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トフギの謎

トフギの謎

沖縄の魅力はいろいろある。

その魅力の中心が「海」であることは否定しない。あの見事なまでにエメラルドな海は、日常に汚れきった人の心をぐゎしっと掴み出しゴシゴシと洗ってくれる。その快感は日本においては沖縄以外ではまず体験できないものであるし、それを演出する小洒落たリゾートホテルも沖縄にはたくさんある。

でも。やっぱりボクはこう思う。

沖縄まで来て、リゾートしかしない人はバカだ。

「沖縄」=「青い海・青い空・白い砂浜・きれいなホテル・熱帯魚と遊ぶ・心の洗濯・日焼け止め塗らなくちゃ!」くらいにしか思っていない人は、思いっきり損している。

海で極彩色の魚とゆらゆら戯れ、食事はホテルでイタリアン。サンセットの赤を全身に浴びながら、オリジナル・カクテルで喉を湿らす……。
ええええ、それはそれで快感でしょう。ストレス解消も出来ましょう。つらい日常も忘れられましょう。そういうリゾートライフ(死語)を別に否定はしない。でもそれはサイパンやらグアムやらでも出来るではないか。だいたいこの頃はそっちに行った方がツアー運賃は安い。

沖縄はそんな目的だけで訪れるには、もったいなさすぎる島なのである。
  そう、せっかくなら触りまくってみなければもったいないほど、沖縄の文化は奥が深い。
食文化も音楽文化も昔ながらのものがすべて色濃く今に伝わり、県民が(若い世代も含めて)それに誇りを持ってしっかり継承している。日本中どこもかしこも「東京化」して中途半端になってしまったのに、沖縄だけは独自の文化を姿勢良く保っているのだ。


とにかく不思議な土地である。
祖先崇拝のお土地柄もあってか、現代の日本なのに琉球王国が色濃く残っていて、住んでいる人がそれをまた大事にしている。そこにまたアメリカ領土であったという歴史が加わって非常に複雑な様相を呈している。
様々な支配に翻弄されてきたという歴史環境もあろう。諦観と希望との狭間でもまれ続けた過去の影響もあろう。とにかく沖縄人の精神は揺らがない。日常もまた揺らがない。
ボクみたいに日々ゆらゆらしている人間からみたら、その根っこの深さがうらやましく、憧れに似た想いすら持ってしまうほどだ。

なによりも琉球言葉が生きていることに驚く。

根っこが深く張っていることの証拠だ。
これは「方言」ではない。まったくの異言語だ。外国語である。そしてその外国語が日常普通にまかり通っているのである。ラジオのDJもしゃべっているのである。レンタカーを運転しながら、ラジオから流れてくるその異言葉のリズムに何度呆然としたことか。なにしろな〜んもわからんのであるからして。

まぁ確かに津軽とかに行ってもわからないよ。でもあれはある種訛りであろう。
沖縄は琉球王国そのままの琉球言葉。
そう、アイヌ語がわからないのと一緒。いまは完全に「日本」なのに、まるで標準語におもねらず、琉球言葉が普通に話されているのだ。
なんだかオランダ語とフランス語が両方使われているベルギーにいるような、英語が基本だけどウェールズ語もちゃんと生きているイギリスのウェールズにいるような民族混合感。単一言語を当然と思っている大和の人間にとって、ちょっとカルチャーショック的感覚が味わえるのである。


※沖縄県以外の日本をここでは「大和」と表記する(一部熟語的に「本土並み」とかの言葉は使っている)。そう呼ぶ沖縄人が多いのと、沖縄文化圏との差異が明確になるから、という理由で。ちなみに沖縄ではいわゆる本土に住む人を「ヤマトンチュ」と呼ぶ。大和の人、という意味だ。そういう視線で本土の人を見ているわけである。それも意識したかったから。他には内地の人、ということで「ナイチャー」という言い方もある。大和の人が自嘲気味に言う場合が多いようだ。逆に、沖縄人は自分たちのことを「ウチナンチュ」と呼ぶ。



圧巻なのは食べ物用語。

食堂に入ったらメニューがまず全然理解できないのである。みなさんは次のメニューをどのくらい解読できるであろうか。


 ゴーヤー・チャンプルー
 マーミナ・チャンプルー
 クーブ・イリチー
 ナーベラ・ンブシー
 フーチバ・ジューシー
 テビチ
 ラフテー
 ミミガー
 スクガラス
 イラブー汁
 アバサー汁
 ヒージャー汁
 イナムドゥチ
 スヌイ


  などなどなど。

これらはごくごく一般的かつ大衆的な食堂のメニューに載っているものだ。とにかくわからない、でしょ?ここは日本なのか?と回りを思わず見てしまうでしょ?


でも滞在を重ねるといろいろわかってもくる。
沖縄に来るたび、店に入るたびにどんどん知っている単語が増えていく。
なにしろ1回の旅、例えば2泊3日の旅で20軒も食べ歩くような旅を「趣味で」しているもんだから、どんどん慣れて、どんどん覚える。
すぐに店の人に聞かなくても注文できるようになった。

「ナーベラ・ンブシーと中味イリチー、それにジーマミとグルクンの唐揚げと、最後にフーチバ・ボロボロジューシーね!」

うんうん。やっぱり食べ物のことについてはどんどこ頭に入るなぁ。好きこそ物の上手なれ、とはこのことなのであるな。うん。
地元のお店に入ってパッと注文できるようになったボクはすっかり自信を持って街を歩けるようになった。異邦人からの脱出である。


こうなると街のいろんな琉球言葉が親しみを持って見えてくる。アタマに入ってくる。

 マチグヮー    (市場のことだな)
 ミーバイ     (赤いハタの一種だな)
 イラブチャー   (蛍光ブルーな魚だ。ネオンのよう)
 クースー     (これは泡盛古酒のこと)
 サーターアンダギー(ドーナッツみたいな有名なお菓子だね)
 ウチナーグチ   (沖縄の言葉のことだ)
 サンシン     (三線、つまり三味線、ですね)
 カチャーシー   (三線の早弾きに乗せて踊り狂うこと)

どんどんいろいろわかってくるのである。



こうしてなんだかずいぶん自信を持った頃、あるコンビニにさしかかった。道に面したガラスに不思議な言葉が書いてある。


トフギ


……知らない言葉だ。

知らないけど、さすが沖縄 !!
全国一律っぽいコンビニにまで沖縄特有のものを置き、沖縄特有の言葉で堂々と書かれているのだ! しかも赤い字で表のガラスに堂々と大きく貼ってある。
沖縄は全国一律なんかしないのである!
琉球言葉を大切にするこの感覚、さすがである。


  ……でも、それにしてもなんなんだ? 「トフギ」って。


コンビニに入ってみる。

やっぱりというか、予想に反してというか、とにかく普通のコンビニだ。全国どこにあっても不思議ではない。品揃えもほぼ変わらない。強いて言えば「黒糖ハイソフト」とか「パイナップル・ハイチュー」とか「黒糖入りコーヒー」とか「ゴーヤー茶」とか、沖縄限定発売の商品が目につくくらいである。

トフギを探してみる。
トフギ、トフギ……豆腐の一種かな? トーフギを縮めたとか。

食品コーナーを探すが、それらしきものは、ない。
やっぱり豆腐ではないのか。ひょっとしてトフ木っていう木の一種か? でもそんなものコンビニに置く?うーん、全然日本語と関係のない琉球言葉かな。いったいなんなのだろう?

ちょうどいい機会だから会社へのお土産用に「黒糖ハイソフト」を買って、レジでついでのような振りをして聞いてみることにした。


「あのぉ」
「ハイ」
「あそこに書いてあるトフギ、って………………あ!」





!!!!!!!!!!!!!!!





その時、電流がカラダを駆け抜けた!


トフギ、トフギ、トフギ、トフギって、もしかして!!!!






「………ハイ?」
「あ、いや、なんでもないです。ええ」


お金を払って、急いでコンビニを出る。
店員の目線を背中で受けながら、空を仰ぎ、おもむろに右に歩いていったのだった。


そりゃね、沖縄でなかったらさ、素直に読むのよ。
でも沖縄にいるとさ、深読みしてしまうのよ。
だってあまりに異質な言葉ばっかりなんだもの。
うん、仕方がないよ。恥は最小限に抑えたし……。


「お客さま〜 !!」


な、なんと店員が追ってきた !!
に、逃げるか!? いや、逃げるのもおかしいか!?


「商品をお忘れですぅ !!」


店員の手には黒糖ハイソフトが握られていた。会社へのあまいあまいギフトである。



トフギ

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