ヤマ、越えた

2008年8月21日(木) 12:03:04

昨日、8月20日はある種のヤマであった。
明日、つまり22日から夏休みに突入することもあって、その前に片付けないといけない仕事のピークであったことがひとつめ。週刊文春から鈴木敏夫著「仕事道楽」の書評を頼まれたのだが、それの〆切日だったのがふたつめ。「広告批評社主の天野祐吉さんとの対談」という、業界の方なら「うわー、それ、重そう!」とわかってくださるようなプレッシャーのきつい2時間がみっつめ。鮨職人・新津武昭氏が復活して週1日だけ握っているそのカウンターに座る、という、ちょっと鮨経験上では重要な夜になりそうだったことがよっつめ。

ここ数日の仕事量も厳しかったけど、〆切も厳しかったなぁ。
だいたい書けてはいたが、出だしがどうもしっくり来ず、最後の最後まで違和感あり。で、一昨日の早朝にウンコしてるとき一行目が突然にょろにょろとひねり出された(汚い!)。やはりトイレは発想の母。それを受けて一気に書き直し、なんとなく納得のいくものになったのが昨日の早朝。はぁ〜間に合った!

天野祐吉さんとの対談は、もうここ数ヶ月の重荷で、先週あたりからは重荷過ぎて「はよ終わってくれ」と願ったほど。天野さんの新刊が冬に出るのだが、そこに収録する対談で、5人のうちの1人になぜかセレクトされたのだ。固辞しまくったのだが、企画意図・セレクト意図などを出版プロデューサーに延々口説かれ、つい受けてしまった。あぁプレッシャーきつかった。
でも案ずるより産むが易しで、なんとか2時間話し終えた。対談って慣れていないので(というか、ちゃんとしたのは初めてに近い)、なんかしゃべる部分と聞く部分のバランスが上手に取れず、途中舞い上がってしまった部分もあり、後悔はいろいろあるが、まぁこれが今の自分の実力、ということだと思う。

新津武昭氏は鮨好きの間では有名で、伝説の鮨職人ということになっている。
藤本繁蔵の数少ない弟子のひとり。銀座「きよ田」で名を上げた鮨職人。ボクは15年ほど前に一度行っている。そのときはまだ鮨カウンターに慣れていなかったこともあって異様に緊張した。いまは西麻布の「鮨 青木」の奥の個室カウンターで週に1回だけ握っている。

仕入れは青木さんで、酢飯と握りが新津さん。「仕入れをご自分でしないと握りは変わりますか?」「もうそれは大きく変わります」とおっしゃっていたから、完全に新津さんの握りというわけではない。ブランクも7年ほどあり勘も鈍っているだろう。でも「鮨の歴史として欠かせない人を(ある程度鮨経験を積んだ今)食べる」という意味では貴重な夜。

昨日はカウンターはボクと同行者のふたりのみ。しかも同行者が遅れたので、20分ほどボクは新津さんを独占し、いろんな話を聞いた。
「きよ田」開店一日目に小林秀雄が来たことや、常連だった白州次郎との初対面秘話などから始まって、毎晩80本ビールの大瓶をひとりで飲んだという話(!)、「今では減って30本になりました」という話(!!)、それでも本当に毎晩飲むのだという話(!!!)、それも早飲みで20分で20本空けるのだという話(!!!!)。いや、ビールの話だけしていたわけではなく(笑)、でもその話ですっかり打ち解け、いろんな話で盛り上がったなぁ。

同行者が来てからもニコヤカな新津さんは付かず離れず、絶妙な距離感でいろんなお話しをしてくれた。「きよ田」の記憶ではこんなに饒舌な方ではなかったはずなのだが、もう終始ニコヤカで楽しげ。裏話もいろいろ。いまや有名店になったあの店の持ち逃げ話など、ここでは書けないことも多い。「左様でございます」が口癖でどんどん話にドライブがかかる。

握りは記憶よりずいぶん優しい。藤本繁蔵の先輩弟子おふたり(鈴木さんと舘野さん)と比べるのも何だが、おふたりより突出して優しい。もっとエッジが立った鮨だった気がしたなぁ、というのが最初の印象。
酢飯が絶妙。タネとのバランスも絶妙。「伝説の鮨だから」という有り難みは置いておいて、トップクラスにおいしいとは思った。最初に赤身5貫。その後もすべて2貫ずつというスタイル。新子、新烏賊、鯛、穴子、それぞれ良い。一品一品というより全体のコース・バランスがとても良い鮨。よく出来たソナタを聞いてるような気分になった。こういう気持ちよさは鮨では希少。

でも、えーと、もし興味を持って行かれる方がいらっしゃったら、お財布だけは分厚くして行かれた方がよろしいかと。高い鮨屋はいろいろ行ったけど、2位以下を大きく引き離して断トツの新記録。ボルトの200メートル決勝みたいな感じ。まぁ多少追加で握ってももらったが…。いやぁ参った。領収書も取らず自腹で払うふたりに女将さんはちょっとびびっていた。社用の方が多いのだろう。

冬には、こういう間借りではなくて、ちゃんと復活されるとのこと。東京の鮨地図がまた賑やかになる。すごく楽しみだけど、財布が…。

佐藤尚之(さとなお)

佐藤尚之

佐藤尚之(さとなお)

コミュニケーション・ディレクター

(株)ツナグ代表。(株)4th代表。
復興庁復興推進参与。一般社団法人「助けあいジャパン」代表理事。
大阪芸術大学客員教授。やってみなはれ佐治敬三賞審査員。
花火師。

1961年東京生まれ。1985年(株)電通入社。コピーライター、CMプランナー、ウェブ・ディレクターを経て、コミュニケーション・デザイナーとしてキャンペーン全体を構築する仕事に従事。2011年に独立し(株)ツナグ設立。

現在は広告コミュニケーションの仕事の他に、「さとなおオープンラボ」や「さとなおリレー塾」「4th(コミュニティ)」などを主宰。講演は年100本ペース。
「スラムダンク一億冊感謝キャンペーン」でのJIAAグランプリなど受賞多数。

本名での著書に「明日の広告」(アスキー新書)、「明日のコミュニケーション」(アスキー新書)、「明日のプランニング」(講談社現代新書)。最新刊は「ファンベース」(ちくま新書)。

“さとなお”の名前で「うまひゃひゃさぬきうどん」(コスモの本、光文社文庫)、「胃袋で感じた沖縄」(コスモの本)、「沖縄やぎ地獄」(角川文庫)、「さとなおの自腹で満足」(コスモの本)、「人生ピロピロ」(角川文庫)、「沖縄上手な旅ごはん」(文藝春秋)、「極楽おいしい二泊三日」(文藝春秋)、「ジバラン」(日経BP社)などの著書がある。

東京出身。東京大森在住。横浜(保土ケ谷)、苦楽園・夙川・芦屋などにも住む。
仕事・講演・執筆などのお問い合わせは、satonao310@gmail.com まで。

アーカイブ

同カテゴリーの他記事