「あなただけ今晩は」
Irma La Douce
Billy Wilder
Jack Lemmon, Shirley MacLaine, Lou Jacobi, Bruce Yarnell, Herschel Bernardi, Hope Holiday
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1963年製作
143 minutes
| 製作・監督・ | ビリー・ワイルダー |
|---|---|
| 脚本・・・・ | ビリー・ワイルダー I.A.L.ダイアモンド |
| 撮影・・・・ | ジョーゼフ・ラ・シェル |
| 音楽・・・・ | アンドレ・プレヴィン |
| 美術・・・・ | アレクサンドル・トローネル |
| キャスト・・ | シャーリー・マクレーン ジャック・レモン ルー・ジャコビ ブルース・ヤーネル ハーシャル・バナディ |
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映画監督の中で一番好きなのは誰かと聞かれたら、いの一番にビリー・ワイルダーと答えるでしょう。
そして、じゃぁ彼が撮った映画の中で一番は? と聞かれたら、迷わずコレです。「あなただけ今晩は」。原題を直訳すると「やさしいイルマ」。
どの映画が一番?に関しては異論もあるでしょうね。
「サンセット大通り」「麗しのサブリナ」「七年目の浮気」「翼よ!あれが巴里の灯だ」「昼下がりの情事」「お熱いのがお好き」「アパートの鍵貸します」……
どれもいいですよねぇ。
特に彼がI.A.L.ダイアモンドと組んで脚本を書いていた57年から81年までの12本。
大魅力的作品群です。ため息もの。
ほとんどが一般に「艶笑喜劇」なんてくくり方をされちゃうタイプの映画なんですが、そんな俗な言葉でくくるのは失礼ですよね。これぞ映画だよなぁ、と観る度に遠い目になってしまいます。
「艶笑喜劇」の巨匠としては、フランク・キャプラ監督やエルンスト・ルビッチ監督の存在をまずあげる方がいらっしゃいますが、ワイルダーのそれは「単なる粋(イキ)にとどまらない人間臭さ」があってより厚みがあると思います。そう。もっと深いんですね。
それにもかかわらず、これらの作品群は世から軽く見られがちなんです。
「軽い笑い」に満ちているからかな。シリアスをきどっている底の浅い作品なんかよりずっと深いのに。見た目で損しているよなぁ、ワイルダー作品。題名もたいがい軽いし。
でも「軽い笑い」って我々の人生にとってすごく大事ですよねぇ。
観た人をちょっと明るくさせる「軽い笑い」。
観た人にちょっと生きていく勇気を与える「軽い笑い」。
観た人にちょっと日常を忘れさせる「軽い笑い」。
観終わってなんか晴れ晴れ気が軽くなる、そんな映画こそ映画なんだ、とビリー・ワイルダーは言っているような気がします。映画っていうのはその程度のものなんだよ、って。
人の人生に影響を与えようとか感動させようとかそんなことを考えず、軽く、あくまでも軽くストーリーを進めていったワイルダー。ボクはその「軽さ」に彼の重い確固たる主張を感じるのです。
この映画の魅力の一方に脚本があるとすると、もう一方はキャストですね。
ボクのモスト・フェバリットの一人、シャーリー・マクレーンの魅力を抜きにしてこの映画は語れません。
なぜこれでオスカーを取れなかったのか本当に不思議なほどの名演(そこらへんについては川本三郎著「アカデミー賞」に詳しい。おもしろいから是非読んでください)。
だいたいもともと好みのタイプなんです。決して美女とは言えないけどコケティッシュで華があります。
そしてジャック・レモン。
こんな見ているだけでやるせない俳優って他にいますか? なんとも素晴らしい。
でも、この哀愁に満ちた二人の共演って意外なことにこれと「アパートの鍵貸します」の2本なんだってねえ。なんかもっともっと共演しているイメージがあるくらい存在感のあるカップルですよね。
それにしてもこの映画におけるシャーリー・マクレーンはいいよなぁ〜。
全身緑に包んだコスチュームで現れ(余談ですが、この映画の基調カラーは緑。タイトルも、そしてフェイドアウトも緑にフェイドアウトする徹底さ。←和田誠氏の解説による。僕はそこまでは気がつかなかった)無表情と喜怒哀楽の間を上手に行き来し、なによりそのハスッパな空気感がいい。地もあるんだろうけどね。
セリフもいいし、音楽もいい(もともと舞台ミュージカルだったそうです)。美術セットもいい(あのパリの街角は全部セットなんですと)。
セリフがいいといえば、狂言回しとして重要な役どころに登場するバー「ムスタッシュ」のマスターが要所要所でカメラ目線でつぶやく「それはまた別のお話」というセリフ。これって映画の本質をついたようなセリフだと思うのです。いろんな別のお話が編み込まれたもの、それが映画だと思うのですよ。いろんな人生がつまったもの。
---余談だけど、このセリフ、「ネバーエンディング・ストーリー」でも要所要所で使われていましたね---
さて。
ビリー・ワイルダー監督とこの映画の魅力をこんな風に述べていったら、ものすごく長くなってしまうので、やめます。
でも最後にワイルダー監督の大好きなエピソードを紹介させてください。前出の川本三郎著「アカデミー賞」(中公新書)に出ていたアカデミー賞の受賞時の彼のスピーチです。ちょっと長いけど引用させていただきます。
スピルバーグに続いて87年度のアーヴィング・タールバーグ賞を受賞したビリー・ワイルダー監督のスピーチも素晴らしいものだった。 ジャック・レモンからタールバーグ賞のトロフィー(これはオスカーとは違ってタールバーグの胸像)を受け取ったこの老名監督は、何百万人ものファンに感謝するといったあと「とりわけウィル・ロジャースに似た名前もわからないアメリカ人の紳士に感謝したい。彼がいなかったらいまの私はない」とこんなエピソードを語った。 ビリー・ワイルダーは1943年にナチス・ドイツを逃れてアメリカに亡命しようとした。しかしメキシコでアメリカへの正式入国許可証がないことがわかった。彼はメキシコのアメリカ領事館へ出頭した。ここでヴィザが降りなかったら彼はドイツに送り返される。それは死を意味する(彼の母親はアウシュヴィッツで死んでいる)。不安な気持で彼は一人のアメリカ人の役人の前に立った。役人は職業は何かと聞いた。ビリー・ワイルダーは「ライト・ムービーズ(映画の脚本を書く)」と答えた。すると役人は「いいのを書くんだ」といって入国許可証をくれた。 「それ以来、私はいい作品を書くように努力してきた。あの名前もわからないアメリカ人のおかげでいまの私がいる。彼に感謝したい」。授賞式の会場じゅうが大きな感動の拍手に包まれた。
そしてボクも、その「ウィル・ロジャースに似たアメリカ人」に、感謝したい。
【1997年6月記】
1997年06月01日(日) 19:30:54・リンク用URL

@satonao310