映画「おくりびと」
2008年11月 2日(日) 9:26:46
遅ればせながら映画「おくりびと」を観た。
脚本の小山薫堂さんと少々おつきあいがあるので「なんとか時間を作って観ておこう」と無理矢理行った感じだが、観ておいて良かった。第32回モントリオール世界映画祭グランプリはだてじゃない。静かで小さくて温かくて、でも見えない奥底で嵐が吹き荒れているのが肌身で感じられる、そんな映画。その奥底の嵐が表面に出るか出ないかギリギリの表現になっている。ハリウッドにはできない抑制。
納棺師が主人公なので、映画は死で満ちあふれている。でも、これでもかと死を描くことで生の躍動を浮かび上がらせる、みたいな定型に陥っていないのがこの映画の大人なところ。死にも生にも客観的だ。ポンッと物としてそこに置かれた感じ。その解釈は観客に委ねられている。だから観客はそれぞれの体験に重ね合わせて観ることができる。うまいんだな、困ったことに。
前半は納棺師の説明と生活を丁寧に描き、観客をゆっくりその世界に沈めてゆく。あまりに淡々と順調にそれが進むので、後半どうやって話を収めるのだろうと心配になったくらい。
でもその静かなストーリーが見事にラストで結実する。納棺師として経験を積んでいく主人公の人生の過程が、実は自分自身の記憶を遡る伏線になっていた、という全体構成がラストのほんの数分で明らかにされるのだ。それがあまりに上手なので、ちょっとよく出来すぎているなぁ、とストーリーを離れてふと我に返ってしまったくらい(泣きながらであるが)。ギリギリのバランス。ただ、ラストのラストは少しクレバーすぎる印象を受けた。意味が与えられすぎて感情のかわりに脳味噌が働き出してしまう感じ。まぁ映画としてはこれでいいのだろうと思いつつ、もう少しだらだらと感情だけで泣きたかったかも。
滝田洋二郎監督とは2本ほどCMでご一緒したことがあるが(麻雀もしたことがある)、こんなに静かでキレイな映像を撮る人だったっけ、が正直な感想。いい意味でアバウトで明るい描き方が得意な人だと思っていたが、とても端正で静かなフィルムに仕上がっている。逆に監督のアバウトな明るさが、得てして暗くなりがちなこのテーマにいい方に作用しているのかも。映画の底流が妙に明るいのは彼のおかげかもしれない。
役者はそれぞれ達者。主演の本木雅弘にはただただ舌を巻く。見事な役者。唯一「生」の象徴として存在した広末涼子の美しさはこの映画の大事なポイント。キャスティングの勝利。山崎努と吉行和子、素晴らしい。意外と杉本哲太が効いていた。そして死体役の峰岸徹。つい先日亡くなったばかりなのでドキリとする。変な偶然ではあるが、話が深くなった。
薫堂さんの脚本は「参りました」という感じ。上記のように上手すぎると思わされたところはあったが、素晴らしいと思う。知り合いだけあって思わず知らず「ボクなら書けるか」という比較を心の中でしてしまうのだが、まぁ絶対書けないな(当たり前)。
ちなみに、薫堂さんだけあって、さすがに食事シーンがよかった(効果音もよかった)。食べるという営みを死と対比させて一段深く描いていた。死がテーマの映画なのに観ている間中おなかがグーグー鳴っていた。その点でもやられた感あり(笑)。
