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チャイコフスキー「交響曲第6番"悲愴"」
Tchaikovsky
Symphony No.6 in B minor. Op.74 "Pathetique"
Herbert von Karajan
Vienna Philharmonic Orchestra
ヘルベルト・フォン・カラヤン
ウィーン・フィルハーモニー管弦楽団
1984録音/Grammophon
ボクの交響曲初体験は、これでした。
もちろん「こども名曲全集」みたいな「おいしいとこ取り」のレコードは親から与えられて聞いていたけど、全曲通して交響曲をちゃんと聞き、何回も親しみ、ほとんど覚え・・・など、いわゆる「聴いた」のはたぶんこれが初めて。
あれは中学一年のことでした。
中学受験をした結果、地元大森から渋谷まで電車で通うはめになったボクは「電車通学仲間」が出来たんだけど、その中のひとりが同じラクビー部のU(鶴見に住んでいた)だったんですね。
そして、彼はこの「悲愴」のスコア(楽譜)を持ち歩いていたのです。
中学生の頃って妙に太宰治の「人間失格」とかがはやったりするじゃないですか。
それと同じ感覚で「悲愴」も一部で流行していました。
たぶんに題名の影響だと思うのだけど、中学のときの気分にあっているんですよね、ああいう厭世的で「人生の暗い面」を感じさせてくれるような題名って。
で、聞いてみると、わりあい「わかりやすい」。
クラシック初心者にも「親しみやすい」。
そう、太宰と一緒。
チャイコフスキーって、「クラシック界の太宰治」なんです。
彼を読む(聴く)ことが、中学生にとって、ちょっとしたステイタスになる感じ。
ちょっと自意識が出来ていた中学生はみんな「太宰にチャイコ」だったもんなぁ。
で、ラグビー部のUもきっとそうだったのでしょう。
ただ、彼の場合スコアを持って歩いていたのが人と違う。行き帰りの電車の中でスコアを広げては口ずさんだりしていました(ちょっとキザ。でもキザに見えにくいタイプのヤツだけど。体型含めて)。
ピアノをちょっと習っていたボクもスコアは読めないことはなかったんだけど、クラシックのスコアがあんなに難しいものとは知らなんだ。バイオリンからペットからティンパニーまで並列で書いてあるんですねぇ。それを読んで理解している(ように見えた)Uを尊敬の眼差しで見たもんです。
クラシックかぁ・・・
なんだか教養音楽みたいで抵抗あったんだけど、「悲愴」という題名も素敵だしなぁ・・・
見栄もあってなんとかレコードを手に入れ、何回も何回も聴く毎日。
そんなこんなで、「悲愴」はいつのまにか暗記していました。
もうめったに聴かなくなった今でも、ふとお馴染のメロディーが頭に流れることがあります。あの年代に覚えたものは一生忘れないよね。
それはもうボクの身体に染みついたと言ってもいいでしょう。
美しくも優雅、そして静かな第一楽章。
涙がちょちょ切れる第二楽章。
勇壮果敢に謳歌する第三楽章。
激しくおののき、そして静謐に沈澱する第四楽章・・・
交響曲って美しいなぁ・・・いま聴き返してみてもちょっと感動します。
その「わかりやすさ」からか「悲愴」ってちょっと世の中から軽く見られているところがあると思うのだけど、やっぱり美しさは抜群ですね。今回何回か聴きなおしてみてその思いを新たにしました。
うん、やっぱり「悲愴」はいい!
さて。
ボクにとって「悲愴」=カラヤン、なんです。
入口がカラヤン、ということもありますが、他の人の「悲愴」も聴いてみても、やっぱりカラヤンに帰ってくるんですね。
カラヤンは、実はつい最近までどちらかというと嫌いでした。
でも最近、あの「形式美」というか「けれん」というか「細部の美しさ」というか、とにかく「極限まで美しさを引き出す姿勢」というのを急に理解できる感じがしてきたのです。歳を取ったのか・・・昔は愚劣だと思っていたカラヤンの指揮ぶりが、なんだか心地よく思えてくるようになりました。
特にこの1984年録音の「悲愴」は(カラヤン7度目の録音)、その美しさにおいて頂点を極めていると思います。
美しく歌いすぎているという批判もあるでしょう。
そんなチャイコフスキーはニセモノだと。
でも、美しくて何が悪い? これを聴くたびに思います。
「悲愴」は美しくていいんです。ボクの中で。
だって、メロディも主張もすべて身体に染みついているんだもん。いまさら指揮者の新たな解釈も何も欲しくない。
ただ、美しく、細部までものすごく美しく、奏でてほしい・・・。
このCDは、そういう意味で、ボクにとっては「完成品」なのです。
p.s.
悲愴第四楽章の謎という興味深いコラムを三浦研さんが書いておられます。
こちらで、どうぞ。ちなみに三浦さんのトップページはこちら。いろいろ面白いです。
【1998年12月記】
1998年12月01日(火) 22:49:44・リンク用URL
@satonao310