仮設住宅の現状をヒアリングしたとき、「あ、だったら黒田さんに仮設住宅に絵を描いてもらったらどうだろう。ホスピタル・アートのときみたいに。そう、仮設住宅アートだ!」と思いついて内藤くんに相談したのが元々のはじまりである。

仮設住宅の現状というのはこういうことだ。
仮設住宅格差については前にも書いたが、それ以外にも、まず、とにかく無味乾燥で収容所みたいである。同じカタチをした棟が並び、自宅がどこにあるか迷うほど。まぁそれは仕方ないことなんだけど、でも、住民同士が「3棟の5番の人」とか「14棟の8番の人」とか数字で呼び合っているのが切ない。表札もなかったりするし。

で、住宅棟の壁にたとえば「ネコ」を描き、表札もつけて、「ネコの棟の佐藤さん」とか呼ばれたらどんなに人間的だろう。「あなたは虹棟かい。私はカメ棟だわ」とか会話が起こったらどんなに楽しいだろう。近所に住んでいる仮設以外の地域住民から「あの仮設にお住まいですか。なんだかあそこいいですね」とか言われたら、どんなに生活に張り合いが出るだろう。近所の子供たちが絵でも見に来たら、どんなに暮らしに潤いが出るだろう。

内藤くんは実行力が半端ないヤツなので、「それはいい!」となると一気に動く。
すぐに黒田さんに連絡を取り、現地の調査に参加して仮設住宅の現状にボクより詳しくなり、現地と交渉し、仮設団地の自治会長と段取りをつけ、あれよあれよという間にプロジェクトが現実化した。すごい。さすがだ。ボクはボクで、リーダーをやっている助けあいジャパンで後援することを決め、日本財団の助成金を申請。自腹を覚悟したがギリギリのスケジュールで助成金獲得。

ということで、イラスト:黒田征太郎、プロデュース/アートディレクション:内藤久幹、デザイナー:山田朗、アシスタント:ヤマダヤスヒコ、撮影:田頭真理子、小間使い:佐藤尚之でのプロジェクトが発足したのである。

土曜日の朝、名取市に入って(行きの新幹線は座れずきつかった)、10時から黒田さんは絵を描き始めた。

ボクは要所要所でツイッター実況し、いろいろな人が反応してくれた。Instagramで写真もアップしつづけた。それらをTogetterでまとめてくださった方がいるので(ありがとう!)、それらを見ていただくのが早いかもしれない。

・ツイッターのタイムラインのまとめ【仙台の仮設住宅に黒田征太郎さんの絵が描かれていく様子(7/16-17) by chocolat_J】 http://togetter.com/li/162449

・写真のまとめ【仮設住宅アート さとなおさんのレポまとめ by sunomono3】http://togetter.com/li/162383

※ついでにボクもフェイスブックページ上に写真集を作ってみた。どうぞご覧ください(フェイスブックに登録してなくても見られます)。もっと完全な記録はまたそのうち。

いや〜。
予想はしたけど、実にいい。我ながらとてもいい。

絵以外にも、集会場のトイレ・サインや、仮設棟の数字のフォントや色も変えていった。仮設住宅自体の看板なども変えた。もちろん自治会長や市の許可はもらい済み。

で、絵を描き終わったあと(黒田さんお疲れ様です!)、ひとつひとつ、絵を壁に貼っていく。
ボクは背が高いので、絵のパネルの貼り係になった。きちんと平行とって20棟40枚を貼るのは大変だったなぁ。肩がつらい。ハゲ頭が熱いw ちなみにパネルも絵の具も雨に濡れても大丈夫なものなのでご安心を。

住民の反応がまた素晴らしかった。

「え、これ、笹かまぼこなの!あっはははは!」「最高だねー」「いいねぇ、ここに住むんだねぇ」「ねぇ、うち、金魚が描いてある!」「またメロン作らなくっちゃね!」「いやぁたのしいなぁ」「これ、赤貝かい?あははは」「犬、かわいいなぁ」・・・

よかった。実によかった。
その夜の仙台「一心」でのメシがどれだけ気持ちよかったかしれない。東京から杉山恒太郎さんも合流してより賑やかに。


翌日の日曜日は、午前中に住民と一緒に表札作りをした。
表札がない家がたくさんある。それどころじゃなかったんだろうなぁ…。黒田さんが絵を描いた木片に住民たちが自分で名前を入れ、色や絵を足す作業。みんな喜んで作業してくれた。

そして、一段落ついたあと、いよいよ仕上げにかかる。
昨日絵を貼った壁に直接黒田さんが筆を入れて、より完成度を高めるのである。

実はこれは「子供たちの参加」を望んでいた。子供たちと一緒に仮設の壁に花とか描いて完成させようと企画していたのだ。
でも、この仮設住宅は小学校から遠いということで、子供がほとんど住んでおらず、それが無理となった。「だったら私がひとりで絵を描きましょう」と、疲れが残っているはずの黒田さんが背負って立ってくれたのである。

昨日、絵を貼った時点でそこそこ完成品だと思っていた壁が、黒田さんの一筆でいきなり別物に変化する。すごいなぁ。楽しいなぁ。

空はあくまでも青く、壁はあくまでも白い。まるでカリフォルニアにいるようだった。

誤解を生みやすい言い方だけど、なんというか、ここに住みたいなとか無意識に思った。
自分がそう思ったことに気がついたとき、「あ、このプロジェクトは少しは役に立ったのかも」と思った。数年しか住まない仮設住宅とはいえ、「住みたい環境」でないと生活再建のモチベーションも上がらない。すべてをなくしただでさえ大変なのだ。少しでも気持ちが明るくなる環境で、明日に希望を抱いて住んで欲しい。

ボクは東京で仕事があったので、13時ころ現地から離脱した。
その後も黒田さんたちは夕方まで作業して、無事に東京に帰ったらしい。お疲れ様でした。でも、一緒に出来て本当に良かった。希有な体験だった。

少人数グループで「とにかくやってみよう」と始めたので、実はとっても綱渡りで大変だったのだけど、これでオシマイにしないで、またやってみたいと思う。次回やるときは協力者募集しますね。

というか、今後の仮設住宅フェーズは、瓦礫処理や泥かき以外にもいろんな支援やボランティア作業が出てくる。力仕事が無理な人にもたくさん仕事はある。みなさん、ぜひ。被災地に行こう!

佐藤尚之(さとなお)

佐藤尚之

佐藤尚之(さとなお)

コミュニケーション・ディレクター

(株)ツナグ代表。(株)4th代表。
復興庁復興推進参与。一般社団法人「助けあいジャパン」代表理事。
大阪芸術大学客員教授。やってみなはれ佐治敬三賞審査員。
花火師。

1961年東京生まれ。1985年(株)電通入社。コピーライター、CMプランナー、ウェブ・ディレクターを経て、コミュニケーション・デザイナーとしてキャンペーン全体を構築する仕事に従事。2011年に独立し(株)ツナグ設立。

現在は広告コミュニケーションの仕事の他に、「さとなおオープンラボ」や「さとなおリレー塾」「4th(コミュニティ)」などを主宰。講演は年100本ペース。
「スラムダンク一億冊感謝キャンペーン」でのJIAAグランプリなど受賞多数。

本名での著書に「明日の広告」(アスキー新書)、「明日のコミュニケーション」(アスキー新書)、「明日のプランニング」(講談社現代新書)。最新刊は「ファンベース」(ちくま新書)。

“さとなお”の名前で「うまひゃひゃさぬきうどん」(コスモの本、光文社文庫)、「胃袋で感じた沖縄」(コスモの本)、「沖縄やぎ地獄」(角川文庫)、「さとなおの自腹で満足」(コスモの本)、「人生ピロピロ」(角川文庫)、「沖縄上手な旅ごはん」(文藝春秋)、「極楽おいしい二泊三日」(文藝春秋)、「ジバラン」(日経BP社)などの著書がある。

東京出身。東京大森在住。横浜(保土ケ谷)、苦楽園・夙川・芦屋などにも住む。
仕事・講演・執筆などのお問い合わせは、satonao310@gmail.com まで。

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