すばらしい映画「Herb & Dorothy」
2010年4月 8日(木) 7:19:08
「Herb & Dorothy」というドキュメンタリー映画で、まだ日本未公開だし、日本で公開できるかどうかも決まっていない。
でも世界ではかなり評判で、世界各国の映画祭で合計5つの最優秀ドキュメンタリー作品賞と観客賞を受賞している。ニューヨークでは17週間という、ドキュメンタリー映画としては稀なロングランを記録した。
この映画、日本人の佐々木芽生(めぐみ)さんが監督&プロデューサー。私財を投じてハーブとドロシーの人生に密着した。その情熱も素晴らしいが、映画の出来がまた素晴らしい。初監督作品とは思えない完成度。撮影も編集も音楽もとても良い。なにより、観終わってほんのりと暖かい気持ちになれる。自分の人生を見つめ直せる。そしてアートにたくさん触れたくなる。
彼女がこの映画をひっさげて来日し、友人を囲んで7〜8人の試写会をした。
昨日はそこに呼んでもらったのである。日本初公開試写(簡易字幕付き)。いまの映画界の現状だとこういうドキュメンタリーは配給に乗りにくいので、「だったら違う方法をみんなで考えよう」と集まった人たちだ。
物語を簡単に書くと、「NYに住む公務員のハーバート&ドロシー・ボーゲル夫妻が、慎ましい生活の合間にこつこつとアート作品を買い集め、最後は世界屈指の現代アートコレクターになっていく」という実話である。
彼らは純粋にアートが好きで、少ない給料の中からこつこつと買いためていく。夫が郵便局の仕分け係で、妻は図書館の司書。妻の給料で生活し、夫の給料はすべてアート作品に費やされたという。そして「決して転売しない」。だから狭いアパート(1LDK)はアート作品で溢れ(約2000点の現代アート)、トイレからベッド下、台所まで埋め尽くされた。のちに美術館に寄贈(寄贈!)したとき、超大型トラック5台分のアート作品が "奇跡的に" アパート内に収まっていたのが判明したくらい。
そんなに買い込んだって全部は見られないじゃないか、と思うだろうけど、それに対してドロシーは「本だって全部を毎日読んでないけど、本棚にしまっておくでしょ。いつも全部を見る必要はないわ。持っていること、そこにあっていつでも見られることが大切なの」みたいなことを言う。たしかにそうだ。そして映画を観ていくうちに彼らのアートにかける並々ならぬ愛情に圧倒されていく。
彼らが作品を買う基準はふたつ。「自分たちの収入内で買える作品であること」「NYの小さなアパートに収まるサイズであること」。ふたりはその審美眼で売れる前のアーチストを発掘し、密着し、買い込んでいく。彼らが目をつけたアーチスト達は軒並み成功し、彼らはほんの数点売れば大富豪になれるレベルになっているのだが、結局最後まで一点も売らず、すべてのコレクションをナショナル・ギャラリーにタダで寄贈した。そしていまも新婚当時から住んでいる小さなアパートで質素な年金生活をしている。
というか、この夫婦が本当に魅力的。
150センチくらいの小さな夫婦なのだけど、ふたりで手をつないでよちよちといろんな展覧会やアーチストのスタジオに出かけていく。スタイリッシュな人々の中では異様なくらい素朴な格好で。そして細かい批評などしない。ただ「美しい」とひと言言うくらい。この感じが本当に魅力的だ。
現在80代後半になった夫妻の日常を追いながら、多くのアーチストのインタビューも取り混ぜ(生前のジャン=クロードが出てくる!)、彼らの人生に迫っていくこの作品。人生の成功=リッチになる、という図式に毒された今の日本人にはかなりグッとくる映画であるし、「生きる」とは何なのか、シンプルに教えてくれる。映画館での公開が難しいと言われるのなら、なんとか知恵と工夫で広めてやろう、と友人たちの間では盛り上がっている。うん、個人でサポーターになる。いろいろ知恵を出して協力しよう!
ということで、「Herb & Dorothy」という題名、ぜひ覚えておいてください。ここでトレイラー(予告編)も観られます。
