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汁物クリーンナップ

汁物クリーンナップ


汁物は母の愛なのである。

と、突然言っても大和の人(内地の人)は何のことかわからないかもしれない。

いや、ボクだって大和の人間なんだからこういう言い方は変だ。でも、大和の人にいわゆる「汁物」を紹介するとき、なんとなく自分が母のような気持ちになって「そりゃぁ栄養があるんだからたんとお食べなさい」と優しい目をしてしまうようなところが汁物にはあるのである。

あー、こうしていても、目に浮かぶ、舌に転ぶ。
とにかく沖縄にはうまくて個性的な汁物が多いのだ。

汁物。

大和で「汁物」と言ったら、一体なんだろう。
味噌汁、けんちん汁、豚汁、のっぺ汁、だご汁……。
不勉強のせいかあんまり思い浮かばない。
日本料理の椀物がまぁ汁物といえばそうなのだが、例えば親子丼、天丼、牛丼などと違って○○汁みたいに固有名称で呼ばれるくらい独立した料理は非常に少ないのである。

いや、大和では「汁物」というよりは「鍋物」になるのかもしれないな。
例えばてっちりなんかが沖縄にあったら「ふぐ汁」と呼ばれていたかもしれないし、ハリハリ鍋だって「くじら汁」、水炊きだって「魚汁」と呼ばれていたかもしれないのだ(もちろん煮込んで味を調えた上で丼に入って来るんだけどね)。

それに比べて沖縄は、もう戸惑ってしまうくらい汁物のバリエーションが豊富なのである。丼いっぱいで量も多いし、具もたっぷり。質も高い。

暑いのに何故熱い汁が発展したのか……「実はのどの渇きは冷たいものでは取れない」という暑い国なりの深い思想が根底にあるらしいが、そんなことはどうでもいい。汁物好きなボクとしては喜ばしい限りなのである。朝は味噌汁が欠かせないし、外国行ってもスープは必須なボクであるからして。

え? で沖縄にはどんな汁物があるのかって?
うーん、想像つきにくいと思うけど、例えば新宿とかに「創作丼屋さん」があったりするじゃないですか。麻婆丼に始まって、おでん丼とかステーキ丼、唐揚げ丼にトムヤム丼……なんかそういう創作丼に近いような、創意工夫溢れる汁丼がずらっと並んでいるのである。

試しに有名かつ独立した料理である沖縄汁物で野球の打順を組んでみよう。


 オキナワ・シルモノズ

  1 てびち汁

  2 中味汁
  3 アバサー汁
  4 山羊汁
  5 イラブー汁
  6 イカスミ汁
  7 イナムドゥチ
  8 アーサ汁
  9 味噌汁

  代打 あひる汁
     薬草汁
     ムジ汁
     ソーキ汁


わかんねーだろうなぁ。

だから軽く説明しよう。
読み終わった後、「汁物を食べるだけのために」沖縄行きのチケットを買っているあなたが目に見えるようである。

●1番センター てびち汁

強打者である。その強烈。その滋養。その粘り。その謙虚。すべてに渡って申し分なし。てびちとはいわゆる豚足であるから確かに慣れない人にはグロテスクにも見える。でも騙されたと思って一口噛んでごらん。プニプニでムチムチでコリコリで、あなたが豚足に持っていたイメージがことりと崩れ落ちること必定。一見脂肪が多そうに見えるが、実はほとんどたんぱく質だし、とろとろしたゼラチン質の部分は関節に効き老化をふせぐと言われている。肌にもとてもいいらしい。沖縄の老人が足腰丈夫で肌がつやつやなのは、てびちのせいもあるだろう。
まぁ栄養の部分は無視してもいい。とにかく味が素晴らしい。あー、こう書いていてもキーボードが涎でベトベトになりそうである(きたない)。
打率よし、長打力あり、足もある。文句無しの先頭打者である。

●2番セカンド 中味汁

ああ、これまた絶品だ。沖縄では豚の内臓のことを「中味」というんだけど(素晴らしいネーミングセンス!)、腸や胃、レバーや心臓などいろんな内臓をすべてごった煮にしているのに、実に清澄、清廉、清潔。じっくり何時間もかけて洗うからだろう、生臭みというものがほとんどない。鰹ベースの澄み渡ったスープを一口含むとプーンと豚と鰹が一体になった香りが香ってきて見事なコクとなって口の中を支配するのだ。あぁ……。
内臓自体もコリコリと実にうまい。まぁ焼き肉で言ったらミノとかセンマイの部分も入っているから歯ごたえがいいのだ。ポピュラーな料理なので大衆食堂でもどこでも食べられるが、大衆食堂は下ごしらえ(臭み抜き)に手を抜いているところも多い。でも、ボク自身はちょっと臭めの方が好きだから、わりと大衆食堂で食べるな。

一見地味っぽいけど、攻守の要として2番セカンドがふさわしい。

●3番サード アバサー汁

アバサーってのはハリセンボンのこと。本土では食べないよねー。でも、こちらでは実によく食べる。ふぐの仲間なんだけど、毒がない。で、ふぐなら毒がある肝を泡盛と味噌でもんで汁に溶かして煮込むわけ。そう、スープに肝が溶け込んでいるのである。うまそーでしょ? もうその深いコクといったらてっちりなんて目ではない滋味とインパクト。あっさり豊かで全くうまい。うまひゃひゃなのだ。
身が少ない魚なんだけど、唐揚げもまたうまい。ふぐの唐揚げが絶品なのと同じ。公設市場の二階に行ったら、いっつも汁にするか唐揚げにするか迷ってしまうのである、アバサーを。「のぼせ」の特効薬としても飲まれていて、実際よく効くらしい。
長打で打点を稼ぐ、大物3番バッターである。

●4番ファースト 山羊汁

4番打者はちょっとくらいムラがあってもいい、とボクは思っている。でも当たればでかい。そういう威圧感が大切だ。その点ヤギの汁は威圧感抜群だ。特に本土の人にとって。その漂ってくる匂いにまず圧倒されるだろう。でもそれがクセになる。食べ慣れるとこんなにうまいものはないそうなのである(ボクもまだそこまではいっていない)。

当たれば長打。大ホームラン。忘れられないインパクトを観衆と相手ピッチャーに残し、その存在感は他を圧してしまう。要はそういう汁なのだ。とにかく強烈な個性が匂う。はまればうますぎる。しかも即効性まである。血圧が高い人には絶対食べさせてはいけない、と言われているくらいの即効性だ。もうどうにもとまらない。山本リンダ系大打者なのである。

●5番ショート イラブー汁

ピッチャーの伊良部が一見悪役そうなのと一緒で、このイラブーも見た目は悪い。なにしろ「海ヘビ」なのだ。永良部うなぎ、とも呼ばれていたらしいが、だんだんイラブーという愛称になったのだな。まぁ生きている時の性格は知らない。でも真っ黒に薫製された後の彼はとことんいい奴である。静かでおっとりしていて、見た目と全然違うのだ。囓るとちょっと身欠きニシンっぽいが、イラブーから出たダシはドクダミとコンソメの間みたいな香りで、オーバーでなくめちゃうまい。口に含んだ瞬間、なぜこの料理が全世界的に知られていないのだろう、と遠い目をしながらぼんやりしてしまう。これだけ食べに沖縄まで航空券を払いたいくらい。しかも強壮食として最高に珍重されてきた歴史もある。
オキナワ・シルモノズに束縛していないで、大リーグなどに貸し出しして世界にその実力を知られるべき逸材である。派手さはないが、シュアーな5番打者である。

●6番ライト イカスミ汁

黒い。見事に黒い汁の中に、イカや豚や苦菜が入っている。なーんだイカスミ・スパゲティとかのソースと同じ味だろう、と思ったらさにあらず、豚でダシを取っているからコクがあり深みがあるのだ。唇が黒くなるのも構わずズズズとやると、とろ〜と滑らかな舌触りと共に潮の香りがいっせいに口の中で暴れ出す。鮮烈だ。イカスミ・スパゲティとは比べ物にならないほどの潮の香り。ひょっとしてイカ料理として最高峰に位置するのではないか、と思うくらい、イカ本来の香りがびっしり詰まっているのだ。イカス!
優子が言うには「私なら1番に置くわね」とのこと。優子の大お気に入りなのだ。確かに6番では惜しいかもしれない。

●7番キャッチャー イナムドゥチ

汁、という単語がついていない。でもこれもたいへんポピュラーな汁だ。昔はお祝いの席で出されていたものらしいがいまでは大衆食堂でもある。イナはイノシシ、ムドゥチはもどきらしいから、訳せば「イノシシもどき」。もともとはイノシシ汁だったのが豚に変形したのかもしれない。具はイノシシ代わりの豚の三枚肉に、椎茸、かまぼこなどだが、白味噌仕立てのどこか懐かしい味で、思わず「おかぁーさ〜ん」的ハナマルキ味なのだ。
バランスがいいしなんだか安心できるから、ボクは大衆食堂でよく注文する。インパクトはないが、実にシュアー。他のチームなら十分4番が打てるこのバッターが7番というあたりがオキナワ・シルモノズの驚異を物語っている。

●8番ピッチャー アーサ汁

ピッチャーは冷静に限る。ということで、汁物唯一の「冷製」である(しょーもな!)。アーサとは「あおさ」。ひとえ草というらしい。まぁ海苔とワカメの間みたいな感じで、それを鰹だしのさっぱりスープに豆腐と賽の目切りと一緒に浮かべるのである。実にさわやか、実に新鮮。取り立てのアーサは特に潮臭く、胃の中でザバーと波打つ音が聞こえるようだ。意外なことにこの暑い沖縄で冷たい汁はこれだけなのである。そのせいもあるが、シンプルながらとっても強い印象を残す。
主食にはならない分、力では劣るが、スカッと胃袋のコーナーをつくピッチングで、チームを引っ張るのである。

●9番レフト 味噌汁

地味である。それは本人も承知している。でも、とにかくよく働く。めちゃくちゃ具だくさんで、丼一杯闇鍋状態。どんより漂う味噌の幕の向こうに一体なにが隠れているのか、興味津々食べ進むと、ひょえっとばかりにてびちが出てきたり、田芋が出てきたり、フーチバが出てきたり……意外性でも他を圧する。応用も利くし、状況判断もできる。そしてなによりうまいから、誰にでも人気があるのである。他の章でも説明したが、本土で言う味噌汁とは器が違う。量的にも質的にも全然違う、独立したおかずなのである。
その働きから言って2番バッターでも十分通用するが、敢えて9番にすえて上位打線へのつなぎに使いたい。


どうです?
どっからでも点が取れる超強力打線でしょ?
そしてまた代打陣も充実しているのだ。


●「あひる汁」は代打の切り札。文字通りあひるの肉をたっぷり入ったものでフーチバとのバランスも見事。普通の鶏肉よりずっと濃い味、かつ、そんなにクセがないので誰でも抵抗なく食べられると思う。一打逆転を狙える巧打者だ。

●「薬草汁」は沖縄特有の苦うま系薬草をふんだんに入れた青汁的汁物。そのインパクトと言ったら一度食べたら忘れられないほど。食道から直腸まですべてが青く染まる。走者一掃ならぬ、腸者一掃! 便秘なんかひとっ飛びの長打系ヒッターである。

●「ムジ汁」は芋の汁。芋が主食だったころ、沖縄の家庭でとってもよく食べられていた汁物らしい。つまりは縁の下の力持ち。ちょっと甘くてどろどろしていてとっても素朴だ。小技で責めたいときなど重宝する。

●「ソーキ汁」。長距離ヒッターだが、ムラがある。脂っぽすぎる汁が増えすぎている。でもちゃんとした店ではきれいに脂を抜いて、泡盛で臭みも抜いて、しっかり作ってある。そういう店のものなら、完璧にレギュラー打者なのである。ムラを克服すれば一気に4番も目ではない。


あぁ、他にもまだありそうだが、このくらいしかボクが食べたことがない。
でも、そうそうたるメンバーでしょ。この汁物の現状は本土からは考えられない。本当に感服してしまう。


困るのはただひとつ。
どれもこれもうまいから、オーダーに迷うのだ。
これら汁物がすべてメニューに並んでいたら、ボクは懊悩したあげく食べずに店を出てしまうのではないか、と思うくらい迷う。
悩んだあげくどれかに決断するのだが、それを食べている間中、「やっぱりあっちを頼めば良かったかな」などと後ろ髪を引かれまくってしまうのである。

どこかの料理店で「汁物ヌーベル・キュイジーヌ」みたいな感じで、どの汁物も少しずつ出してくれる汁物会席をしてくれないであろうか。

そんな店があったら、飛行機代など惜しくないのだ。いや、ほんと。

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