新人くん

2009年11月20日(金) 9:28:49

「宣伝会議」という広告系の学校で年に数回教えているのだが、今年の春の講座で、教え終わった後、緊張してボクの元に来た受講生がいた。30歳くらいの男性。

質問かと思って顔を向けたら、なにやら分厚い手紙を渡された。後で読んでください、と。手が震えている。なんだろう? ちょっと気になったが、次の仕事が控えていたのですぐ帰った。バタバタしていて翌日の夜までその手紙のことは忘れていた。

あ、そういえば、と思って手紙の封を切ったら、そこには「佐藤の下でコミュニケーション・デザインをやりたい」という熱い想いが書かれていた。ボクの本「明日の広告」の中でラブレターの話を書いているので、それを模したのかもしれない。汚い字ではあるが、気持ちはよく伝わってきた。でもヒトの人生を気軽に背負うわけにはいかない。メアドが書いてあったので丁重にお断りした。お断りというか、もっと慎重に考えろというサジェスチョンかな。彼はある会社の正社員で、そこを辞めてでも来たいと言うのだが、そりゃ無理だ。実績のある人の中途入社はありえても、まだ何も実績もなく、ただ「やりたい!」というだけの人を採ることはありえない(というか、ボクは人事担当者でもない)。いまいる会社でその想いをぶつけられる仕事を作り出す方がずっといい。

彼は引き下がらなかった。
やりたい!とか働きたい!と訴える人はわりと多い。でも一度お断りしたり、厳しい就職状況を説明したり、生半可ではない仕事内容を教えるとたいてい引き下がる。でも引き下がらない。何度もメールが来た。こちらも「考え直せ」一辺倒。というか、コミュニケーション・デザインって総合力みたいなところがあるので、もろもろ無経験に近い人には難しいのである。それにさ、正社員は無理だよ。しかもこの不況下、正社員という安定を捨てるのは相当危ういと思うよ。そのうえボクは一度しか会ってないキミの人生にまったく責任もてないよ。

でも彼は引き下がらなかった。
どんな不安定な立場になってもよいと言う。いままでの人生でようやくやりたいことが見つかったのだと言う。

うーん…、これはある種の「才能」かも。熱意という名の「才能」。引き下がらないという名の才能。賭けるという名の才能。

まぁその後何度か会ったりして、いろんな経緯や絶妙なタイミングがあったりして、結局、彼はいま、ボクの下にいる。
まことに頼りないヤツなのだが(微笑)、こうなったら数年で独立できるようになるくらいには経験を積ませるつもりである。経験値が増えても使える人間になれるかわからないのがこの分野(変化が激しすぎて成功体験がすぐ通用しなくなるから)。経験を積んだ後、どのように化けるのかは彼次第である。が、まぁ経験だけは積ませる。そのうち企画なども鍛える。半人前にまではなんとかする(一人前じゃないのかよ)

学校でもなく、学習の場でもなく、大切なクライアントをいっぱい抱えて、この不況下の虎の子のお金を預かっている「プロのチーム」である。足手まといになったらすぐ放り出すから。

でも、がんばってください。

佐藤尚之(さとなお)

佐藤尚之

佐藤尚之(さとなお)

コミュニケーション・ディレクター

(株)ツナグ代表。(株)4th代表。
復興庁復興推進参与。一般社団法人「助けあいジャパン」代表理事。
大阪芸術大学客員教授。やってみなはれ佐治敬三賞審査員。
花火師。

1961年東京生まれ。1985年(株)電通入社。コピーライター、CMプランナー、ウェブ・ディレクターを経て、コミュニケーション・デザイナーとしてキャンペーン全体を構築する仕事に従事。2011年に独立し(株)ツナグ設立。

現在は広告コミュニケーションの仕事の他に、「さとなおオープンラボ」や「さとなおリレー塾」「4th(コミュニティ)」などを主宰。講演は年100本ペース。
「スラムダンク一億冊感謝キャンペーン」でのJIAAグランプリなど受賞多数。

本名での著書に「明日の広告」(アスキー新書)、「明日のコミュニケーション」(アスキー新書)、「明日のプランニング」(講談社現代新書)。最新刊は「ファンベース」(ちくま新書)。

“さとなお”の名前で「うまひゃひゃさぬきうどん」(コスモの本、光文社文庫)、「胃袋で感じた沖縄」(コスモの本)、「沖縄やぎ地獄」(角川文庫)、「さとなおの自腹で満足」(コスモの本)、「人生ピロピロ」(角川文庫)、「沖縄上手な旅ごはん」(文藝春秋)、「極楽おいしい二泊三日」(文藝春秋)、「ジバラン」(日経BP社)などの著書がある。

東京出身。東京大森在住。横浜(保土ケ谷)、苦楽園・夙川・芦屋などにも住む。
仕事・講演・執筆などのお問い合わせは、satonao310@gmail.com まで。

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