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冷たいすばはなぜないか

双葉社刊「沖縄大衆食堂」への寄稿より



ボクは「麺は冷たいのに限る」と意固地に思っている変わり者である。

ええ、風邪のときは温かい麺も食べますよ。でもでも、麺の魅力だけ考えるとぜぇ〜ったい冷たい麺のほうが快感があるのである。それはもう断言してもいい。日本そばだって温めちゃうとコシはなくなるわ香りは飛ぶわだし、わが愛しのさぬきうどんだって、あの驚異的な口中快感を味わうためには冷たい麺が必須だ。いやラーメンだって「麺のうまさを味わう」ということに限ればつけ麺のほうがうまいと思っているのである。沖縄そばだって、そうであろう。そのはずではないか。


だが、沖縄そばには「冷たい麺」という概念がない。いや、そういうものを出している店もある。が、それはほとんど創作すばの趣を呈した特別版だ。なぜだ!?


沖縄では昔から「すばはダシを食べるもの」と言われているらしい。確かにスープの魅力を知るには熱い方がいいのかもしれない。だが、半端でなくお暑いお土地柄である。なにが悲しゅうて大汗かきながら熱々フーフーなものを食べなくてはいかんのだ?(暑いところこそ温かいものを食べたほうがカラダにいい、というような論議はこのさい置いておこう)。なぜ麺の魅力がストレートに味わえる冷たいすば(例えば「ざるすば」とかさ)がもっと普及していないのだ!!


怒りにも似たその疑問を身体中にたぎらせながら、ボクは沖縄そば屋をまわったものである。いや正確にいうと、あのゴワゴワでモチモチでフニフニでブチッ!と切れる独特の食感はどこからくるのかを知りたくて食べ回っていたのであるが、でも脳みその隅っこにはいつも「なぜ冷たいすばがない」という疑問が「巨人の星」の花形と戦う星飛雄馬の目のように燃えさかっていたのである。東京からわざわざ飛行機で往復し、100軒程度沖縄そば屋をまわったが、やっぱりないのだ、どこにもないのだ、正しい冷たいすばが! なぜじゃあ〜!


その答えはいまだに明らかではない。ただ「もしかしたらこうかも」という私論はある。それは「麺を茹で上げた後、冷水にさらさず、油をふってそのまま自然放置するという沖縄そば伝統のつくり方」によるのではないか、という推測である。


そう。すごいのだ。沖縄そばはなんと茹で上げたあと冷水にさらさないのだ(釜揚げうどんもそうだが、あれはそのまますぐ食べるから良い)。例えばうどんを自然放置したら余熱が芯まで通って麺はノビノビになってしまう。なのに沖縄そばは「油をふって冷めるまで自然放置」という超荒技を伝統としているのだ。あの独特の食感はどうもここから来ているようなのである。


そうしてできあがった麺はそのまま食べたらかなりマズイ。冷たいまま食べたら激まずいのだ。自分で実験したからよくわかる。温かい汁になじませてようやくおいしくなる。そう、それが「冷たいすばがない理由」だとボクはにらんでいるのだが、すまんが責任はまるで持てない。でもそう思う。それしか考えつかん。


しかーし! いまやその伝統のつくり方(灰汁を使うとかも含めて)も音を立てて崩壊しつつある。「こりゃすばというよりラーメンでしょ」みたいな沖縄そばがはびこっているのだ。


それでいいのか、沖縄そばよ!


たとえ冷たいすばがなくても、あの独特の食感だけはしっかり守ってほしいと願うボクなのである。

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